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22話
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「……ユヅル。俺は決めたぞ。この『はろーわーく』という名のギルドで、俺の武勇に相応しい任務を見つけ、対価を手に入れてやる」
翌朝、押し入れから這い出してきた四天王・エルリックは、トレンチコートの襟を正し、不敵な笑みを浮かべて食卓に座った。
その眼光は鋭く、結弦が差し出した求人誌のページを、まるで敵陣の地図を読み解くかのように凝視している。
「覇権とかいいから、エルリックさん。まずは平和に働ける場所を探そうよ。ほら、ここにある『引っ越し作業員』とかどうかな? 体力もありそうだし」
「引っ越し……。民の拠点を物理的に移動させる任務か。ふん、要は重い荷物を運べばいいのだろう? 魔界の巨岩を片手で投げ飛ばしてきたこの俺に、ふさわしい試練だ」
エルリックは結弦から求人誌をひったくると、並み居る漢字の列を野心に満ちた目で見つめた。
「ユヅル! ダメです、エルリックに破壊以外の仕事をさせてはいけません! 奴は魔界でも『歩く天災』と呼ばれていたのですよ! 荷物を運ぶついでに家屋ごと粉砕するに決まっています!」
アルヴィスが必死に異を唱えるが、エルリックは鼻で笑い、屈強な腕を組んだ。
「アルヴィス、貴様と一緒にされるな。俺は戦場では常に最短・最速・最小の被害で目的を達してきた。……ユヅル、この『ひっこし』という戦い、俺が引き受けよう」
数日後。結弦は心配のあまり、エルリックが配属されたという現場――駅前の古いアパートへと様子を見に行った。
そこには、重い冷蔵庫を軽々と、それこそ羽毛のように軽やかに担ぎ上げ、階段を平然と駆け上がるエルリックの姿があった。
「おい、そこの新入り! そんなスピードで運んだら中身が……って、えええ!?」
現場監督が叫ぶ中、エルリックは無表情のまま、巨大な婚礼家具を指先一本で支えながら、ミリ単位の誤差もなくトラックの荷台へと収めていく。
「ふん。この程度の質量、魔界の黒鉄巨兵の小指よりも軽い。……次だ。次の獲物を出せ」
「す、すげえ……。あんた、人間かよ!?」
「俺をその辺の有象無象と一緒に……おっと、ユヅルか。見ていろ、これが四天王の『効率』というものだ」
結弦に気づいたエルリックが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。その体からは、仕事への矜持……というよりも、「アルヴィスより稼いでやる」という執念に近い闘気が溢れ出していた。
その日の夜。結弦が帰宅すると、玄関にはアルヴィスとスレイプニルが、異様な殺気を放って待機していた。
「ユヅル! 聞きましたか! あのエルリック、初日の働きぶりが認められ、現場監督から『伝説の親方』という二つ名と、祝儀という名のボーナスをもらったそうです!」
「ヒヒーン!(ボクへの土産が、最高級のふりかけだった。エルリック、やるじゃないか)」
「いいじゃない、アルヴィス。二人とも立派に働いてくれて、僕は嬉しいよ。……あ、エルリックさん、おかえり」
扉が開くと、トレンチコートを肩にかけ、どこか達成感に満ちた顔のエルリックが立っていた。
その手には、近所の精肉店で買った「最高級の和牛」がずっしりと握られている。
「ただいま戻った、ユヅル。……アルヴィス、貴様は今日もカメラの前で微笑むだけの温い仕事をしていたそうだな。俺は今日だけで三件の拠点を完全移送させたぞ。……この報酬で、今日は肉だ。俺が焼く」
「何だと!? 貴様、私に労働の質で勝負を挑むとはいい度胸だ! 明日は私も、撮影の合間にスタジオの清掃任務を完遂してみせる!」
「清掃は金にならん。貴様は相変わらず効率が悪いな」
エルリックは鼻で笑うと、さっさとキッチンへ入り、和牛をフライパンに並べ始めた。
四天王がトレンチコートを脱ぎ、慣れない手つきでトングを操る姿は、もはや最強の戦士というよりは「頼りになる同居人」そのものだ。
「……ねえ、エルリックさん。無理しなくていいからね?」
「ふん、無理などしていない。」
アルヴィスは悔しそうにしながらも、肉の焼ける良い香りに抗えず、そわそわと箸を用意し始めている。
「よし、焼けたぞ。食え、ユヅル。……アルヴィス、貴様は野菜も食え。モデルなら体調管理も仕事のうちだろう」
「言われずとも分かっています! ……ですが、この肉……美味しそうですな」
狭いワンルームに、高級肉の香りと、元敵同士の騒がしい声が満ちていく。
スレイプニルが「ワン!(ボクの分を早くしろ!)」と尻尾を振り、結弦は笑いながら大盛りのご飯をテーブルに並べた。
勇者と四天王。
異世界では決して交わることのなかった二人が、今、日本の六畳一間で「どっちが稼げるか」という平和すぎる火花を散らしている。
結弦の日常は、ますます予測不能で、けれど何よりも温かな場所へと変わっていくのだった。
翌朝、押し入れから這い出してきた四天王・エルリックは、トレンチコートの襟を正し、不敵な笑みを浮かべて食卓に座った。
その眼光は鋭く、結弦が差し出した求人誌のページを、まるで敵陣の地図を読み解くかのように凝視している。
「覇権とかいいから、エルリックさん。まずは平和に働ける場所を探そうよ。ほら、ここにある『引っ越し作業員』とかどうかな? 体力もありそうだし」
「引っ越し……。民の拠点を物理的に移動させる任務か。ふん、要は重い荷物を運べばいいのだろう? 魔界の巨岩を片手で投げ飛ばしてきたこの俺に、ふさわしい試練だ」
エルリックは結弦から求人誌をひったくると、並み居る漢字の列を野心に満ちた目で見つめた。
「ユヅル! ダメです、エルリックに破壊以外の仕事をさせてはいけません! 奴は魔界でも『歩く天災』と呼ばれていたのですよ! 荷物を運ぶついでに家屋ごと粉砕するに決まっています!」
アルヴィスが必死に異を唱えるが、エルリックは鼻で笑い、屈強な腕を組んだ。
「アルヴィス、貴様と一緒にされるな。俺は戦場では常に最短・最速・最小の被害で目的を達してきた。……ユヅル、この『ひっこし』という戦い、俺が引き受けよう」
数日後。結弦は心配のあまり、エルリックが配属されたという現場――駅前の古いアパートへと様子を見に行った。
そこには、重い冷蔵庫を軽々と、それこそ羽毛のように軽やかに担ぎ上げ、階段を平然と駆け上がるエルリックの姿があった。
「おい、そこの新入り! そんなスピードで運んだら中身が……って、えええ!?」
現場監督が叫ぶ中、エルリックは無表情のまま、巨大な婚礼家具を指先一本で支えながら、ミリ単位の誤差もなくトラックの荷台へと収めていく。
「ふん。この程度の質量、魔界の黒鉄巨兵の小指よりも軽い。……次だ。次の獲物を出せ」
「す、すげえ……。あんた、人間かよ!?」
「俺をその辺の有象無象と一緒に……おっと、ユヅルか。見ていろ、これが四天王の『効率』というものだ」
結弦に気づいたエルリックが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。その体からは、仕事への矜持……というよりも、「アルヴィスより稼いでやる」という執念に近い闘気が溢れ出していた。
その日の夜。結弦が帰宅すると、玄関にはアルヴィスとスレイプニルが、異様な殺気を放って待機していた。
「ユヅル! 聞きましたか! あのエルリック、初日の働きぶりが認められ、現場監督から『伝説の親方』という二つ名と、祝儀という名のボーナスをもらったそうです!」
「ヒヒーン!(ボクへの土産が、最高級のふりかけだった。エルリック、やるじゃないか)」
「いいじゃない、アルヴィス。二人とも立派に働いてくれて、僕は嬉しいよ。……あ、エルリックさん、おかえり」
扉が開くと、トレンチコートを肩にかけ、どこか達成感に満ちた顔のエルリックが立っていた。
その手には、近所の精肉店で買った「最高級の和牛」がずっしりと握られている。
「ただいま戻った、ユヅル。……アルヴィス、貴様は今日もカメラの前で微笑むだけの温い仕事をしていたそうだな。俺は今日だけで三件の拠点を完全移送させたぞ。……この報酬で、今日は肉だ。俺が焼く」
「何だと!? 貴様、私に労働の質で勝負を挑むとはいい度胸だ! 明日は私も、撮影の合間にスタジオの清掃任務を完遂してみせる!」
「清掃は金にならん。貴様は相変わらず効率が悪いな」
エルリックは鼻で笑うと、さっさとキッチンへ入り、和牛をフライパンに並べ始めた。
四天王がトレンチコートを脱ぎ、慣れない手つきでトングを操る姿は、もはや最強の戦士というよりは「頼りになる同居人」そのものだ。
「……ねえ、エルリックさん。無理しなくていいからね?」
「ふん、無理などしていない。」
アルヴィスは悔しそうにしながらも、肉の焼ける良い香りに抗えず、そわそわと箸を用意し始めている。
「よし、焼けたぞ。食え、ユヅル。……アルヴィス、貴様は野菜も食え。モデルなら体調管理も仕事のうちだろう」
「言われずとも分かっています! ……ですが、この肉……美味しそうですな」
狭いワンルームに、高級肉の香りと、元敵同士の騒がしい声が満ちていく。
スレイプニルが「ワン!(ボクの分を早くしろ!)」と尻尾を振り、結弦は笑いながら大盛りのご飯をテーブルに並べた。
勇者と四天王。
異世界では決して交わることのなかった二人が、今、日本の六畳一間で「どっちが稼げるか」という平和すぎる火花を散らしている。
結弦の日常は、ますます予測不能で、けれど何よりも温かな場所へと変わっていくのだった。
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