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27話
ついにやってきた、ローゼンブルク公爵家の次期夫人お披露目夜会。
鏡の中の僕は、ガイスト様が「ナギの瞳の色に合う」と選んだ、深い紺色の最高級礼服に身を包んでいた。
「……ナギ。あまりにも綺麗だ。今すぐこの扉に鍵をかけ、誰にも見せずに朝まで愛でていたい」
「団長、それさっきから十回は言ってます。主役が不在の夜会なんてありえませんからね」
僕は溜息をつきながら、彼の首元のタイを直してあげる。
ガイスト様は満足げに目を細めると、僕の手を引いて会場である大広間へと向かった。
広間に入った瞬間、突き刺さるような視線を感じた。
「あの地下食堂の飯炊きが?」「公爵様も、一時の気の迷いに違いないわ」
扇子の影で囁かれる心ない言葉。
ガイスト様はそれらを冷徹な眼光一つで射殺しながら、僕を中央へとエスコートした。
だが、嫌がらせは意外なところから始まった。
「おやおや。平民の夫人が用意したという料理、楽しみにしていましたが……これは何です? こんな『つまみ』のようなもの、貴婦人の口には合いませんわ」
会場に並べられたのは、豪華な大皿料理ではなく、色とりどりの小さな宝石のような『フィンガーフード』だった。
僕が前世のパーティー料理をヒントに、ドレスを汚さず、会話を邪魔せず、それでいて最高に美味しいものを追求した結果だ。
「……ふん、見た目だけね」
一人の令嬢が、皮肉げに『スモークサーモンとクリームチーズのひと口パイ』を口に運んだ。
サクッ……。
「…………っ!!? な、何これ、美味しい……!」
瞬く間に、会場の空気が変わった。
「この小さなパンの上に、フォアグラのムースとイチジクのジャム……甘みと塩気のバランスが神懸かっているわ!」
「こちらの『魔獣肉のひと口カツ・特製トリュフソース』も絶品だ! 立ち話の最中でも、片手でこんな贅沢が味わえるとは!」
貴族たちは、最初は気取っていたものの、その「一口の破壊力」に抗えず、我先にと僕の料理に手を伸ばし始めた。
高貴なマナーなどどこへやら。広間のあちこちで「美味しい」「もっと持ってきて!」という悲鳴のような歓声が上がる。
「……見たか、愚か者共。ナギの料理は、貴様らのくだらないプライドなど一瞬で溶かす」
ガイスト様は誇らしげに胸を張り、僕の腰をグイと引き寄せた。
そして、人目も憚らず、僕の頬に深いキスを落とす。
「団長! みんな見てますって!」
「見せつければいい。……ナギ。貴様の料理に跪いたこの連中は、もう二度と貴様を侮ることはないだろう。だが……」
ガイスト様の瞳に、ドロリとした濃密な独占欲が戻る。
「……これほど賞賛されると、やはり隠したくなるな。ナギ、あとの給仕はレオに任せろ。私はもう限界だ。……帰るぞ、私たちの『寝室』へ」
「ええっ、まだ夜会の途中ですよ!?」
「構わん。私の『胃袋』と『心』が、今すぐ貴様というメインディッシュを求めているのだ」
結局、主役の二人が夜会の途中で失踪したという前代未聞のスキャンダルは、翌朝の王都をナギの料理の噂と共に席巻することになった。
冷徹騎士様の愛は、もはや公衆の面前でも止まることを知らなかった。
鏡の中の僕は、ガイスト様が「ナギの瞳の色に合う」と選んだ、深い紺色の最高級礼服に身を包んでいた。
「……ナギ。あまりにも綺麗だ。今すぐこの扉に鍵をかけ、誰にも見せずに朝まで愛でていたい」
「団長、それさっきから十回は言ってます。主役が不在の夜会なんてありえませんからね」
僕は溜息をつきながら、彼の首元のタイを直してあげる。
ガイスト様は満足げに目を細めると、僕の手を引いて会場である大広間へと向かった。
広間に入った瞬間、突き刺さるような視線を感じた。
「あの地下食堂の飯炊きが?」「公爵様も、一時の気の迷いに違いないわ」
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ガイスト様はそれらを冷徹な眼光一つで射殺しながら、僕を中央へとエスコートした。
だが、嫌がらせは意外なところから始まった。
「おやおや。平民の夫人が用意したという料理、楽しみにしていましたが……これは何です? こんな『つまみ』のようなもの、貴婦人の口には合いませんわ」
会場に並べられたのは、豪華な大皿料理ではなく、色とりどりの小さな宝石のような『フィンガーフード』だった。
僕が前世のパーティー料理をヒントに、ドレスを汚さず、会話を邪魔せず、それでいて最高に美味しいものを追求した結果だ。
「……ふん、見た目だけね」
一人の令嬢が、皮肉げに『スモークサーモンとクリームチーズのひと口パイ』を口に運んだ。
サクッ……。
「…………っ!!? な、何これ、美味しい……!」
瞬く間に、会場の空気が変わった。
「この小さなパンの上に、フォアグラのムースとイチジクのジャム……甘みと塩気のバランスが神懸かっているわ!」
「こちらの『魔獣肉のひと口カツ・特製トリュフソース』も絶品だ! 立ち話の最中でも、片手でこんな贅沢が味わえるとは!」
貴族たちは、最初は気取っていたものの、その「一口の破壊力」に抗えず、我先にと僕の料理に手を伸ばし始めた。
高貴なマナーなどどこへやら。広間のあちこちで「美味しい」「もっと持ってきて!」という悲鳴のような歓声が上がる。
「……見たか、愚か者共。ナギの料理は、貴様らのくだらないプライドなど一瞬で溶かす」
ガイスト様は誇らしげに胸を張り、僕の腰をグイと引き寄せた。
そして、人目も憚らず、僕の頬に深いキスを落とす。
「団長! みんな見てますって!」
「見せつければいい。……ナギ。貴様の料理に跪いたこの連中は、もう二度と貴様を侮ることはないだろう。だが……」
ガイスト様の瞳に、ドロリとした濃密な独占欲が戻る。
「……これほど賞賛されると、やはり隠したくなるな。ナギ、あとの給仕はレオに任せろ。私はもう限界だ。……帰るぞ、私たちの『寝室』へ」
「ええっ、まだ夜会の途中ですよ!?」
「構わん。私の『胃袋』と『心』が、今すぐ貴様というメインディッシュを求めているのだ」
結局、主役の二人が夜会の途中で失踪したという前代未聞のスキャンダルは、翌朝の王都をナギの料理の噂と共に席巻することになった。
冷徹騎士様の愛は、もはや公衆の面前でも止まることを知らなかった。
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