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52話
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猛吹雪が吹き荒れる「双子門の森」の奥深く、ハルとギルバートは、辛うじて風雪を凌げる古ぼけた石造りの遺跡に身を寄せていた。外は視界を奪うほどの白銀の世界であり、結界の影響か、ハルの癒やしの光を以てしても、この異常なまでの寒さを完全に取り払うことはできなかった。
「……ハル、まだ震えているな。すまない、俺がもっと早くこの場所を見つけていれば」
ギルバートは悔しげに眉をひそめると、遺跡の隅に枯れ枝を集め、小さな火を熾した。しかし、石壁の隙間から入り込む冷気は容赦なくハルの体温を奪っていく。ハルはマントに包まりながら、青ざめた唇で小さく微笑んだ。
「大丈夫だよ、ギルバートさん。……こうして火があるだけでも、すごく落ち着くから」
「強がるな。お前の手は、氷のように冷たい」
ギルバートは自らの籠手を外し、ハルの両手を大きな掌で包み込んだ。戦場で数多の命を奪い、守ってきたその手は、武骨で硬いタコに覆われているが、ハルを包む時だけは驚くほど繊細で、熱い。
「……ギルバートさんの手、すごく温かいね」
「俺は、お前を守るためにこの身体を鍛え上げてきた。だが、今この瞬間、その力がどれほど役に立っているのか分からなくなる。……剣で斬伏せられる敵なら、どれほど楽だったか」
ギルバートは自嘲気味に笑い、ハルの隣に深く腰を下ろした。火に照らされた彼の横顔には、王宮で見せる厳格な団長の仮面はなく、ただ一人の少年を案じる、不器用な男の顔があった。
「ギルバートさん?」
「ハル。俺はな……お前がこの世界に来たあの日から、ずっと恐れていたんだ。いつかお前が、俺たちの手の届かない、元の場所へ消えてしまうのではないかと。お前はあまりに清らかで、この血生臭い世界には不釣り合いに見えたからな」
ギルバートの声は、パチパチとはじける焚き火の音に混じって、静かに響いた。彼は視線を火の粉に向けたまま、胸の内に秘めていた想いを吐露し始める。
「第一騎士団長という肩書きは、俺にとって誇りだった。だが、お前を守る時だけは、その重荷が邪魔になることがある。……一人の男として、ただお前の側にいたいと、そう願ってしまう自分を、俺は制御できずにいるんだ」
ハルは、ギルバートの言葉に込められた熱量に胸を突かれた。いつも先頭に立ち、自分たちを導いてくれる背中が、今はこんなにも近く、そして切なく揺れている。
「ギルバートさん……。俺、ギルバートさんが団長だから頼ってるわけじゃないよ。ギルバートさんが、ギルバートさんだから……俺を一番に守ろうとしてくれるその心が、嬉しいんだ」
ハルがそっとギルバートの腕に頭を預けると、彼は一瞬身体を強張らせたが、すぐに深い溜息をついて、ハルの肩を抱き寄せた。
「……ずるいな、お前は。そんなことを言われたら、俺はもう、お前を離せなくなる」
ギルバートは、ハルの体温を逃がさないように自分のマントの中へ引き入れ、その大きな胸の中に閉じ込めた。鎧の下から伝わってくる、力強く、けれどどこか急いた心音が、ハルの背中に直接響く。
「今夜だけは、俺の我が儘を聞いてくれ。……こうして、お前を抱きしめていたい。お前がここにいることを、この腕で確かめていたいんだ」
「うん……。俺も、ギルバートさんの側に居ると安心するよ」
外の嵐はさらに激しさを増し、石の遺跡を揺らさんばかりの音を立てている。しかし、二人を包む小さな火の回りと、重なり合う体温の中だけは、外の世界とは隔絶された、濃密で静かな時間が流れていた。
ギルバートは、ハルの柔らかな髪に顎を乗せ、目を閉じる。騎士の誓いよりも重く、理よりも深い執着。それは、冷たい銀世界で燃え上がる、たった一つの確かな熱だった。
「……ハル、まだ震えているな。すまない、俺がもっと早くこの場所を見つけていれば」
ギルバートは悔しげに眉をひそめると、遺跡の隅に枯れ枝を集め、小さな火を熾した。しかし、石壁の隙間から入り込む冷気は容赦なくハルの体温を奪っていく。ハルはマントに包まりながら、青ざめた唇で小さく微笑んだ。
「大丈夫だよ、ギルバートさん。……こうして火があるだけでも、すごく落ち着くから」
「強がるな。お前の手は、氷のように冷たい」
ギルバートは自らの籠手を外し、ハルの両手を大きな掌で包み込んだ。戦場で数多の命を奪い、守ってきたその手は、武骨で硬いタコに覆われているが、ハルを包む時だけは驚くほど繊細で、熱い。
「……ギルバートさんの手、すごく温かいね」
「俺は、お前を守るためにこの身体を鍛え上げてきた。だが、今この瞬間、その力がどれほど役に立っているのか分からなくなる。……剣で斬伏せられる敵なら、どれほど楽だったか」
ギルバートは自嘲気味に笑い、ハルの隣に深く腰を下ろした。火に照らされた彼の横顔には、王宮で見せる厳格な団長の仮面はなく、ただ一人の少年を案じる、不器用な男の顔があった。
「ギルバートさん?」
「ハル。俺はな……お前がこの世界に来たあの日から、ずっと恐れていたんだ。いつかお前が、俺たちの手の届かない、元の場所へ消えてしまうのではないかと。お前はあまりに清らかで、この血生臭い世界には不釣り合いに見えたからな」
ギルバートの声は、パチパチとはじける焚き火の音に混じって、静かに響いた。彼は視線を火の粉に向けたまま、胸の内に秘めていた想いを吐露し始める。
「第一騎士団長という肩書きは、俺にとって誇りだった。だが、お前を守る時だけは、その重荷が邪魔になることがある。……一人の男として、ただお前の側にいたいと、そう願ってしまう自分を、俺は制御できずにいるんだ」
ハルは、ギルバートの言葉に込められた熱量に胸を突かれた。いつも先頭に立ち、自分たちを導いてくれる背中が、今はこんなにも近く、そして切なく揺れている。
「ギルバートさん……。俺、ギルバートさんが団長だから頼ってるわけじゃないよ。ギルバートさんが、ギルバートさんだから……俺を一番に守ろうとしてくれるその心が、嬉しいんだ」
ハルがそっとギルバートの腕に頭を預けると、彼は一瞬身体を強張らせたが、すぐに深い溜息をついて、ハルの肩を抱き寄せた。
「……ずるいな、お前は。そんなことを言われたら、俺はもう、お前を離せなくなる」
ギルバートは、ハルの体温を逃がさないように自分のマントの中へ引き入れ、その大きな胸の中に閉じ込めた。鎧の下から伝わってくる、力強く、けれどどこか急いた心音が、ハルの背中に直接響く。
「今夜だけは、俺の我が儘を聞いてくれ。……こうして、お前を抱きしめていたい。お前がここにいることを、この腕で確かめていたいんだ」
「うん……。俺も、ギルバートさんの側に居ると安心するよ」
外の嵐はさらに激しさを増し、石の遺跡を揺らさんばかりの音を立てている。しかし、二人を包む小さな火の回りと、重なり合う体温の中だけは、外の世界とは隔絶された、濃密で静かな時間が流れていた。
ギルバートは、ハルの柔らかな髪に顎を乗せ、目を閉じる。騎士の誓いよりも重く、理よりも深い執着。それは、冷たい銀世界で燃え上がる、たった一つの確かな熱だった。
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