「お前を愛することはない」と言い放った冷徹騎士様が、僕の作った飯が旨すぎて毎日「結婚してくれ(おかわり)」と泣きついてくる件について

たら昆布

文字の大きさ
31 / 35

31話

ドラゴンのブレスで肉を焼き、伝説の虹色キノコを手に入れた僕たちは、満身創痍(主に僕の精神が)で王都へと凱旋した。
だが、帰宅した翌朝、異変は起きた。

「……うぷっ」

朝食に、ガイスト様が「ナギ、精をつけろ」と用意してくれた超特大厚切りベーコンを見た瞬間、強烈な吐き気に襲われたのだ。
僕は口を押さえて洗面所へ駆け込んだ。

「ナギ!? どうした、やはり魔境の瘴気に当てられたか! 医者だ、レオ! 国中の名医を今すぐ連れてこい!!」

背後でガイスト様の悲鳴に近い怒号が響く。
数分後、公爵邸には王宮筆頭医術師をはじめとする専門家たちが、顔を真っ青にして集結させられていた。

「……ナギ、大丈夫だ。私がついている。もし不治の病ならば、私は神の座を奪ってでも治療法を書かせよう」

「団長、大袈裟ですって。ただの胃もたれですよ……」

しかし、診察を終えた医術師が、震える声で告げた言葉が、公爵邸を爆心地とした巨大な衝撃波に変えた。

「……旦那様。ナギ様の体内に、極めて強大な『新たな魔力の核』を確認いたしました。これは……生命の神秘、すなわち授かりものかと」

「…………。な……」

ガイスト様が、彫像のように固まった。
次の瞬間、彼の瞳から大粒の涙が溢れ出した。

「……私の子か。ナギと私の、愛の結晶が……! ぐ、うぅっ、あああああ!!」

ガイスト様は僕を壊れ物を扱うように、羽毛よりも優しく抱きしめた。
「ナギ、よくやった! 貴様は神だ、私の女神だ! 今すぐ騎士団を解散し、私は育児に専念する! ローゼンブルク家の全財産を投じて、王都を黄金のベビーベッドにしてやるぞ!!」

「団長、落ち着いて! 騎士団辞めないで!」

そこからのガイスト様の暴走は、ドラゴンの襲来より質が悪かった。
彼はその日のうちにレオを使い走りにし、最高級のシルクで作られたベビー服を数千着、魔導式の全自動揺りかご、さらには「将来の英才教育のため」として王立図書館の蔵書を丸ごと買い取ろうとした。

「おーい、ナギ君。団長が完全に理性を失って、騎士団の訓練場を『巨大な託児所』に改装し始めましたよ。止めてください……」

レオが死んだ魚のような目で報告に来る。
だが、翌日。精密検査の結果を持った医術師が、さらに真っ青な顔で戻ってきた。

「……あ、あの。申し上げにくいのですが。ナギ様の体内の『魔力核』ですが……」

「何だ。足りないのか? 聖遺物でも何でも持ってくるぞ」

「いえ……昨日食べた『虹色キノコ』の、あまりに強すぎる魔力が未消化のまま胃の裏側に張り付いていた……だけでございました。要するに、ただの『魔力的な食べ過ぎ』です」

「…………」

静寂が公爵邸を支配した。
ガイスト様は、手に持っていた「幼児用ミニ魔導剣」をポトリと落とした。

「……キノコ、だったのか?」

「……はい。キノコでした」

僕は申し訳なさでいっぱいになりながら、ペロリと舌を出した。
結局、騎士団の託児所化計画は中止。大量のベビー服は慈善施設に寄付されることになった。

「……ナギ。紛らわしいことを。私は……私は、本気で名付けを三千通り考えていたのだぞ」

「ごめんなさい、団長。でも、いつかは本当に……ね?」

僕が照れながらそう言うと、ガイスト様は顔を真っ赤にして僕をベッドに押し倒した。

「……。ならば、キノコではない『本物』を今すぐ仕込み直さねばならんな」

「ちょ、団長! まだお昼ですよ!?」

騒動は収まったものの、ガイスト様の「お父さん修行」への熱意だけは、なぜかさらに燃え上がってしまうのだった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。

鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。 死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。 君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

悪役令息はもう待たない

月岡夜宵
BL
突然の婚約破棄を言い渡されたエル。そこから彼の扱いは変化し――? ※かつて別名で公開していた作品になります。旧題「婚約破棄から始まるラブストーリー」

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。