「お前を愛することはない」と言い放った冷徹騎士様が、僕の作った飯が旨すぎて毎日「結婚してくれ(おかわり)」と泣きついてくる件について

たら昆布

文字の大きさ
20 / 35

20話

カーテンの隙間から差し込む朝陽が、豪華な寝室のシーツを白く染めていた。
僕は、見慣れない天井を見上げながら、昨夜の出来事を思い出して顔が火が出るほど熱くなる。

「……あ、団長。起きてたんですか」

隣を見ると、既に目を覚ましていたガイスト様が、肘をついてじっと僕を見つめていた。
乱れた銀髪が額にかかり、いつもは鋭い瞳が、今はとろけるような熱を帯びている。

「……おはよう、ナギ。貴様の寝顔があまりに愛おしくて、一時間前からこうしていた」

「一時間も!? 怖いですって……」

僕が布団に潜り込もうとすると、ガイスト様の逞しい腕が伸びてきて、僕をシーツごと抱き寄せた。
肌越しに伝わる彼の体温。昨夜、僕を何度も求めたその熱が、まだ消えずに残っている。

「……離さない。今日という日は、国が滅びようとも私はこの部屋から出ん。貴様を一日中、こうして抱きしめて過ごす」

「だめですよ、仕事してください! ……それに、お腹空きませんか?」

僕がそう言うと、ガイスト様は「くっ」と喉を鳴らして笑った。

「ふむ、確かに。愛だけでは腹は膨らまぬか。だが、今朝は私が作ろう。ナギ、貴様はそこで私の『妻』として、ゆっくりと休んでいろ」

「……まだ妻じゃないです! ……でも、団長が作るなら、手伝いますよ」

結局、僕たちは二人でキッチンへ向かった。
広い公爵邸の厨房に、朝日が差し込む。
今朝のメニューは、シンプルだが贅沢な『厚切りベーコンのエッグベネディクト』だ。

ガイスト様は、僕の指導を受けながら真剣な顔でポーチドエッグを作っている。
「ナギ、この『白身の包み込み』は、剣筋の微調整に通じるものがあるな……」と、相変わらず料理を軍事的に解釈しているのがおかしい。

やがて完成した朝食を、バルコニーのテーブルへ運ぶ。
王都を一望できる絶景の中、僕たちは並んで座った。

「……あーん」

「えっ、またですか?」

「当たり前だ。昨夜の体力を回復させるためにも、私が貴様に食べさせねばならん」

ガイスト様は、オランデーズソースがたっぷりかかった卵を、丁寧に僕の口へ運ぶ。
とろりとした黄身のコクと、カリカリに焼いたベーコンの塩気。
そして、彼の手から与えられるという、何よりも甘いスパイス。

「……美味しい。団長、本当に料理上手になりましたね」

「貴様という最高の師がいるからな。……ナギ、一つ聞かせてくれ」

ガイスト様は、僕の手をそっと取り、自分の唇に寄せた。

「……私と、正式に婚約してくれないか。飯炊き係としてではなく、ローゼンブルク公爵夫人として。貴様のその魔法の指先に、私の家紋を刻んだ指輪を贈らせてほしい」

「……団長」

僕は、彼の真っ直ぐな瞳を見つめ返した。
最初は、ただ胃袋を掴んだだけの関係だったかもしれない。
でも、今はもう、この人の隣が僕にとって一番落ち着く場所だ。

「……はい。僕でよければ、一生、団長の隣でご飯を作らせてください」

「……っ! ナギ!!」

ガイスト様は椅子を蹴り飛ばさんばかりの勢いで立ち上がると、僕を抱き上げ、何度も、何度も、誓いのキスを落とした。

バルコニーに広がる青空の下。
冷徹騎士様と、異世界から来た飯炊き係の物語は、ここから「夫婦」という名の新しい章へと進み始める。
もちろん、その食卓には、これからも溢れんばかりの『おかわり』と、甘すぎる『愛』が並び続けることだろう。
感想 1

あなたにおすすめの小説

政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話

BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。 ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後

結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。 ※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。 全5話完結。予約更新します。

【完結】王弟殿下の欲しいもの

325号室の住人
BL
王弟殿下には、欲しいものがある。 それは…… ☆全3話 完結しました

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

悪役令息はもう待たない

月岡夜宵
BL
突然の婚約破棄を言い渡されたエル。そこから彼の扱いは変化し――? ※かつて別名で公開していた作品になります。旧題「婚約破棄から始まるラブストーリー」

愛人少年は王に寵愛される

時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。 僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。 初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。 そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。 僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。 そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。