不遇な転生聖子は冷酷皇帝に「君のご飯が一番」と胃袋から愛し抜かれる 〜自炊スキルで無自覚に無双して最強の番に指名されました〜

たら昆布

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7話

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離宮での生活も数日が過ぎ、僕は一つ、どうしても我慢できないことに直面していた。
それは、キッチンに備え付けられた旧式の石造りコンロの使い勝手の悪さだ。

「……うーん、やっぱりここ、火力の調整が難しいな」

火を熾すたびに煙が逆流し、僕の顔は煤でうっすらと黒くなってしまう。
コンロの奥に亀裂が入っているのだろう。僕はエプロンの裾で額を拭い、溜息をついた。

「どうした。また掃除か」

背後から低く心地よい声が響く。ヴァルさんだ。
彼は最近、僕がキッチンに立つと、どこからともなく現れて椅子に腰を下ろすのが習慣になっていた。何もするわけではない。ただ、僕が野菜を刻んだり鍋を混ぜたりするのを、じっと、けれど穏やかな眼差しで見守っているのだ。

「あ、ヴァルさん。いえ、コンロが壊れかけてて。直したいんですけど、僕の魔力じゃ石を繋ぎ合わせるのが精一杯で……」

僕はコンロの横に転がしていた、数個の『魔熱石』を指差した。この世界の燃料代わりになる石だが、火を安定させるには石の配置と、繊細な魔力による固定が必要だ。
僕がやると、どうしても魔力が足りなくて、すぐに石が転がってしまう。

「……貸してみろ」

ヴァルさんが立ち上がり、僕の隣に並んだ。
見上げるほど高い身長。彼の体が僕の背後に重なるように位置すると、その圧倒的な存在感に少しだけ鼓動が速くなる。

「あ、えっと、配置はこうしてほしくて……」

僕が説明するより早く、ヴァルさんの大きな手がコンロに差し伸べられた。
驚くほど指が長く、節くれ立った綺麗な手だ。彼が魔熱石をそっと置くと、指先から微かに青白い光が漏れた。

「ここでいいか?」
「あ、はい。……すごい、ぴたっと吸い付くみたいに」

彼が手を動かすたびに、バラバラだった石が美しく整列し、コンロの亀裂が魔法で滑らかに埋まっていく。
僕はその様子に見惚れてしまった。冷酷な皇帝だと聞いていたけれど、この手はとても丁寧で、壊れものを扱うような優しさがある。

「できたぞ。試してみろ」
「ありがとうございます! さっそく……」

僕は喜び勇んで薪を焚べ、火をつけた。
今度は煙も漏れず、美しいオレンジ色の炎が立ち上がる。

「完璧です! さすがヴァルさん、器用ですね」
「…………別に、大したことではない」

褒めると、彼は少しだけ視線を逸らし、口元を綻ばせた。
そのほんのわずかな表情の変化に、僕の胸の奥が温かくなる。
利害関係で始まった同居だけれど、こうして二人で何かを成し遂げるのは、案外悪くないな……なんて、パチパチと爆ぜる火を見つめながら思った。
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