身代わり婚相手が「最推し」だった件。~無表情な副社長の過剰な愛が限界オタクの俺には刺激が強すぎます!~

たら昆布

文字の大きさ
26 / 30

26話

しおりを挟む
 シーツの海に沈み込んだ身体が、蓮の重みでさらに深く圧迫される。
 旭の視界は、至近距離にある蓮の白いシャツと、その奥に潜む荒い呼吸の震えで埋め尽くされていた。
 手首を縛り付ける蓮の指先は、皮膚が赤く変色するほどの強さで、旭の逃げ道を完全に塞いでいる。
 
「君が男だという事実は、今、私の指が、目が、十分に理解した」
 
 蓮の声が、旭の胸元に直接振動となって響く。
 彼は旭のシャツの襟元を掴み上げ、剥き出しになった鎖骨のラインを、貪るような眼差しでなぞった。
 
 蓮の指先が、旭の喉仏に触れる。
 上下する結節の動きを確かめるように、親指の腹が強く押し当てられた。
 旭は、喉の奥がせり上がるような圧迫感と、それ以上の熱量に、ただ視界を激しく揺らすしかない。
 
(一条さん、……蓮さん。あなたは、騙されていた俺の身体を、こんなにも……)
 
 旭の額に、蓮の額が押し付けられる。
 混じり合う、焦燥を含んだ熱い吐息。
 鼻腔を突くのは、洗練された香水を超えて立ち上る、蓮自身の剥き出しの肌の匂いだ。
 
 蓮は、旭の手首を掴んでいた手を離すと、そのまま旭の細い腰を引き寄せ、自身の体躯へと密着させた。
 
 カチャ、と。
 蓮が身につけていた高級腕時計の金属音が、静寂の中で鋭く跳ねる。
 
「合理性など、とうに霧散した。……私の脳は、この詐欺を憎むべきだと叫んでいるのに。……なぜ、指先は君の熱を求めて止まない」
 
 蓮の唇が、旭の耳たぶをかすめる。
 低いバリトンボイスの振動が、旭の脊髄を、甘い痺れとなって駆け抜けた。
 
 旭は、震える手で蓮の広い背中に触れた。
 上質なシャツの生地越しに伝わる、蓮の逞しい広背筋の躍動。
 その確かな筋肉の硬さと、自分を求める熱。
 
「……一条さんは、俺を。……あゆみさんではなく、俺を、……見てくれていますか」
 
 旭の声は、消え入りそうなほど細く、震えていた。
 けれど、その言葉を聞いた瞬間、蓮の身体が強張る。
 
 蓮は、旭の顎を強引に掬い上げた。
 眼鏡の奥にある灰色の瞳には、冷徹な副社長でも、煌びやかなモデルでもない、一人の男としての、ひどく泥臭い執着が渦巻いている。
 
「……ああ。……あゆみという名の虚像など、もうどうでもいい。……今、私の腕の中で震えている、瀬戸旭。……私は、君を」
 
 蓮は、旭の唇に自分の親指を押し込み、無理やりこじ開けた。
 
 舌の付け根が痺れるほどの、深い接吻。
 
 旭は、酸素を奪われる苦しさの中で、蓮の髪に指を絡め、必死にその体温を吸い込んだ。
 自分の肺に流れ込んでくるのは、蓮の吐息と、この世で最も愛おしい、神の残り香。
 
 蓮の大きな手が、旭の背中を、まるで自分の所有物であることを刻み込むように、執拗になぞり続ける。
 
 窓の外、都会の夜は深まり、冷たい雨が再びガラスを叩き始めた。
 けれど、この重なり合ったシーツの中だけは、理性の灰を燃料に、ただ一時の、けれど決定的な業火が燃え盛っている。
 
 蓮が旭の耳元で、牙を立てるように甘く、そして鋭く、最後の一線を踏み越える言葉を紡いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

姉の代わりに舞踏会に行ったら呪われた第三王子の初恋を奪ってしまった

近井とお
BL
幼少期、ユーリは姉によく似ていることから彼女の代わりに社交の場に出席することが多々あった。ある舞踏会の夜、中庭に姿を眩ませたユーリに誰かがぶつかってくる。その正体は呪われていると噂の第三王子であったが、ぶつかられたことに腹を立てたユーリは強気に接し、ダンスを踊った後、彼を捜している気配を感じてからかいながら立ち去る。 それから数年後、第三王子は初恋の令嬢を探し始めたが、それはユーリに違いなく……。 初恋の相手を捜す第三王子×軽口令息

処理中です...