身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布

文字の大きさ
15 / 20

15話

しおりを挟む
 季節は確実に秋へと進んでいた。
 朝晩の空気はキリリと冷え込み、離宮の長い石廊下を掃除する昴(スバル)の指先も、わずかに赤らんでいる。

「……さすがに、水拭きが堪える季節になってきたな」
 
 バケツの温かいお湯を替えようとしたその時、背後からふわりと甘い香りが漂ってきた。

「おはよう、スバル。そんなに頑張りすぎて、愛しい指先があかぎれにでもなったら僕の胸が痛むよ」

 プラチナブロンドを揺らして現れたのはシオンだ。彼はいつもの完璧な微笑みを浮かべつつ、後ろに控えていた数人の従者たちに合図を送る。彼らが恭しく運んできたのは、見たこともないほど重厚で、複雑な刺繍が施された巨大な絨毯(じゅうたん)のロールだった。

「シオン様、それは?」

「贈り物だよ。この離宮の廊下は冷えすぎるからね。これは王室秘蔵の『陽だまりの魔導絨毯』。敷くだけで足元から春のような温もりを与えてくれるんだ」

 シオンの指示で、廊下に一気に絨毯が広げられる。
 足を乗せてみると、確かに。毛足が長く、踏むたびにじんわりとした熱が伝わってくる。まるで生きた日向を歩いているような心地よさだ。

「わあ……これ、すごいですね。……あ、でもシオン様」
 昴は感動しつつも、すぐに鋭い目で絨毯の毛並みをチェックし始めた。

「これ、毛足が長すぎて、埃が奥に入り込んだら掃除が大変そうなんですけど」

「……えっ。そこなの?」
 シオンが珍しく、拍子抜けしたような顔をした。そこへ、アルフレートとヴィンセントも様子を見に現れた。

「ほう。シオン、珍しく気の利いたことをしたな。これならスバルが風邪を引く心配も減るだろう」
 アルフレートが満足げに頷く。

「でもシオン様、この絨毯、魔力が込められてるせいで、周囲の埃を吸着する性質があるみたいだよ。……スバル君、僕が『自動洗浄の術式』を組み込んであげようか? 汚れがつく端から魔法が分解してくれる、究極のメンテナンスフリーさ」

 ヴィンセントの魅力的な提案。しかし、昴は即座に、そして断固として首を振った。

「却下です。そんなの、掃除じゃありません」

「えっ……」
 最高位の魔導師が、再び絶句する。

「魔法で汚れを消しちゃったら、この絨毯がどれだけ頑張って俺たちの足を温めてくれたか、分からなくなっちゃうじゃないですか。奥に溜まった砂や埃を叩き出し、毛並みを整えてこそ、絨毯も喜ぶんです。……この絨毯、俺が責任を持って自分の手で管理します!」

 昴の力強い宣言に、アルフレートが感心したように目を細めた。
「……流石だな。安易な魔法に頼らず、物事の本質と向き合おうというのか。スバルの清掃道(せいそうどう)、改めて感服した」

「あ! ウル、ダメだよ、そこで爪を研いだら!」

 新調された絨毯に興奮したウルが、さっそくバリバリと爪を立てようとする。さらに、昨日から家族に加わったルフト・マウスも、屋根裏から降りてきて絨毯の毛の中に潜り込み、大はしゃぎで転げ回っていた。

「キュイ! キュキュィ!」

「こら、お前も! ……そういえば、いつまでもお前って呼ぶのもなんだな。名前、決めてあげないと」

 昴は掃除の手を止め、毛の中から顔を出した小さな白い生き物を抱き上げた。
 背中の羽をパタパタとさせ、キラキラした目で昴を見つめる姿。

「風読みの鼠……。いつもくるくる動き回ってるし、風みたいに軽いから……『フウ』、っていうのはどうだ?」

「キュィィ!」
 新しい名前が気に入ったのか、フウは昴の頬にすり寄って喜んだ。

「フウ、か。いい名前だね、スバル」
 シオンが優しく微笑む。「僕が贈った絨毯の上で、新しい家族が名前をもらう。……なんだか、本当にここが『家』になっていくみたいで、嬉しいな」

 昴はさっそく、フウが持ち込んだ微細な埃を吸い取るべく、専用のブラシを取り出した。
 昴が無自覚に放つ浄化の魔力が、ブラシを通じて絨毯へと伝わる。すると、魔法で分解するよりもはるかに自然で、澄んだ輝きが毛並みに戻っていく。

「……信じられん。魔導具の性能自体が向上している。スバルの手にかかれば、掃除はもはや『研磨』だな」
 アルフレートの言葉に、シオンも満足げに頷いた。

「ふふ、ヴィンセント。魔法で解決しなくて正解だったね。スバルの手が触れるたびに、この離宮が洗練されていく」

 冷え込み始めた秋の午後。
 王宮の片隅にある離宮の廊下は、最高級の絨毯と、さらに贅沢な「清浄な空気」で満たされていた。
 
 膝の上で丸まるウル、肩に乗るフウ。そして、温かい紅茶を淹れる昴を囲む支配者たち。

 シオンの贈った絨毯は、単に足元を温めるだけでなく、彼らの心の距離をより一層近づける、特別な「陽だまり」となったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた

雪兎
BL
あらすじ 全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。 相手は学年でも有名な優等生α。 成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに—— めちゃくちゃ塩対応。 挨拶しても「……ああ」。 話しかけても「別に」。 距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。 (俺、そんなに嫌われてる……?) 同室なのに会話は最低限。 むしろ避けられている気さえある。 けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、 その塩対応αだった。 しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。 「……他のαに近づくな」 「お前は俺の……」 そこで言葉を飲み込む彼。 それ以来、少しずつ態度が変わり始める。 距離は相変わらず近くない。 口数も少ない。 だけど―― 他のαが近づくと、さりげなく間に入る。 発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。 そして時々、独占欲を隠しきれない視線。 実は彼はずっと前から知っていた。 俺が、 自分の運命の番かもしれないΩだということを。 だからこそ距離を取っていた。 触れたら、もう止まれなくなるから。 だけど同室生活の中で、 少しずつ、確実に距離は変わっていく。 塩対応の裏に隠されていたのは―― 重すぎるほどの独占欲だった。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しております

処理中です...