無能と捨てられた聖子は隣国の狂犬皇帝に初夜を奪われ執着される~魔力が昂ぶるたびに陛下に抱かれないと壊れてしまいそうです~

たら昆布

文字の大きさ
17 / 20

17話

しおりを挟む
「……ヴォルフ、様……?」

視界を埋め尽くしていた眩い光が収まったとき、僕は冷たい石の床に倒れ込んでいた。
ハルの呪詛は消え、広間には静寂が満ちている。

けれど、僕を抱きしめていたはずの腕に、力がない。

「陛下……? 嘘、でしょう……?」

目を開けると、僕のすぐそばでヴォルフ陛下が横たわっていた。
彫刻のように美しい顔は蒼白で、あんなに猛々しかった魔力の波動が、消え入りそうなほど弱まっている。
魂の契約を通じて、彼は自分の命そのものを僕に流し込み、僕の魂を繋ぎ止めたのだ。
その代償として、彼は今、深い闇の底へ落ちようとしていた。

「ク……ククク……ハハハ! 見ろ、狂犬皇帝が力尽きたぞ!」

血を吐きながら壁際で笑っているのは、ハルだった。
術の反動で彼もボロボロだが、その瞳には狂ったような歓喜が宿っている。

「ユキ……。兄さんは僕の道連れだ。ヴォルフがいなければ、お前はもう呼吸すらできないはずだ。……さあ、その絶望した顔で、僕と一緒に教国へ戻るんだ」

エドワード王子も、勝ち誇ったように剣を抜き、僕たちに歩み寄ってくる。
騎士たちが、倒れた皇帝を捕らえようと包囲を狭めてきた。

(……嫌だ。……そんなの、絶対に嫌だ)

僕の胸の奥で、何かがパチンと弾けた。
今まで、僕は自分を「無能」だと思い、陛下に守られるだけの「器」だと思って生きてきた。
けれど、今、僕の体の中を流れているのは、彼が命を削って与えてくれた、彼の愛そのものだ。

「……陛下に、……触れるな」

「あ?」

エドワード王子が足を止めた。
僕はゆっくりと立ち上がる。
不思議と、足取りは軽かった。
陛下からもらった魔力が、僕の指先まで満ち溢れ、これまで感じたことのない力が漲っている。

「陛下に……触れるなと言っているんだ!!」

僕が叫んだ瞬間、僕を中心に、目も眩むような黄金の光が爆発した。

「な……っ!? この魔力、なんだ!?」

「神の核は砕けたはず……! なぜ、これほどの出力が……っ!」

ハルが驚愕に目を見開く。
砕けたはずの結晶は、陛下の魔力と混ざり合い、僕自身の真の力として「再構築」されていたのだ。
僕はもう、吸い取るだけの器じゃない。
陛下からもらった愛を、自分の力に変えて放つことができる――。

「……ハル。君が僕の光だと思っていたのは、間違いだった」

僕は、自分と同じ顔をした弟を、毅然と見据えた。

「僕の光は、ヴォルフ陛下だ。……彼が僕を、人間として愛してくれたから、僕は今ここに立っている」

僕の手のひらに、光の刃が形を成す。
それは、誰かを傷つけるためのものではなく、大切な人を守り抜くための、純粋な意志の輝き。

「下がれ、教国の亡者たち。……陛下を傷つける者は、僕が一人残らず焼き尽くす」

「ひ、ひいいっ!」

僕の放つ圧倒的な威圧感に、エドワード王子は剣を放り出し、腰を抜かして後退した。
騎士たちも、見たこともない聖なる光の奔流に怯え、次々と武器を捨てて逃げ出していく。

「馬鹿な……。不全だったはずの兄さんが……『神』を超えたというのか……っ」

ハルは絶望に顔を歪め、力なく床に伏した。

僕は、逃げる彼らには目もくれず、すぐに陛下の元へ駆け寄り、その身体を抱き上げた。
重い。温かい。……まだ、間に合う。

「陛下……今度は、僕があなたを救う番です」

僕は、自分の胸元に集まった黄金の魔力を、惜しみなく彼の胸へと注ぎ込んだ。
僕の魔力は、かつて陛下が僕にしてくれたように、彼の冷え切った魂を優しく、力強く包み込んでいく。

「……ん……っ……」

ヴォルフ陛下の睫毛が、微かに震えた。
その瞬間、僕は世界で一番幸せな涙を流した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

美澄の顔には抗えない。

米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け 高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。 ※なろう、カクヨムでも掲載中です。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...