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19話
氷の静寂に包まれた帝都。その中心で、ゼノスは冷たくなったエリュシオンを抱きしめ、天を仰いでいた。
心音は途絶え、銀色の髪は光を失い、透き通るような肌は本物の氷へと変わりつつある。
「……身勝手な奴だ。俺に依存しろと言ったのは俺だが、俺をこれほどまでに依存させた責任はどう取るつもりだ」
ゼノスの瞳から、黄金の涙がこぼれ落ち、エリュシオンの頬を濡らす。
皇帝として、武人として生きてきた彼が、初めて神に祈り、そして神を呪った。
「カイン……これより、禁忌の儀式を行う。誰一人、この部屋に近づけるな。もし俺が理性を失い、化け物になっても……この者を抱いたまま焼き殺せ」
「陛下……! それは、ご自身の魂を削り、器を共有する『魂縛(こんぱく)の抱擁』……。成功しても、陛下はお一人では死ねぬ身体になりますぞ!」
「望むところだ。地獄までこいつを一人で行かせはしない」
ゼノスはエリュシオンを抱えたまま、自身の魔力を最大限に逆流させた。
通常、魔力は体外へ放出するもの。だがゼノスはそれを体内に封じ込め、自らの命の火を「燃料」として、エリュシオンの凍りついた心臓へと流し込み始めた。
「……あ、ぐ、ぅ……っ!」
激痛がゼノスの肉体を切り裂く。
一人の人間の中に、二つの魂を共存させる負荷は、並の精神では即座に崩壊するほどの衝撃だった。
しかし、ゼノスはエリュシオンの唇を塞ぎ、自分の息を、自分の命を、一滴も漏らさぬよう注ぎ込み続けた。
――戻ってこい、エリュシオン。
――お前のいない世界を統べるなど、俺には退屈すぎる。
ドクン。
どれほどの時間が経っただろうか。
ゼノスの腕の中で、小さな、しかし確かな鼓動が跳ねた。
「……っ、ぁ……、は……っ」
エリュシオンの胸が大きく波打ち、止まっていた肺が再び空気を求めて動き出す。
失われていた銀髪の光沢が戻り、閉ざされていた睫毛がかすかに震えた。
「……ゼノ、ス……?」
焦点の合わないエリュシオンの瞳が、涙で顔を汚したゼノスを捉えた。
ゼノスは声にならない慟哭を上げ、エリュシオンの細い肩に額を押し付けた。
「……馬鹿者が。勝手な真似をすれば、その羽を毟ってでも閉じ込めると言っただろう」
「ごめんなさい……。でも、あなたの声が……ずっと聞こえていたから……」
エリュシオンが震える手でゼノスの背中に回すと、不思議な感覚に包まれた。
自分の心臓の鼓動が、ゼノスの鼓動と完璧に同期している。
彼が痛みを感じれば自分も痛み、自分が喜びを感じれば彼も満たされる。
二人の魂は、もはや一つの円環となって繋がっていた。
「エリュシオン、俺とお前はもう、死ぬ時も同時だ。お前が俺を捨てて逝くことは、二度と許されない」
「……はい。嬉しいです。あなたと、ずっと、ひとつになれたみたいで……」
絶望の氷が溶け出し、帝都には再び朝日が差し込み始めた。
邪神の脅威は去り、そこには命を分け合った、世界で最も強く、最も歪で、最も美しい絆だけが残されていた。
心音は途絶え、銀色の髪は光を失い、透き通るような肌は本物の氷へと変わりつつある。
「……身勝手な奴だ。俺に依存しろと言ったのは俺だが、俺をこれほどまでに依存させた責任はどう取るつもりだ」
ゼノスの瞳から、黄金の涙がこぼれ落ち、エリュシオンの頬を濡らす。
皇帝として、武人として生きてきた彼が、初めて神に祈り、そして神を呪った。
「カイン……これより、禁忌の儀式を行う。誰一人、この部屋に近づけるな。もし俺が理性を失い、化け物になっても……この者を抱いたまま焼き殺せ」
「陛下……! それは、ご自身の魂を削り、器を共有する『魂縛(こんぱく)の抱擁』……。成功しても、陛下はお一人では死ねぬ身体になりますぞ!」
「望むところだ。地獄までこいつを一人で行かせはしない」
ゼノスはエリュシオンを抱えたまま、自身の魔力を最大限に逆流させた。
通常、魔力は体外へ放出するもの。だがゼノスはそれを体内に封じ込め、自らの命の火を「燃料」として、エリュシオンの凍りついた心臓へと流し込み始めた。
「……あ、ぐ、ぅ……っ!」
激痛がゼノスの肉体を切り裂く。
一人の人間の中に、二つの魂を共存させる負荷は、並の精神では即座に崩壊するほどの衝撃だった。
しかし、ゼノスはエリュシオンの唇を塞ぎ、自分の息を、自分の命を、一滴も漏らさぬよう注ぎ込み続けた。
――戻ってこい、エリュシオン。
――お前のいない世界を統べるなど、俺には退屈すぎる。
ドクン。
どれほどの時間が経っただろうか。
ゼノスの腕の中で、小さな、しかし確かな鼓動が跳ねた。
「……っ、ぁ……、は……っ」
エリュシオンの胸が大きく波打ち、止まっていた肺が再び空気を求めて動き出す。
失われていた銀髪の光沢が戻り、閉ざされていた睫毛がかすかに震えた。
「……ゼノ、ス……?」
焦点の合わないエリュシオンの瞳が、涙で顔を汚したゼノスを捉えた。
ゼノスは声にならない慟哭を上げ、エリュシオンの細い肩に額を押し付けた。
「……馬鹿者が。勝手な真似をすれば、その羽を毟ってでも閉じ込めると言っただろう」
「ごめんなさい……。でも、あなたの声が……ずっと聞こえていたから……」
エリュシオンが震える手でゼノスの背中に回すと、不思議な感覚に包まれた。
自分の心臓の鼓動が、ゼノスの鼓動と完璧に同期している。
彼が痛みを感じれば自分も痛み、自分が喜びを感じれば彼も満たされる。
二人の魂は、もはや一つの円環となって繋がっていた。
「エリュシオン、俺とお前はもう、死ぬ時も同時だ。お前が俺を捨てて逝くことは、二度と許されない」
「……はい。嬉しいです。あなたと、ずっと、ひとつになれたみたいで……」
絶望の氷が溶け出し、帝都には再び朝日が差し込み始めた。
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