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23話
馬車が帝都の中央広場近くで止まると、扉が開かれた瞬間に、お祭りの熱気が心地よい風と共に流れ込んできた。
トアが慎重にステップを降りると、そこには石畳をオレンジ色に染め上げる、数え切れないほどの灯籠の道が続いていた。
「わぁ……。陛下、見てください。足元までキラキラしています!」
トアは、まるで光の川の上を歩いているような感覚に、思わず足を止めて見入ってしまった。
グレンディルは、そんなトアが人波に呑まれないよう、自然な動作でその背に手を添える。
「迷子になるなよ、トア。……イザーク、サフィエル。前後の警戒を怠るな。といっても、トアを疲れさせるような仰々しい真似はするなよ」
「心得ております、陛下」
イザークは、平民に紛れるための外套を羽織りつつも、その鋭い眼光でトアの周囲に「目に見えない安全圏」を作り出している。
トアが歩き出すと、左右の屋台からは香ばしい匂いが漂ってきた。
お肉が焼ける匂い、スパイスの香り、そして何よりも甘い蜂蜜の香り。
「トア、あそこを見てごらん。あれはこの祭りの名物、『星のわたあめ』だよ」
サフィエルが指差した先には、魔法で細く引き伸ばされた飴細工の中に、光る粉(食べられる精霊石の粉末)を混ぜ込んだ、不思議な綿菓子があった。
「星の……わたあめ? ふわふわしてて、雲みたいです」
「食べてみるかい? 店主、一つ……いや、ここにある分をすべて貰おうか」
「サフィエル様、一つで大丈夫です! みんなで分けて食べたいですから」
トアが慌てて止めると、サフィエルは「ふふ、そうだね」と楽しそうに笑い、大きな綿菓子を一つ買い求めた。
トアはそれを大切に受け取ると、一口、そっと口に含んだ。
「……っ! 甘くて、しゅわって溶けちゃいました。それに、なんだか体がポカポカします」
「それは微量の魔力が含まれているからね。トアの魔力とも相性がいいみたいだ」
トアは、自分が食べた後の綿菓子を、少し照れながらグレンディルの方へ差し出した。
「陛下も、どうぞ。とっても美味しいですよ」
グレンディルは一瞬、公衆の面前で菓子を口にすることに躊躇いを見せたが、トアの純粋な瞳に見つめられ、観念したようにその甘い塊を一口食した。
「……ふむ。悪くない。お前が笑う理由が分かる味だ」
その隣で、イザークが少しだけ羨ましそうにしているのをトアは見逃さなかった。
「イザーク様も、はい! あー、してください」
「っ!? ……あ、あー……。……感謝いたします、トア殿。……生涯、忘れぬ味になりそうです」
厳格な騎士団長が、綿菓子一口で耳まで赤くしている光景は、側から見れば何とも微笑ましい。
キリも隙あらば一口貰おうと、トアの肩で「キュイキュイ」とアピールを欠かさない。
華やかな音楽、色鮮やかな灯籠、そして隣にいる大好きな人たち。
トアは、自分がかつて「外の世界」をあんなに怖がっていたことが嘘のように、この夜のすべてを愛おしく感じていた。
一行は、さらに賑わいを増す広場の中心部へと、ゆっくりと歩みを進めていった。
トアが慎重にステップを降りると、そこには石畳をオレンジ色に染め上げる、数え切れないほどの灯籠の道が続いていた。
「わぁ……。陛下、見てください。足元までキラキラしています!」
トアは、まるで光の川の上を歩いているような感覚に、思わず足を止めて見入ってしまった。
グレンディルは、そんなトアが人波に呑まれないよう、自然な動作でその背に手を添える。
「迷子になるなよ、トア。……イザーク、サフィエル。前後の警戒を怠るな。といっても、トアを疲れさせるような仰々しい真似はするなよ」
「心得ております、陛下」
イザークは、平民に紛れるための外套を羽織りつつも、その鋭い眼光でトアの周囲に「目に見えない安全圏」を作り出している。
トアが歩き出すと、左右の屋台からは香ばしい匂いが漂ってきた。
お肉が焼ける匂い、スパイスの香り、そして何よりも甘い蜂蜜の香り。
「トア、あそこを見てごらん。あれはこの祭りの名物、『星のわたあめ』だよ」
サフィエルが指差した先には、魔法で細く引き伸ばされた飴細工の中に、光る粉(食べられる精霊石の粉末)を混ぜ込んだ、不思議な綿菓子があった。
「星の……わたあめ? ふわふわしてて、雲みたいです」
「食べてみるかい? 店主、一つ……いや、ここにある分をすべて貰おうか」
「サフィエル様、一つで大丈夫です! みんなで分けて食べたいですから」
トアが慌てて止めると、サフィエルは「ふふ、そうだね」と楽しそうに笑い、大きな綿菓子を一つ買い求めた。
トアはそれを大切に受け取ると、一口、そっと口に含んだ。
「……っ! 甘くて、しゅわって溶けちゃいました。それに、なんだか体がポカポカします」
「それは微量の魔力が含まれているからね。トアの魔力とも相性がいいみたいだ」
トアは、自分が食べた後の綿菓子を、少し照れながらグレンディルの方へ差し出した。
「陛下も、どうぞ。とっても美味しいですよ」
グレンディルは一瞬、公衆の面前で菓子を口にすることに躊躇いを見せたが、トアの純粋な瞳に見つめられ、観念したようにその甘い塊を一口食した。
「……ふむ。悪くない。お前が笑う理由が分かる味だ」
その隣で、イザークが少しだけ羨ましそうにしているのをトアは見逃さなかった。
「イザーク様も、はい! あー、してください」
「っ!? ……あ、あー……。……感謝いたします、トア殿。……生涯、忘れぬ味になりそうです」
厳格な騎士団長が、綿菓子一口で耳まで赤くしている光景は、側から見れば何とも微笑ましい。
キリも隙あらば一口貰おうと、トアの肩で「キュイキュイ」とアピールを欠かさない。
華やかな音楽、色鮮やかな灯籠、そして隣にいる大好きな人たち。
トアは、自分がかつて「外の世界」をあんなに怖がっていたことが嘘のように、この夜のすべてを愛おしく感じていた。
一行は、さらに賑わいを増す広場の中心部へと、ゆっくりと歩みを進めていった。
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