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25話
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「……ええっ、俺が先生ですか!?」
ハルが目を丸くしたのは、外交官リュカが持ってきた一枚の公文書がきっかけだった。
王立アカデミーに通う十代前半の若き獣人たちは、この世界において最も「危険な時期」にある。
第二次性徴に伴い、肉体と魔力が急激に膨れ上がる一方で、理性が追いつかない「先祖返り」や「魔力暴走」が多発する時期なのだ。
「教師陣も手を焼いておりましてね。ハル様の香りで、彼らの猛り狂う血を鎮めていただきたいのです」
もちろん、そんな場所にハルを一人で行かせるはずもなく、ギルバートたちは「実技指導」の名目で、全員がフル装備で同行することになった。
アカデミーの訓練場に足を踏み入れると、そこは野犬の巣窟のような荒れようだった。
「人間が講師だって? 笑わせるなよ!」
「どうせ、王宮の連中に可愛がられてるだけの愛玩動物だろ?」
生意気な口を叩くのは、ジャッカルや山猫といった血気盛んな少年獣人たち。
彼らはハルの「癒やし香」が、ただの甘い匂いだと思い込み、その真の「慈愛の波動」を知らなかった。
「ええと、みんな、こんにちは。今日は一緒に、心を落ち着かせる練習を……」
ハルが困り顔で一歩踏み出し、緊張で少し強まった「癒やし香」が訓練場全体にぶわりと広がった瞬間――。
「……ッ!?」
罵声を浴びせていた少年たちの動きが、ピタリと止まった。
彼らの未熟で暴れ回っていた魔力回路が、ハルの香りに触れた瞬間、まるで冷たい泉に浸されたように静まり返っていく。
「……なんだ。……急に、体が、軽い……?」
「あ、頭の中のイライラが……消えていく……」
反抗期の少年たちは、吸い寄せられるようにハルの元へふらふらと歩み寄った。
そして一人がハルの裾を掴んだのを皮切りに、次々とハルの足元に蹲り、その靴や服に顔を擦り付け始めた。
「にいちゃん……もっと。もっと匂い、ちょうだい……」
「ねえ、俺の頭も撫でてよ……」
さっきまでの殺気はどこへやら。訓練場は一瞬にして、数十匹の子犬や子猫がじゃれ合う「聖域」と化した。
だが、その狂騒から遠く離れた日陰の柱に、一人で佇む少年がいた。
白磁のような肌に、銀色の髪。そして額には、まだ小さな、しかし透き通るような白亜の「角」が一本。
麒麟(きりん)の獣人、ヨシュアだった。
この世界で麒麟は、他者の「負の感情(穢れ)」を敏感に察知してしまう神聖な種族だ。
少年たちの欲望や嫉妬を「黒い霧」のように感じ取り、常に心を閉ざして生きてきた彼は、ハルに対しても冷ややかな視線を向けていた。
(……どうせあの人間も、自分を崇める視線に溺れているだけだ。……近づきたくない。あの人の周りだけ、光が強すぎて眩しいんだ……)
ヨシュアは、ハルから放たれる圧倒的な「無償の愛」の光に、戸惑いと恐怖を感じていた。
だが、そんな彼の孤独に、ハルが気づかないはずはなかった。
「……君は、あっちには来ないの?」
ハルが少年たちの包囲網を優しく抜け、ヨシュアの方へと歩み寄る。
その瞬間、ヨシュアの鼻腔を突いたのは、これまでに経験したことのない、一点の穢れもない「純白の輝き」を孕んだ香りだった。
「……っ、来るな! 触らないで……!」
ヨシュアが必死に拒絶の声を上げるが、その瞳はハルの放つ安らぎに、激しく揺れ動いていた。
ハルが目を丸くしたのは、外交官リュカが持ってきた一枚の公文書がきっかけだった。
王立アカデミーに通う十代前半の若き獣人たちは、この世界において最も「危険な時期」にある。
第二次性徴に伴い、肉体と魔力が急激に膨れ上がる一方で、理性が追いつかない「先祖返り」や「魔力暴走」が多発する時期なのだ。
「教師陣も手を焼いておりましてね。ハル様の香りで、彼らの猛り狂う血を鎮めていただきたいのです」
もちろん、そんな場所にハルを一人で行かせるはずもなく、ギルバートたちは「実技指導」の名目で、全員がフル装備で同行することになった。
アカデミーの訓練場に足を踏み入れると、そこは野犬の巣窟のような荒れようだった。
「人間が講師だって? 笑わせるなよ!」
「どうせ、王宮の連中に可愛がられてるだけの愛玩動物だろ?」
生意気な口を叩くのは、ジャッカルや山猫といった血気盛んな少年獣人たち。
彼らはハルの「癒やし香」が、ただの甘い匂いだと思い込み、その真の「慈愛の波動」を知らなかった。
「ええと、みんな、こんにちは。今日は一緒に、心を落ち着かせる練習を……」
ハルが困り顔で一歩踏み出し、緊張で少し強まった「癒やし香」が訓練場全体にぶわりと広がった瞬間――。
「……ッ!?」
罵声を浴びせていた少年たちの動きが、ピタリと止まった。
彼らの未熟で暴れ回っていた魔力回路が、ハルの香りに触れた瞬間、まるで冷たい泉に浸されたように静まり返っていく。
「……なんだ。……急に、体が、軽い……?」
「あ、頭の中のイライラが……消えていく……」
反抗期の少年たちは、吸い寄せられるようにハルの元へふらふらと歩み寄った。
そして一人がハルの裾を掴んだのを皮切りに、次々とハルの足元に蹲り、その靴や服に顔を擦り付け始めた。
「にいちゃん……もっと。もっと匂い、ちょうだい……」
「ねえ、俺の頭も撫でてよ……」
さっきまでの殺気はどこへやら。訓練場は一瞬にして、数十匹の子犬や子猫がじゃれ合う「聖域」と化した。
だが、その狂騒から遠く離れた日陰の柱に、一人で佇む少年がいた。
白磁のような肌に、銀色の髪。そして額には、まだ小さな、しかし透き通るような白亜の「角」が一本。
麒麟(きりん)の獣人、ヨシュアだった。
この世界で麒麟は、他者の「負の感情(穢れ)」を敏感に察知してしまう神聖な種族だ。
少年たちの欲望や嫉妬を「黒い霧」のように感じ取り、常に心を閉ざして生きてきた彼は、ハルに対しても冷ややかな視線を向けていた。
(……どうせあの人間も、自分を崇める視線に溺れているだけだ。……近づきたくない。あの人の周りだけ、光が強すぎて眩しいんだ……)
ヨシュアは、ハルから放たれる圧倒的な「無償の愛」の光に、戸惑いと恐怖を感じていた。
だが、そんな彼の孤独に、ハルが気づかないはずはなかった。
「……君は、あっちには来ないの?」
ハルが少年たちの包囲網を優しく抜け、ヨシュアの方へと歩み寄る。
その瞬間、ヨシュアの鼻腔を突いたのは、これまでに経験したことのない、一点の穢れもない「純白の輝き」を孕んだ香りだった。
「……っ、来るな! 触らないで……!」
ヨシュアが必死に拒絶の声を上げるが、その瞳はハルの放つ安らぎに、激しく揺れ動いていた。
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