異世界の勇者様が俺のワンルームに逆転生(居候)してきました。

たら昆布

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23話

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「……ユヅル、どけ。その軟弱な手つきで、この拠点の汚れが落ちると思っているのか」

和牛の宴から一夜明けた朝。結弦がいつものようにキッチンで洗い物を始めようとすると、背後からエルリックの冷徹な声が響いた。
トレンチコートの袖を豪快に捲り上げた彼は、結弦の手からスポンジを引ったくるように奪い取ると、シンクの前に仁王立ちになった。

「あ、エルリックさん。いいよ、僕がやるから。仕事前にそんなことさせられないし」

「黙れ。俺はこの押し入れという名の陣地を確保した身だ。寄生するだけの無能と思われるのは、四天王としての誇りが許さん。……それに、この油汚れ、まるで魔王城の地下迷宮に巣食うスライムのようにしつこい。俺が根絶やしにしてやる」

エルリックは凄まじい眼力で皿を睨みつけると、洗剤をワンプッシュし、まるで敵の首を撥ねるような鋭い動きで皿を磨き始めた。

「待ってください、エルリック! ユヅルの世話を焼くのは、この私の聖なる……いや、重要な任務です! 貴様のような破壊の化身に、繊細な家財道具を触らせるわけにはいきません!」

そこに、身だしなみを整え終えたアルヴィスが、血相を変えて乱入してきた。
彼はエルリックの横から割り込み、濡れた布巾を手に取って対抗する。

「アルヴィス。貴様の皿拭きは甘い。水滴が一点でも残れば、それは腐食の始まりだ。退け、これは俺が担当する戦域だ」

「何だと!? 貴様こそ、その物騒な力加減で皿を割らない保証があるのですか! 私はユヅルのために、一枚一枚に祈りを込めて……」

「祈りで皿が乾くか。……おい馬、邪魔だ! 貴様の毛が舞うだけで清潔度が0.8パーセント低下する!」

「ヒヒーン!(ボクはただ、朝の人参を待ってるだけだぞ!)」

キッチンは一気に、異世界の最前線のようなピリついた空気(と洗剤の泡)に包まれた。
結弦は、朝から火花を散らす勇者と四天王を交互に見ながら、困ったように眉を下げる。

「二人とも、落ち着いて。……そうだ。それなら、役割を分担しない? 喧嘩されるのが一番困るから」

結弦の提案に、二人はぴたりと動きを止め、真剣な眼差しをこちらに向けた。

「……分担か。よかろう。効率を重んじる俺にとって、無意味な衝突は時間の浪費だ。人間、いや、ユヅル。貴様が決めろ」

「私も異論はありません。主(あるじ)の命とあらば、たとえこの宿敵と背中を合わせる仕事であっても完遂してみせます!」

結弦は、唸りながらスマートフォンのメモ帳を開いた。

「ええと……。まず、重い買い物や力仕事、あと、細かい掃除はエルリックさんにお願いしていいかな。やっぱりパワーがあるし、徹底してくれそうだから」

「ふん。当然の判断だ。この街という戦場を駆け巡り、最も良質な資材(食材)を補給してこよう」

エルリックは満足げに頷く。どうやら「頼りにされる」こと自体は悪い気はしないらしい。

「アルヴィスは、お料理と……あ、洗濯をお願いしてもいい? アルヴィスが干すと、なんだか服がキラキラして見える気がするし」

「おお……! 洗濯! あの、水と風の魔導(全自動洗濯機)を操る儀式ですね! 承知しました、ユヅル。私の手で、あなたの衣類に太陽の加護を宿してみせましょう!」

「ヒヒーン?(ボクの役割は?)」

「スレイプニルは……アルヴィスが洗濯物を干してる間、ベランダで見張りをお願い」

「ワン!(任せろ!)」

こうして、結弦のワンルームに「家事分担制」という名の新たな秩序が生まれた。
しかし、それが平穏に繋がるかといえば、話は別だった。

「アルヴィス! 貴様、この靴下の干し方は何だ! 重力を計算して、左右のバランスを整えろと言っただろう!」

「うるさい! これが私の流儀です! 貴様こそ、買ってきた人参の長さがバラバラではありませんか! 」

「……。……。……二人とも、まだ揉めてるの?」

仕事へ行く準備を終えた結弦が苦笑しながら声をかけると、二人はパッと離れ、そっぽを向いた。
まだ親密度が高いとは言えない。けれど、一つの家を守るために、彼らなりに「最強の居場所」を作ろうとしていることだけは確かだった。

「……ま、いっか。それじゃ、行ってきます」

「いってらっしゃい、ユヅル! 帰宅する頃には、この地を完璧な聖域にしておきます!」

「……ああ。道中、外敵に気をつけろ。貴様に何かあれば、俺の生活が困るからな」

背後で聞こえる、暑苦しいほどの見送りと、ぶっきらぼうな警告。
二人の「家事戦争」をBGMに、結弦は今日も今日とて、賑やかすぎる日常へと踏み出していくのだった。
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