「お前を愛することはない」と言い放った冷徹騎士様が、僕の作った飯が旨すぎて毎日「結婚してくれ(おかわり)」と泣きついてくる件について

たら昆布

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9話

「面白い。ならば、どちらがナギ君を所有するに相応しいか、料理で決着をつけようじゃないか」

セドリック王子の爆弾発言に、騎士団食堂が「おおおっ!」という地鳴りのような歓声に包まれた。
王子の後ろからは、いかにも「一流」というオーラを纏った、髭の立派な宮廷料理人が不敵な笑みを浮かべて現れる。

「……ナギ、負けるな。貴様が負けたら、私は一生、味のしないパンを齧るだけの機械に戻ってしまう」

ガイスト様が、僕の肩をガシッと掴んで揺さぶってくる。その顔は、魔王というよりは「給食がなくなることを恐れる子供」そのものだ。

(いや、勝手に僕を景品にしないでほしいんだけど……!)

とはいえ、売られた喧嘩を買わないわけにはいかない。料理人のプライドにかけて。
対決のテーマは『騎士団の士気を高める、最強のスタミナ飯』に決定した。

相手の宮廷料理人は、王家秘伝の高級ハーブと、最高級のドラゴンの肉を取り出した。
対する僕は――。

「……よし。僕はこれで行くよ」

僕が取り出したのは、安価だが旨味が凝縮された『豚のバラ肉』と、大量の『ニラ』、そして『ニンニク』。
さらに、前世の記憶から再現した秘伝の調味料、豆板醤と甜麺醤を混ぜ合わせた自家製タレだ。

「ナギ君、そんな庶民的な食材で僕の宮廷シェフに勝てると思っているのかい?」

セドリック王子が余裕の笑みを浮かべるが、僕は無言で中華鍋(を魔法で再現したもの)を熱した。

油が煙を上げ始めた瞬間、刻んだニンニクと生姜を投入する。
シュワーッ!! という激しい音と共に、暴力的なまでに食欲をそそる香りが食堂全体を支配した。

「……っ!! な、なんだこの匂いは! 鼻腔を突き抜け、胃袋を直接掴まれるような……!」

ガイスト様が、最前列で「はうぅっ」とのけぞった。

僕は一気に肉と野菜を放り込み、強火で煽る。
仕上げに自家製タレを回し入れると、焦げた味噌の芳ばしさと唐辛子の刺激が、騎士たちの理性を粉々に砕いていった。

「お待たせしました。ナギ特製『爆食・回鍋肉(ホイコーロー)』です!」

真っ白なご飯をこれでもかと盛った茶碗を添えて、審査員のガイスト様とセドリック王子の前に差し出す。

対する宮廷シェフは、美しく飾り付けられたドラゴンのステーキを差し出した。
見た目は宮廷シェフの圧勝。しかし――。

「……いただく」

ガイスト様が、迷わず回鍋肉に箸を伸ばした。
肉とキャベツを一度に口に運び、そのまま間髪入れずに白米を口に放り込む。

「…………っ!!! ぐっ、う、うおおぉぉぉ!!」

ガイスト様が咆哮した。
その背後から、目に見えるほどの魔力のオーラが噴き出す。

「この……この濃い味! 味噌のコクと肉の脂が、白米という名の海で暴れ回っている! 噛むたびに元気が、いや、力が、力が溢れてくるぞ!!」

「どれ、僕にも……っ!? ……うまっ!! なんだこれ、止まらない! 下品だ、下品なのに……手が止まらないよ、ナギ君!!」

セドリック王子も、王族の作法を忘れて飯をかき込んでいる。
対するドラゴンのステーキは、一口食べられただけで放置されていた。

「勝負ありだな……」

レオが呆れたように呟く。
騎士たちも、ナギの作った回鍋肉の香りに耐えきれず、「俺たちにも食わせろー!」と暴動寸前の騒ぎになった。

「……負けた。僕の負けだ。ナギ君、君の料理には『愛』……いや、『中毒性』という名の魔術がかけられている」

セドリック王子は満足げに(腹をさすりながら)負けを認めた。

「だが、諦めないよ。いつか必ず、僕の国へ招待する。……ガイスト、君は幸せ者だね。こんな素晴らしい宝物を独り占めしているんだから」

「当然だ。……ナギ、よくやった。褒美として、今夜は私の部屋に来い。……バケツ一杯の、今の茶色の食べ物を持ってな」

「……団長。せめてお皿で食べてくださいって、いつも言ってるじゃないですか」

こうして、ナギの身柄を懸けた対決は、無事に(?)ナギの勝利に終わった。
だが、ガイスト様の「食」と「ナギ」への執着は、この日を境に、さらに手の付けられないレベルへと突入していくのだった。
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