呪いで子犬になった最強騎士団長、うっかり拾った平民に全身全霊で愛でられる 〜人間の姿に戻ってもその抱擁、継続希望です〜

たら昆布

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11話

第一騎士団の本部での生活が始まってから、数日が経過した。
エルネに与えられた役職は「専属魔導具補佐」。実家では無能と蔑まれていた彼にとって、それはあまりに過分な名目だったが、クラウスの強引な後押しもあり、彼は騎士団の地下にある魔導工房へ通うことになった。

そこには、城に仕える宮廷魔導具師のルイスが待っていた。
ルイスは黄金の髪を軽くまとめ、丸眼鏡の奥で知的な瞳を輝かせている青年だ。彼はエルネが持ち込んだ、森の廃屋で自作したという生活魔導具を一目見た瞬間、椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。

「素晴らしい……!エルネ君、君は一体どこでこの回路構成を学んだんだい?魔力の変換効率が既存の術式の三倍を超えている。これはもはや、魔導具界の革命だよ!」

「えっ、あ、ええと……。ただ、不便だったので独学で少し工夫しただけで……」

エルネが恐縮して縮こまると、ルイスはその細い手をがっしりと両手で掴み、情熱的に顔を近づけてきた。

「独学!?信じられないな。君のような逸材が野に放たれていたなんて、この国の損失だ。ねえ、補佐なんて言わずに僕と一緒に研究を深めよう。君のその清らかな魔力特性なら、伝説級の魔導具だって作れるはずだ!」

ルイスの称賛は止まらず、エルネを工房のあちこちへ案内しては、熱心に魔導具の基礎理論について語りかけてくる。社交的で人当たりの良いルイスは、エルネが追放された身であることも気にせず、一人の技術者として対等に接してくれた。

さらに、工房に顔を出す騎士たちの反応も劇的だった。
エルネが試しに作った「剣の錆を数秒で落とす研磨石」や「匂いを瞬時に消し去る携帯用清浄具」は、実用性を重んじる騎士たちの間で瞬く間に評判となった。

「おい、エルネ殿!さっきの研磨具、予備はないか?これがあれば手入れの時間が半分で済む!」

「こっちの清浄具も頼む。遠征の時にこれがあれば、馬の臭いに悩まされずに済むんだ」

屈強な騎士たちが、控えめな少年であるエルネを取り囲み、次々と要望を口にする。
エルネは戸惑いながらも、自分の作ったものが誰かの役に立つ喜びを初めて噛み締めていた。
これまでの人生で、必要とされることなど一度もなかった。地下室の冷たい床で震えていた自分が、今はこうして、誰かの笑顔のために腕を振るっている。

「は、はい!急いで量産できるように調整しますね。ルイスさん、この術式を少し簡略化したいんですけど……」

「いいよ、エルネ君。こっちへおいで、一緒に図面を引こう。ほら、そこはもう少し魔力を流して……」

ルイスがエルネの肩に手を回し、距離を詰めて机を覗き込む。
エルネは魔導具の話に夢中になり、ルイスとの物理的な近さに気づいていなかった。

その時だった。

工房の重厚な扉が、爆発でも起きたかのような音を立てて開け放たれた。
同時に、肌を刺すような冷たく、そして暴力的なまでに巨大な魔力が部屋を満たす。
作業の手を止めた騎士たちが一斉に直立不動になり、顔面を蒼白にさせた。

「……何をしている、貴様ら」

地を這うような低い声。
入り口に立っていたのは、軍服のボタンを一つ外した、酷く不機嫌そうな顔のクラウスだった。その金色の瞳は獲物を屠る獣のごとく鋭く光り、部屋の中心でエルネと親しげに密着しているルイスを真っ向から射抜いている。

「あ、クラウス様!お仕事、終わったんですか?」

エルネがいつものように無邪気に駆け寄ろうとしたが、クラウスの放つ威圧感はそれを許さないほど凄まじかった。
クラウスは大股で歩み寄ると、エルネの細い腰を強引に引き寄せ、そのまま自分の背後に隠すようにして立ちはだかった。

「団長、これは……。私たちはただ、魔導具の調整を……」

ルイスが冷や汗を流しながら弁明しようとするが、クラウスはそれを鼻で笑った。
「報告は聞いている。エルネが作った試作品が好評だとな。……だが、ルイス。貴様が教えるべきは技術であって、私の専属に触れることではないはずだ」

「し、失礼しました……」

「他の者たちもだ。研磨具が欲しいなら正式な手続きを通せ。……エルネを、安易に呼びつけるな」

クラウスは周囲の騎士たちを一人残らず威圧し、工房内を北極の海のように凍りつかせた。
誰の目にも明らかだった。王国最強の騎士団長が、たった一人の「魔導具補佐」に対して、理性をかなぐり捨てた嫉妬を剥き出しにしているのだ。

「クラウス様、みんな怖がってますよ。それに僕、仕事中なんです」

エルネが背後から袖を引くが、クラウスは全く動じない。
「仕事は終わりだ。これ以上の作業は執務室で行わせる」

「えっ、でもあっちには設備が……」

「用意させる。……行くぞ」

クラウスは有無を言わせぬ力でエルネの手を握りしめ、工房を後にした。
引きずられるようにして廊下を歩く中、クラウスの歩幅はいつもより大きく、その背中からは「怒り」と「独占欲」が混じり合った熱い空気が漂っている。

最上階の自室に戻るなり、クラウスはエルネをソファに押し倒すようにして座らせた。
「……エルネ。貴様には危機感というものがないのか」

「危機感って……皆さん、凄く親切にしてくれてるだけですよ?」

「それが問題だと言っている!ルイスが、お前の肩を抱き、手を握っていた。……他の騎士どもも、お前の笑顔を見て鼻の下を伸ばしていたぞ」

クラウスはエルネの両肩を掴み、顔を至近距離まで近づけた。金色の瞳の中には、かつて子犬のシロだった頃には見せなかった、一人の「男」としてのどろりとした情熱が渦巻いている。

「お前は、私の恩人だ。……お前がその才能を振るうのも、笑顔を見せるのも、本来なら私だけであるべきなのだ」

「クラウス様、それって……もしかして、妬いてるんですか?」

エルネが不思議そうに首を傾げると、クラウスは一瞬絶句し、顔を背けた。
「……そんな、子供じみた感情ではない。……これは、貴重な魔導具師を保護するための、合理的な判断だ」

「ふふ、耳が赤くなってますよ」

エルネが小さく笑って、クラウスの頬にそっと手を添えた。
その瞬間、クラウスは逃がさないと言わんばかりに、エルネの手首を強く掴み、そのまま自分の首筋へと導いた。

「笑うな……。お前のせいで、私は今日一日、仕事に全く集中できなかったのだ。……償ってもらうぞ」

クラウスはエルネを抱きしめ、その首筋に顔を埋めて深く息を吸い込んだ。
エルネから伝わる、安心する魔力の味と日だまりの匂い。
「……今夜は、一歩も外へ出さん。ルイスにも、フェリクスにも、誰にもお前は会わせんからな」

クラウスの低い囁きが、エルネの耳元で熱く響く。
強引で、傲慢で、けれどたまらなく独占欲に満ちたの抱擁。
エルネは呆れながらも、自分の居場所が、結局はこの不器用な騎士団長の腕の中しかないことを確信し、その背中にそっと手を回した。

「はいはい。……よしよし、クラウス様」

子犬の頃と同じように髪を撫でてやると、クラウスの放っていた刺々しい魔力が、みるみるうちに甘く蕩けたものへと変貌していく。
最強の男を、たった数秒で骨抜きにしてしまう少年。
城中の誰もが畏怖する騎士団長は、今日もまた、自分だけの小さな「専属」に、無様に執着し続けるのだった。
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