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11話
「……うう、頭が重い……」
昨日の湖畔デートでの、ちょっとした冷えがいけなかったのかもしれない。
朝、目を覚ました僕は、体が鉛のように重いことに気づいた。
額に手を当てれば、驚くほど熱い。
「よりによって、こんな日に……。朝ごはん、作らなきゃいけないのに……」
ふらふらしながらベッドから立ち上がろうとしたけれど、視界がぐるりと回って、そのまま枕に沈み込んだ。
しばらく荒い息を吐きながら耐えていると、バタン! とドアが勢いよく開け放たれた。
「ナギ! 朝の点呼(という名のおかわり要求)に来ないとはどういうことだ! 貴様、私を餓死させるつもり――」
入ってきたのは、もちろんガイスト様だ。
だが、僕の顔色を見るなり、彼は言葉を飲み込んで僕の枕元に膝をついた。
「……ナギ? 貴様、その顔は……」
「……あ、団長……。すみません、今日、朝ごはんは……お休み、で……」
「馬鹿者! 飯などどうでもいい。……ひどい熱ではないか」
ガイスト様の手が、僕の額に触れる。
冷徹騎士様の冷たいはずの手が、今はひどく心地よかった。
彼は即座に部屋の外へ向かって怒鳴り声を上げた。
「レオ! 最高の軍医を呼べ! あと、氷と、新鮮な水と、最高級の果実を持ってこい! 一秒でも遅れたら、貴様を極北の砦に左遷する!!」
(……そこまでしなくていいのに)
遠くで「またですかー!」というレオの悲鳴が聞こえる。
ガイスト様は部屋に戻るなり、軍服のジャケットを脱ぎ捨てて僕のベッドの脇に座り込んだ。
「……すまない。昨日、私が無理に連れ出したせいだな」
「……違いますよ。僕が、油断しただけです……」
「喋るな。体力が削れる」
ガイスト様は、持ってきた水差しから器に水を汲むと、魔法でそれを最適な温度(キンキンに冷えた状態)に保ち始めた。
さらに、濡らしたタオルを僕の額に置く。その手つきは、驚くほど丁寧で慎重だった。
しばらくして、レオが持ってきた果物を、ガイスト様は慣れない手つきで剥き始めた。
剣を握るためのその手で、彼は一生懸命にリンゴをウサギの形(?)に切ろうとしている。
「……団長、それ……形が、すごいです」
「黙っていろ。……ほら、あーんだ」
「えっ……。じ、自分でも食べられ……」
「却下だ。病人は大人しく、私に甘やかされていればいい」
ガイスト様がフォークで刺したリンゴを、僕の口元へ運んでくる。
仕方なく口を開けると、シャリシャリとした甘い果汁が喉を潤した。
彼の瞳は、いつもの鋭さを失い、壊れ物を扱うような優しさに満ちている。
「……ナギ。貴様がいなくなったら、私は何を糧に生きればいい。だから、早く治せ。……治ったら、またあの、茶色の旨いものを食べさせてくれ」
「……ふふ、結局……食い気、なんですね……」
「違う! 食欲と同じくらい、いや、それ以上に……貴様が健やかに笑っている姿が、私には必要なのだ」
ガイスト様は、僕の手をそっと握りしめた。
その熱意に当てられたのか、それとも熱のせいか、僕の意識は再び朦朧とし始める。
「……どこにも、行くなよ。ずっと私の側にいろ」
耳元で囁かれる、低い、甘い声。
僕はその声に包まれるようにして、深い眠りへと落ちていった。
騎士団最強の男が、ただの飯炊き係のために必死になって看病してくれている。
そんな夢を見ているような、不思議な安心感の中で。
……数時間後。
目を覚ました僕は、自分のベッドに「添い寝」の形で、僕を抱きしめたまま爆睡している騎士団長の姿を見て、再び熱が上がりそうになるのだった。
昨日の湖畔デートでの、ちょっとした冷えがいけなかったのかもしれない。
朝、目を覚ました僕は、体が鉛のように重いことに気づいた。
額に手を当てれば、驚くほど熱い。
「よりによって、こんな日に……。朝ごはん、作らなきゃいけないのに……」
ふらふらしながらベッドから立ち上がろうとしたけれど、視界がぐるりと回って、そのまま枕に沈み込んだ。
しばらく荒い息を吐きながら耐えていると、バタン! とドアが勢いよく開け放たれた。
「ナギ! 朝の点呼(という名のおかわり要求)に来ないとはどういうことだ! 貴様、私を餓死させるつもり――」
入ってきたのは、もちろんガイスト様だ。
だが、僕の顔色を見るなり、彼は言葉を飲み込んで僕の枕元に膝をついた。
「……ナギ? 貴様、その顔は……」
「……あ、団長……。すみません、今日、朝ごはんは……お休み、で……」
「馬鹿者! 飯などどうでもいい。……ひどい熱ではないか」
ガイスト様の手が、僕の額に触れる。
冷徹騎士様の冷たいはずの手が、今はひどく心地よかった。
彼は即座に部屋の外へ向かって怒鳴り声を上げた。
「レオ! 最高の軍医を呼べ! あと、氷と、新鮮な水と、最高級の果実を持ってこい! 一秒でも遅れたら、貴様を極北の砦に左遷する!!」
(……そこまでしなくていいのに)
遠くで「またですかー!」というレオの悲鳴が聞こえる。
ガイスト様は部屋に戻るなり、軍服のジャケットを脱ぎ捨てて僕のベッドの脇に座り込んだ。
「……すまない。昨日、私が無理に連れ出したせいだな」
「……違いますよ。僕が、油断しただけです……」
「喋るな。体力が削れる」
ガイスト様は、持ってきた水差しから器に水を汲むと、魔法でそれを最適な温度(キンキンに冷えた状態)に保ち始めた。
さらに、濡らしたタオルを僕の額に置く。その手つきは、驚くほど丁寧で慎重だった。
しばらくして、レオが持ってきた果物を、ガイスト様は慣れない手つきで剥き始めた。
剣を握るためのその手で、彼は一生懸命にリンゴをウサギの形(?)に切ろうとしている。
「……団長、それ……形が、すごいです」
「黙っていろ。……ほら、あーんだ」
「えっ……。じ、自分でも食べられ……」
「却下だ。病人は大人しく、私に甘やかされていればいい」
ガイスト様がフォークで刺したリンゴを、僕の口元へ運んでくる。
仕方なく口を開けると、シャリシャリとした甘い果汁が喉を潤した。
彼の瞳は、いつもの鋭さを失い、壊れ物を扱うような優しさに満ちている。
「……ナギ。貴様がいなくなったら、私は何を糧に生きればいい。だから、早く治せ。……治ったら、またあの、茶色の旨いものを食べさせてくれ」
「……ふふ、結局……食い気、なんですね……」
「違う! 食欲と同じくらい、いや、それ以上に……貴様が健やかに笑っている姿が、私には必要なのだ」
ガイスト様は、僕の手をそっと握りしめた。
その熱意に当てられたのか、それとも熱のせいか、僕の意識は再び朦朧とし始める。
「……どこにも、行くなよ。ずっと私の側にいろ」
耳元で囁かれる、低い、甘い声。
僕はその声に包まれるようにして、深い眠りへと落ちていった。
騎士団最強の男が、ただの飯炊き係のために必死になって看病してくれている。
そんな夢を見ているような、不思議な安心感の中で。
……数時間後。
目を覚ました僕は、自分のベッドに「添い寝」の形で、僕を抱きしめたまま爆睡している騎士団長の姿を見て、再び熱が上がりそうになるのだった。
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