役立たずと捨てられた魔力供給者は隣国の覇王に拾われて離してもらえません ~最強の騎士たちにも囲まれていつの間にか世界を救っていた件~

たら昆布

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17話

 グレンディルに一番最初のしおりを渡した翌日。
 トアは残りの二枚を手に、少しだけワクワクしながら廊下を歩いていた。
 肩の上のキリも、トアの弾む心に合わせるように「キュイキュイ」と軽快に鳴いている。

「あ、イザーク様! サフィエル様!」

 中庭へ続く回廊で、ちょうど二人が並んで歩いているのを見つけた。
 真面目な顔で何かの協議をしていたようだが、トアの声を聞いた瞬間、二人の表情は一瞬で「緩みきった保護者」のそれに変わる。

「トア殿。……そんなに急いで走っては転びますよ。ほら、私の腕に掴まって」
 イザークが即座に駆け寄り、トアのバランスを支える。

「おや、トア。今日は何かいいことがあったのかい? 目がとてもキラキラしているね」
 サフィエルも優しく目を細め、トアの髪を整えてやる。

「あの、これ……お二人に。昨日、頑張って作ったんです」

 トアは、大切に持っていたしおりを差し出した。
 誠実な青い花のしおりをイザークに。知的な紫の花のしおりをサフィエルに。

「これは……押し花、ですね。しかも、君の魔力が込められている……」
 サフィエルが、そのしおりを透かして見ると、紫の花びらが脈動するように淡く輝いた。

「私に……このような繊細な贈り物を? ……剣を振るうことしかできぬこの手に、勿体ないほどの品だ」
 イザークは、しおりを掌の上に乗せ、まるで国宝を扱うような真剣さで見つめている。

「いつもお勉強を教えてくれるサフィエル様と、僕を守ってくれるイザーク様にお礼がしたかったんです。……使って、くれますか?」

 トアが上目遣いで尋ねると、二人の返事は同時だった。

「「もちろんだ(よ)!!」」

 あまりの勢いにトアが肩を揺らすと、二人はハッとして少しだけ咳き込んだ。
 
「私は……このしおりを挟むためだけに、今日から新しい本を読み始めよう。トア殿が選んでくれたこの『青』を、一日に何度も眺められるように」
「それなら僕は、一番大切な魔導書の栞にしようかな。……ああでも、使うのが勿体ないね。額に入れて飾るべきかな?」

 サフィエルが本気で悩み始めると、イザークが少しだけ不満げに眉を寄せた。
「サフィエル、トア殿は『使ってほしい』と仰っているのだ。飾るのは彼の意に反するだろう」
「分かっているよ。ただ、君のような無骨な男が持っているより、僕のような学究の徒が持っている方が、このしおりも映えると言いたいだけさ」

 トアを巡る、いつもの「静かな火花」が散り始める。
 けれど、トアにはそれが喧嘩ではなく、自分を想ってくれているからこそのやり取りだと分かっていた。

「ふふっ。お二人とも、仲良しですね」

 トアの無邪気な一言に、イザークとサフィエルは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。
「……トア殿にそう言われては、反論できませんな」
「そうだね。……君の魔法は、僕たちのトゲを全部抜いてしまうんだから、困ったものだよ」

 二人は、それぞれのしおりを大切に胸のポケットに仕舞うと、トアの両手を引いて歩き出した。
「さあ、トア。お礼に、今日は特別に美味しいお茶菓子を用意させよう。イザーク、お前はトアの護衛だ。変な虫がつかないよう、しっかり見張っておけよ」
「言われずとも。トア殿、行きましょう」

 トアを中心に広がる、温かくて少しだけ騒がしい輪。
 一輪の花から始まった小さな贈り物は、最強の男たちの絆を(少しの嫉妬を交えつつも)より一層深く結びつけていくのだった。
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