虐げられた氷の聖子は隣国の野獣皇帝に執着(愛)されすぎて溶かされる

たら昆布

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6話

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 魔力の暴走から一夜明け、エリュシオンが目覚めると、そこはまだゼノスの逞しい腕の中だった。
 大きな身体に包み込まれている安心感と、昨夜注ぎ込まれたゼノスの熱い魔力の残滓が、エリュシオンの身体を芯から痺れさせている。

「……起きたか、小鳥」

 頭上から降ってきたのは、寝起き特有の掠れた低い声。
 ゼノスはエリュシオンの項に顔を埋め、深くその香りを吸い込んだ。

「あ……ゼノス、様。おはよう、ございます……」

「様はいらんと何度言えば覚える。……身体の具合はどうだ。魔力の通り道が熱くはないか?」

 ゼノスの手が、エリュシオンの細い腹部をなぞる。
 そこは、昨夜、皇帝の強大な魔力が流れ込んだ中心地だ。
 エリュシオンは顔を赤くし、シーツを握りしめた。

「少し、変な感じです。身体の奥が、ずっと痺れているみたいで……」

「それは俺の魔力が馴染んでいる証拠だ。お前はもう、俺の力なしでは生きていけなくなる」

 ゼノスは残酷なまでに甘い微笑みを浮かべ、エリュシオンの唇を軽く食んだ。
 もはや、この男にとってエリュシオンは、ただの「拾い物」ではない。
 己の魂を分け与えてでも手元に置くべき、半身。

 しかし、平穏な朝を切り裂くように、側近のカインが血相を変えて謁見の間からやってきた。

「陛下! 旧王国――エリュシオン様の祖国より、特使が参っております。『奪われた聖子を返せ』と……!」

 その言葉を聞いた瞬間、エリュシオンの顔から血の気が引いた。
 自分を地下牢に捨て、無能と罵った者たちが、今さら自分を「聖子」と呼び、連れ戻そうとしている。
 恐怖で震えるエリュシオンの肩を、ゼノスが強く抱き寄せた。

「返せ、だと? 面白い冗談を言う」

 ゼノスの瞳が、瞬時に戦闘を司る皇帝のそれへと変わる。
 彼はエリュシオンを抱き上げたまま立ち上がり、そのまま謁見の間へと向かった。

「待ってください、ゼノス! 僕は、あそこには……戻りたくない……っ」

「分かっている。誰がお前を渡すものか。お前は俺の妃になる男だ。……カイン、全貴族を招集しろ。今この場で、エリュシオンの地位を確定させる」

 謁見の間には、旧王国の特使と、帝国の重鎮たちが詰めかけていた。
 特使はエリュシオンの姿を見るなり、慇懃無礼な態度で声を上げた。

「エリュシオン様! 貴方が聖子の力に目覚めたと聞き、王は大変お喜びです。さあ、汚らわしい蛮族の国を離れ、我らと共に帰りましょう」

 その言葉が終わるより早く、謁見の間を轟音のような威圧感が支配した。
 ゼノスが玉座にエリュシオンを座らせ、その傍らに立って特使を睨みつける。

「汚らわしい、だと? ……貴様ら、どの口がそれを言う。この者を地下に閉じ込め、光さえ奪っていたのはどこのどいつだ」

「そ、それは……儀式の一環でして……」

「黙れ。このエリュシオンは、本日から我が帝国の『正妃候補』であり、俺の最愛の番だ。これに触れようとする手があれば、その場で腕ごと切り落とす。……旧王国の王に伝えろ。次にこの者の名を口にすれば、国ごと地図から消してやるとな」

 ゼノスの「宣戦布告」に、場内は静まり返った。
 皇帝が、たった一人の「男」のために、隣国を滅ぼすと断言したのだ。

 エリュシオンは、自分を守るように立つゼノスの背中を見上げた。
 かつて自分を否定し続けた世界に対し、これほどまでに激しく怒り、自分を全肯定してくれる人がいる。

「ゼノス……」

 エリュシオンの手が、そっとゼノスの大きな手を握りしめる。
 ゼノスはその手を強く握り返し、衆人環視の中でエリュシオンの額に深い接吻を落とした。

「恐れるな、エリュシオン。お前の絶望は、すべて俺が食らってやる。お前はただ、俺の愛の中で溶けていればいい」

 特使が震えながら退散していく中、エリュシオンは初めて、自分の力が誰かのためではなく、自分の幸せのためにあるのかもしれないと考え始めていた。
 だが、その背後で、帝国の「聖子」としての力を危惧する不穏な影が、再び動き出そうとしていた。
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