役立たずと捨てられた魔力供給者は隣国の覇王に拾われて離してもらえません ~最強の騎士たちにも囲まれていつの間にか世界を救っていた件~

たら昆布

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15話

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 ルベリス帝国の城の北側には、ガラス張りの大きな温室がある。
 そこには世界中の珍しい植物が集められているのだが、近頃、一部の区画だけはどうしても花が咲かず、庭師たちが頭を抱えていた。

「どうしたの? みんな、元気がないみたい……」

 サフィエルと一緒に温室を散歩していたトアは、しおれたように首を垂らす白い小花たちの前で足を止めた。
 肩に乗ったキリも、心配そうに「キュイ……」と鳴いて、トアの頬を擦り寄せる。

「ここは魔素の流れが淀んでいる場所でね。ベテランの魔導師が術を施しても、なかなか根付かない気難しい花なんだよ。……トア、あまり悲しまないでおくれ」

 サフィエルが慰めるようにトアの肩に手を置いたが、トアはじっとその花を見つめていた。
 セフィリア王国にいた頃、冷たい雨に打たれる自分を唯一励ましてくれたのは、路傍に咲く名もなき草花だった。

「……頑張って。ここはとっても温かくて、優しい場所なんだよ」

 トアは吸い込まれるように、その枯れかけた茎にそっと指先を触れた。
 ――咲いて。みんなを、もっと明るい気持ちにさせて。

 その瞬間、トアの体から柔らかな、すみれ色の混じった黄金の光が波紋のように広がった。
 光は温室の隅々まで染み渡り、ガラス越しに差し込む陽光と溶け合って、空間全体がキラキラと輝き始める。

「……っ、これは!」

 サフィエルが眼鏡を押し上げ、驚愕の声を上げた。
 トアが触れた花が、まるで見えない魔法の雨を浴びたかのように、一気に茎を伸ばし、ふわりと大輪の花を咲かせたのだ。
 それだけではない。温室中のすべての蕾が、競い合うようにして一斉に開花し始めた。

 そこへ、トアの魔力の波動を感じ取ったグレンディルとイザークが、息を切らして駆け込んできた。

「トア! 無事か!? 急激な魔力の放射を感じたが――」

 二人の言葉が、目の前の光景によって遮られた。
 そこには、色とりどりの花々に囲まれ、自分自身の起こした奇跡に目を丸くしているトアが立っていた。
 トアの足元からは、見たこともないほど澄んだ香りが立ち上っている。

「陛下……イザーク様。あの、お花が……咲きました!」

 トアが嬉しそうに振り返ると、その髪にはいつの間にか、一輪の小さな白い花が飾られていた。キリが器用に手折って、トアの髪に挿したのだ。

「……信じられん。この区画は十年以上、誰も花を咲かせられなかった場所だぞ」
 イザークは感嘆し、その場に膝をついてトアを見上げた。

「トア。お前はやはり、春を連れてくる精霊そのものだな。……私の荒んだ心に花を咲かせたのも、頷ける」
 グレンディルは、感極まったようにトアを抱き上げ、高く掲げた。

「わぁっ! 陛下、恥ずかしいです!」
「恥ずかしがることはない。お前の光は、この国のすべてを癒やす希望だ」

 サフィエルも、手帳に何かを書き留めながら、優しく微笑んだ。
「これでまた一つ、君を守るための理由が増えてしまったね。……さあ、陛下。トアのおかげでこんなに綺麗な花が咲いたんです。今日はお仕事を早めに切り上げて、この花に囲まれてお茶にしませんか?」

「……フン。たまには賢者の言うことに従うのも悪くない」

 温室に満ちる花の香りと、トアの清らかな魔力。
 最強の男たちは、トアという一人の少年がもたらす「穏やかな奇跡」に、今日も心ゆくまで酔いしれるのだった。
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