路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―

たら昆布

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3話

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 あまりに場違いな美青年の登場に、店内の空気が一瞬で華やいだ気がした。
 
 銀髪をさらりと揺らし、仕立てのいいシャツを着こなすその男の人は、シオンと名乗るまでもなかった。
 
 テレビの音楽番組で何度も見たことがある、アイドルグループ『GALAXY』のリーダー、シオンさんだ。
 
「あ、あの……。はい、レオさんなら、ちょうど今お帰りになったばかりですが」
 
 僕が戸惑いながら答えると、シオンさんはふっと息を吐き、レオさんが座っていた椅子に腰を下ろした。
 
「まったく、あいつは。撮影の合間にどこへ消えたかと思えば、こんな場所で油を売っていたのか」
 
 呆れたような口調だが、その瞳にはどこか身内を案じるような温かい色が混じっている。
 
 僕は少し緊張しながら、とりあえずお冷を運んだ。
 
「レオさんとは、お知り合いなんですか? お仕事仲間か何か……」
 
「君、レオの正体を知らずに接しているのか?」
 
「ええと、すごく綺麗な人なので、モデルさんかなぁとは思っていますけど」
 
 シオンさんは僕を値踏みするようにじっと見つめた後、くすりと楽しそうに笑った。
 
「ふん。あいつが必死に変装している甲斐があったというわけか。あいつはレオ。この国のエンターテインメントの頂点を目指しているアイドルだよ。といっても、中身はただの泣き虫な同い年の友人だがね」
 
 頂点。その言葉の響きに、僕はレオさんの凄さを改めて実感する。
 
 やっぱり、あの『GALAXY』のセンター、レオさん本人だったんだ。
 
 でも、それならどうして、あんな凄い人が僕みたいな普通の大学生に構うんだろう。
 
「レオは、昔からずっと誰かを探していたんだ。芸能界に入ったのも、有名になればその相手に見つけてもらえるかもしれないっていう、純粋な理由でね」
 
 シオンさんは窓の外を眺めながら、どこか遠くを見るような目で呟いた。
 
「ようやく見つけたらしいが、あいつは見ての通りの性格だろう? 空回りして迷惑をかけていないか心配でね」
 
「迷惑だなんて、とんでもない。レオさんはとても礼儀正しくて、素敵な方ですよ」
 
 僕が心からそう言うと、シオンさんは満足そうに頷いて立ち上がった。
 
「君、いい人だね。レオがこれほどまでに通いつめる理由が分かった気がするよ」
 
 シオンさんは帰り際、入り口のドアに手をかけて振り返った。
 
「一つ、あいつの味方をしてやってくれないかな。レオは、君の前では最高に格好いい自分でいたいと思っている。もし正体がバレても、今まで通り普通に接してやってほしいんだ。あいつにとって、ここは唯一の『一休みできる場所』みたいだから」
 
 優しく微笑んで、シオンさんは去っていった。
 
(一休みできる場所、か……。僕にできることがあればいいけど)
 
 翌日、またいつもの時間にレオさんがやってきた。今日は一段と大きな眼鏡をかけて、顔を隠そうとしている。
 
「千秋さん、こんにちは! あの、今日はシフォンケーキ、まだありますか?」
 
 シオンさんが言っていた「頂点のアイドル」とは程遠い、尻尾を振るワンコのような笑顔だ。
 
「ありますよ。レオさん、昨日お友達が来てましたよ。シオンさんって人」
 
 僕がそう告げた瞬間、レオさんの顔が文字通り真っ青になった。
 
「えっ!? シ、シオンが……? な、何か変なこと言われませんでしたか? 僕がわがままだとか、実は部屋が汚いとか、そんなことっ!」
 
「いえ、そんなことは。ただ、レオさんは凄く頑張り屋さんだって褒めてましたよ。……あ、それと、アイドルだってことも」
 
 レオさんはギクッとして動きを止める。そして、おずおずとサングラスを外し、不安そうな目で僕を見た。
 
「……嫌、ですか? アイドルなんてやってる人、なんだか遠い世界の人だって、思いますか?」
 
「まさか! 凄いなぁって尊敬します。あ、でも、あんまり無理はしないでくださいね。昨日も撮影で道に迷っちゃうくらい疲れてたみたいですし」
 
 僕が本気で心配して言うと、レオさんの瞳にじわりと熱がこもった。
 
 彼は僕の手を、テーブル越しにそっと握りしめる。
 
「千秋さんは、本当に優しいですね。僕のこと、アイドルとしてじゃなく、ただの『レオ』として心配してくれるの、千秋さんだけです」
 
 その手のぬくもりが心地よくて、僕は手を引くのを忘れてしまった。
 
 レオさんの真っ直ぐな視線に、僕の胸がトクンと小さな音を立てる。
 
 けれど僕は、それを「綺麗な人に見つめられて緊張しただけだ」と、いつものように結論づけてしまったのだった。
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