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23話
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アルヴィス様の「過保護モード」がようやく少しだけ緩和され、僕はジゼルさん同伴であれば、庭園や図書室までの外出を許されるようになった。
ところが、一歩外に出ると、事態は僕の予想を遥かに超えていた。
「あ、ヒイロ様! 本日はお加減いかがですか!?」
「ヒイロ様、こちらの温室で採れた一番綺麗な薔薇です。どうかお受け取りください!」
廊下を歩けば侍女たちが頬を染めて駆け寄り、訓練場を通りかかれば屈強な騎士たちがピシッと背筋を伸ばして最敬礼を送ってくる。
あの日、広間で見せた僕の光が、この城の住人たちには「神の奇跡」のように語り継がれているらしい。
「ジゼルさん……なんだか、前よりも視線が熱いんですけど」
「当然です。魔力酔いで苦しんでいた殿下を救い、他国の横暴からこの城を、そして殿下を自らの意志で守り抜いたのですから。今やあなたは、ルード帝国の『救世の君』ですよ」
救世の君。……前の世界では、締め切りに追われてカップ麺をすすっていただけの僕には、あまりに荷が重すぎる称号だ。
そんな中、一番の問題は――。
「……ヒイロ。貴様、またその庭師の男と親しげに話していたな」
夕食の席、アルヴィス様がこれ以上ないほど不機嫌な顔で、ステーキを切り刻んでいた。
「えっ、ただ『花が綺麗ですね』ってお話ししただけですよ?」
「あやつは貴様の手に直接触れようとした。私の所有物に、不用意に触れていいのは私だけだ。……明日からあの庭師は、北の極寒の地の植樹担当に回す」
「待ってください! それはあまりにかわいそうです!」
「ならば、なぜあのような男に笑顔を見せた。貴様のその愛らしい笑顔は、私のためにだけあるべきだろう」
彼はナイフを置くと、僕の椅子を強引に引き寄せ、自分の顔を近づけた。
至近距離で見つめられるプラチナシルバーの瞳は、嫉妬の炎で揺らめいている。
「……ヒイロ。皆が貴様を崇め、敬うのは構わん。だが、貴様が皆を愛するのは許さん。貴様が愛し、癒やし、魔力を注ぐべき相手は、この世で私一人で十分だ。……分かっているな?」
彼は僕の腰に手を回し、そのまま自分の膝の上へと抱き上げた。食事の途中だろうが、侍女たちが控えていようがお構いなしだ。
「……分かってます。僕の主様は、アルヴィス様だけですから」
僕が観念してそう言うと、彼はようやく満足げに目を細め、僕の唇に深い、深い「供給」を求めてきた。
城中の英雄になっても、僕の扱いは変わらない。
むしろ、この冷徹な独占欲の塊である王太子の「専用」として、より深く、逃げられない場所に閉じ込められようとしているのを、僕は甘やかな予感とともに感じていた。
ところが、一歩外に出ると、事態は僕の予想を遥かに超えていた。
「あ、ヒイロ様! 本日はお加減いかがですか!?」
「ヒイロ様、こちらの温室で採れた一番綺麗な薔薇です。どうかお受け取りください!」
廊下を歩けば侍女たちが頬を染めて駆け寄り、訓練場を通りかかれば屈強な騎士たちがピシッと背筋を伸ばして最敬礼を送ってくる。
あの日、広間で見せた僕の光が、この城の住人たちには「神の奇跡」のように語り継がれているらしい。
「ジゼルさん……なんだか、前よりも視線が熱いんですけど」
「当然です。魔力酔いで苦しんでいた殿下を救い、他国の横暴からこの城を、そして殿下を自らの意志で守り抜いたのですから。今やあなたは、ルード帝国の『救世の君』ですよ」
救世の君。……前の世界では、締め切りに追われてカップ麺をすすっていただけの僕には、あまりに荷が重すぎる称号だ。
そんな中、一番の問題は――。
「……ヒイロ。貴様、またその庭師の男と親しげに話していたな」
夕食の席、アルヴィス様がこれ以上ないほど不機嫌な顔で、ステーキを切り刻んでいた。
「えっ、ただ『花が綺麗ですね』ってお話ししただけですよ?」
「あやつは貴様の手に直接触れようとした。私の所有物に、不用意に触れていいのは私だけだ。……明日からあの庭師は、北の極寒の地の植樹担当に回す」
「待ってください! それはあまりにかわいそうです!」
「ならば、なぜあのような男に笑顔を見せた。貴様のその愛らしい笑顔は、私のためにだけあるべきだろう」
彼はナイフを置くと、僕の椅子を強引に引き寄せ、自分の顔を近づけた。
至近距離で見つめられるプラチナシルバーの瞳は、嫉妬の炎で揺らめいている。
「……ヒイロ。皆が貴様を崇め、敬うのは構わん。だが、貴様が皆を愛するのは許さん。貴様が愛し、癒やし、魔力を注ぐべき相手は、この世で私一人で十分だ。……分かっているな?」
彼は僕の腰に手を回し、そのまま自分の膝の上へと抱き上げた。食事の途中だろうが、侍女たちが控えていようがお構いなしだ。
「……分かってます。僕の主様は、アルヴィス様だけですから」
僕が観念してそう言うと、彼はようやく満足げに目を細め、僕の唇に深い、深い「供給」を求めてきた。
城中の英雄になっても、僕の扱いは変わらない。
むしろ、この冷徹な独占欲の塊である王太子の「専用」として、より深く、逃げられない場所に閉じ込められようとしているのを、僕は甘やかな予感とともに感じていた。
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