「お前を愛することはない」と言い放った冷徹騎士様が、僕の作った飯が旨すぎて毎日「結婚してくれ(おかわり)」と泣きついてくる件について

たら昆布

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10話

激動の料理対決から一夜明け。
僕は「今日くらいはゆっくり寝よう」と思っていたのに、早朝から部屋のドアを破壊せんばかりの勢いでノックされた。

「……ナギ、起きろ。休養(デート)の時間だ」

扉を開けると、そこには私服姿のガイスト様が立っていた。
いつもはきっちりとした軍服だが、今日は上質な黒のシャツにタイトなパンツ。
銀髪をラフに流したその姿は、街を歩けば間違いなく人だかりができるレベルの超絶美形だ。

「……団長、お休みの日まで僕の顔を見たくないって、いつか言ってませんでしたっけ?」

「記憶にないな。今の私には、貴様の顔を見ない時間は死に至る病に等しい」

真顔で恐ろしいことを言う。
結局、僕はなかば強引に馬車に乗せられ、王都から少し離れた静かな湖畔へと連れてこられた。

「……たまには厨房から離れ、羽を伸ばすがいい。貴様は働きすぎだ」

「団長に毎日『おかわり』をせがまれるせいですよ……」

僕たちは湖を見晴らす丘の上にレジャーシートを広げた。
ガイスト様は慣れない手つきで、僕のために用意したという大きなバスケットを開ける。
中には、騎士団の厨房から彼が自ら(!)詰め込んできたという、不格好だが愛情の感じられるサンドイッチが入っていた。

「……私が作った。貴様の指導を思い出しながら、具材を挟んだだけだが」

「え、団長が料理を?」

僕は驚いて一口齧る。
少し塩っぱいけれど、ハムとチーズがたっぷり入っていて、彼が僕を喜ばせようとしたのが伝わってくる味だった。

「美味しいです、団長」

「……そうか。ならばよし」

ガイスト様は耳まで真っ赤にして、明後日の方角を向いた。
僕は口直しに、持参してきた水筒を取り出す。

「これ、ハニーレモンティーです。昨日のお礼に作ってきました」

「……ほう」

コップに注いだ琥珀色の液体。自家製の蜂蜜に漬け込んだレモンの酸味と甘みが、疲れをじわじわと癒やしてくれる。
一口飲んだガイスト様の表情が、いつもの「氷」から「とろとろのハチミツ」のように溶け落ちた。

「……甘い。ナギ、お前は本当に……私をどうしたいのだ」

「え? 喜んでほしかっただけですけど」

「……無自覚な男め。貴様がそうやって笑うたびに、私の胸の奥が、熱した鉄のように熱くなるのがわからないのか」

ガイスト様が、芝生の上に座る僕の隣に、ゆっくりと体を倒してきた。
彼の頭が僕の膝の上に乗る。いわゆる、膝枕というやつだ。

「ちょ、団長……!? 外ですよ!」

「誰もいない。……いいだろう、今日くらいは独占させろ」

ガイスト様は僕を見上げ、そっと僕の手を取って自分の頬に当てた。
騎士の硬いタコがある手ではなく、僕の少しふっくらとした料理人の手を、慈しむように。

「……ナギ。私は今まで、戦いと規律の中にしか価値を見出せなかった。だが、貴様が作る飯を食べ、貴様とこうして過ごすようになってから……世界が、驚くほど色鮮やかに見えるのだ」

「……団長」

「もう、貴様無しでは生きられん。……私の胃袋も、心も、すべて貴様に捧げよう」

さっきまでのコメディ展開はどこへやら。
湖畔の爽やかな風に吹かれながら、ガイスト様の瞳は熱く、真っ直ぐに僕を射抜いていた。
僕は真っ赤になりながら、レモンティーの甘い香りに包まれて、彼を突き飛ばすことができなかった。

(……この人、本当にずるいなぁ)

冷徹なはずの騎士様が、僕だけにせる「デレ」の破壊力。
それは、どんな激辛スパイスよりも僕の心に刺激的だった。

その時、遠くから「団長ーー! 緊急の書類がーー!」というレオの声が聞こえてこなければ、もっと完璧だったのだけれど。

「…………レオ。あいつだけは、本当に、今度こそ、サザランドに飛ばしてやる……」

ガイスト様が地獄の底から響くような声で呟き、僕の膝に顔を埋めた。
僕たちの休日は、やっぱり一筋縄ではいかないみたいだ。
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