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26話
王宮晩餐会での大勝利により、僕の立場は「謎の飯炊き係」から「救国の天才料理人」へと跳ね上がった。
だが、それは同時に、ローゼンブルク公爵夫人としての正式なお披露目が近いことを意味していた。
「……ナギ。今日から三日間、私が直々に貴様にマナーを叩き込む。他人に貴様の体に触れさせるなど、万死に値するからな」
公爵邸の図書室。ガイスト様はそう宣言すると、僕の背後にぴったりと張り付いた。
本来ならプロの家庭教師を雇うべきなのに、彼は「ナギの腰を支えるのは私の役目だ」と言い張り、すべての講師を追い払ってしまったのだ。
「……団長。マナーのレッスンに、後ろから抱きしめる必要ありますか?」
「ある。ダンスのステップは、互いの心音を感じ取ることから始まるのだ。ほら、足を出せ」
ガイスト様の手が、僕の腰をグイと引き寄せる。
教本通りのステップを刻もうとするけれど、首筋にかかる彼の熱い吐息のせいで、足元がおぼつかない。
「……ふむ。体幹が弱っているな。昨夜、ニンニクを食べさせなかったせいか?」
「違います、団長が近すぎるせいです! ……ああっ!」
足をもつれさせた僕を、ガイスト様が鮮やかな手捌きで抱き止めた。
そのまま絨毯の上に押し倒される形になり、視界がいっぱいの銀髪と、情熱を孕んだ瞳で埋め尽くされる。
「……ナギ。もう礼儀などどうでもいいのではないか? 貴様が私の隣で笑い、私の飯を作ってくれる。それ以上のマナーがこの世にあるか?」
「……それを言ったら、レッスンになりませんよ」
「ならば、褒美(ごほうび)を先取りさせろ。……あーんだ」
ガイスト様が取り出したのは、僕が練習用に用意していたマカロン。
それを自分の口に含み、あろうことか「口移し」で僕に贈ろうとしてくる。
「む、むぐっ!? ……んんっ!」
甘い砂糖の味と、彼特有の冷涼な、けれど熱い香りが混ざり合う。
レッスンとは名ばかりの、ただの甘い監禁。
僕の唇は、マナーを覚えるどころか、彼の形をなぞるだけで精一杯になってしまった。
「……合格だ。貴様の唇は、世界で最も気高く、甘い」
「……団長、もうめちゃくちゃです……」
結局、三日間のレッスンで僕が覚えたのは、優雅な会釈でも複雑なダンスステップでもなく、「ガイスト様の腕の中でいかに力を抜いて甘えるか」という、公爵夫人としては極めて偏った技能だけだった。
見かねたレオが「……これ、お披露目会じゃなくて、ただのノロケ発表会になりますよ?」と書類で顔を隠しながら呟いていたが、ガイスト様は聞こえないふりをして、僕の指先に誓いのキスを落とし続けていた。
僕たちの「マナーレッスン」は、いつの間にか、一生終わらない甘い愛の儀式へと変わっていた。
だが、それは同時に、ローゼンブルク公爵夫人としての正式なお披露目が近いことを意味していた。
「……ナギ。今日から三日間、私が直々に貴様にマナーを叩き込む。他人に貴様の体に触れさせるなど、万死に値するからな」
公爵邸の図書室。ガイスト様はそう宣言すると、僕の背後にぴったりと張り付いた。
本来ならプロの家庭教師を雇うべきなのに、彼は「ナギの腰を支えるのは私の役目だ」と言い張り、すべての講師を追い払ってしまったのだ。
「……団長。マナーのレッスンに、後ろから抱きしめる必要ありますか?」
「ある。ダンスのステップは、互いの心音を感じ取ることから始まるのだ。ほら、足を出せ」
ガイスト様の手が、僕の腰をグイと引き寄せる。
教本通りのステップを刻もうとするけれど、首筋にかかる彼の熱い吐息のせいで、足元がおぼつかない。
「……ふむ。体幹が弱っているな。昨夜、ニンニクを食べさせなかったせいか?」
「違います、団長が近すぎるせいです! ……ああっ!」
足をもつれさせた僕を、ガイスト様が鮮やかな手捌きで抱き止めた。
そのまま絨毯の上に押し倒される形になり、視界がいっぱいの銀髪と、情熱を孕んだ瞳で埋め尽くされる。
「……ナギ。もう礼儀などどうでもいいのではないか? 貴様が私の隣で笑い、私の飯を作ってくれる。それ以上のマナーがこの世にあるか?」
「……それを言ったら、レッスンになりませんよ」
「ならば、褒美(ごほうび)を先取りさせろ。……あーんだ」
ガイスト様が取り出したのは、僕が練習用に用意していたマカロン。
それを自分の口に含み、あろうことか「口移し」で僕に贈ろうとしてくる。
「む、むぐっ!? ……んんっ!」
甘い砂糖の味と、彼特有の冷涼な、けれど熱い香りが混ざり合う。
レッスンとは名ばかりの、ただの甘い監禁。
僕の唇は、マナーを覚えるどころか、彼の形をなぞるだけで精一杯になってしまった。
「……合格だ。貴様の唇は、世界で最も気高く、甘い」
「……団長、もうめちゃくちゃです……」
結局、三日間のレッスンで僕が覚えたのは、優雅な会釈でも複雑なダンスステップでもなく、「ガイスト様の腕の中でいかに力を抜いて甘えるか」という、公爵夫人としては極めて偏った技能だけだった。
見かねたレオが「……これ、お披露目会じゃなくて、ただのノロケ発表会になりますよ?」と書類で顔を隠しながら呟いていたが、ガイスト様は聞こえないふりをして、僕の指先に誓いのキスを落とし続けていた。
僕たちの「マナーレッスン」は、いつの間にか、一生終わらない甘い愛の儀式へと変わっていた。
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