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31話
ドラゴンのブレスで肉を焼き、伝説の虹色キノコを手に入れた僕たちは、満身創痍(主に僕の精神が)で王都へと凱旋した。
だが、帰宅した翌朝、異変は起きた。
「……うぷっ」
朝食に、ガイスト様が「ナギ、精をつけろ」と用意してくれた超特大厚切りベーコンを見た瞬間、強烈な吐き気に襲われたのだ。
僕は口を押さえて洗面所へ駆け込んだ。
「ナギ!? どうした、やはり魔境の瘴気に当てられたか! 医者だ、レオ! 国中の名医を今すぐ連れてこい!!」
背後でガイスト様の悲鳴に近い怒号が響く。
数分後、公爵邸には王宮筆頭医術師をはじめとする専門家たちが、顔を真っ青にして集結させられていた。
「……ナギ、大丈夫だ。私がついている。もし不治の病ならば、私は神の座を奪ってでも治療法を書かせよう」
「団長、大袈裟ですって。ただの胃もたれですよ……」
しかし、診察を終えた医術師が、震える声で告げた言葉が、公爵邸を爆心地とした巨大な衝撃波に変えた。
「……旦那様。ナギ様の体内に、極めて強大な『新たな魔力の核』を確認いたしました。これは……生命の神秘、すなわち授かりものかと」
「…………。な……」
ガイスト様が、彫像のように固まった。
次の瞬間、彼の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
「……私の子か。ナギと私の、愛の結晶が……! ぐ、うぅっ、あああああ!!」
ガイスト様は僕を壊れ物を扱うように、羽毛よりも優しく抱きしめた。
「ナギ、よくやった! 貴様は神だ、私の女神だ! 今すぐ騎士団を解散し、私は育児に専念する! ローゼンブルク家の全財産を投じて、王都を黄金のベビーベッドにしてやるぞ!!」
「団長、落ち着いて! 騎士団辞めないで!」
そこからのガイスト様の暴走は、ドラゴンの襲来より質が悪かった。
彼はその日のうちにレオを使い走りにし、最高級のシルクで作られたベビー服を数千着、魔導式の全自動揺りかご、さらには「将来の英才教育のため」として王立図書館の蔵書を丸ごと買い取ろうとした。
「おーい、ナギ君。団長が完全に理性を失って、騎士団の訓練場を『巨大な託児所』に改装し始めましたよ。止めてください……」
レオが死んだ魚のような目で報告に来る。
だが、翌日。精密検査の結果を持った医術師が、さらに真っ青な顔で戻ってきた。
「……あ、あの。申し上げにくいのですが。ナギ様の体内の『魔力核』ですが……」
「何だ。足りないのか? 聖遺物でも何でも持ってくるぞ」
「いえ……昨日食べた『虹色キノコ』の、あまりに強すぎる魔力が未消化のまま胃の裏側に張り付いていた……だけでございました。要するに、ただの『魔力的な食べ過ぎ』です」
「…………」
静寂が公爵邸を支配した。
ガイスト様は、手に持っていた「幼児用ミニ魔導剣」をポトリと落とした。
「……キノコ、だったのか?」
「……はい。キノコでした」
僕は申し訳なさでいっぱいになりながら、ペロリと舌を出した。
結局、騎士団の託児所化計画は中止。大量のベビー服は慈善施設に寄付されることになった。
「……ナギ。紛らわしいことを。私は……私は、本気で名付けを三千通り考えていたのだぞ」
「ごめんなさい、団長。でも、いつかは本当に……ね?」
僕が照れながらそう言うと、ガイスト様は顔を真っ赤にして僕をベッドに押し倒した。
「……。ならば、キノコではない『本物』を今すぐ仕込み直さねばならんな」
「ちょ、団長! まだお昼ですよ!?」
騒動は収まったものの、ガイスト様の「お父さん修行」への熱意だけは、なぜかさらに燃え上がってしまうのだった。
だが、帰宅した翌朝、異変は起きた。
「……うぷっ」
朝食に、ガイスト様が「ナギ、精をつけろ」と用意してくれた超特大厚切りベーコンを見た瞬間、強烈な吐き気に襲われたのだ。
僕は口を押さえて洗面所へ駆け込んだ。
「ナギ!? どうした、やはり魔境の瘴気に当てられたか! 医者だ、レオ! 国中の名医を今すぐ連れてこい!!」
背後でガイスト様の悲鳴に近い怒号が響く。
数分後、公爵邸には王宮筆頭医術師をはじめとする専門家たちが、顔を真っ青にして集結させられていた。
「……ナギ、大丈夫だ。私がついている。もし不治の病ならば、私は神の座を奪ってでも治療法を書かせよう」
「団長、大袈裟ですって。ただの胃もたれですよ……」
しかし、診察を終えた医術師が、震える声で告げた言葉が、公爵邸を爆心地とした巨大な衝撃波に変えた。
「……旦那様。ナギ様の体内に、極めて強大な『新たな魔力の核』を確認いたしました。これは……生命の神秘、すなわち授かりものかと」
「…………。な……」
ガイスト様が、彫像のように固まった。
次の瞬間、彼の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
「……私の子か。ナギと私の、愛の結晶が……! ぐ、うぅっ、あああああ!!」
ガイスト様は僕を壊れ物を扱うように、羽毛よりも優しく抱きしめた。
「ナギ、よくやった! 貴様は神だ、私の女神だ! 今すぐ騎士団を解散し、私は育児に専念する! ローゼンブルク家の全財産を投じて、王都を黄金のベビーベッドにしてやるぞ!!」
「団長、落ち着いて! 騎士団辞めないで!」
そこからのガイスト様の暴走は、ドラゴンの襲来より質が悪かった。
彼はその日のうちにレオを使い走りにし、最高級のシルクで作られたベビー服を数千着、魔導式の全自動揺りかご、さらには「将来の英才教育のため」として王立図書館の蔵書を丸ごと買い取ろうとした。
「おーい、ナギ君。団長が完全に理性を失って、騎士団の訓練場を『巨大な託児所』に改装し始めましたよ。止めてください……」
レオが死んだ魚のような目で報告に来る。
だが、翌日。精密検査の結果を持った医術師が、さらに真っ青な顔で戻ってきた。
「……あ、あの。申し上げにくいのですが。ナギ様の体内の『魔力核』ですが……」
「何だ。足りないのか? 聖遺物でも何でも持ってくるぞ」
「いえ……昨日食べた『虹色キノコ』の、あまりに強すぎる魔力が未消化のまま胃の裏側に張り付いていた……だけでございました。要するに、ただの『魔力的な食べ過ぎ』です」
「…………」
静寂が公爵邸を支配した。
ガイスト様は、手に持っていた「幼児用ミニ魔導剣」をポトリと落とした。
「……キノコ、だったのか?」
「……はい。キノコでした」
僕は申し訳なさでいっぱいになりながら、ペロリと舌を出した。
結局、騎士団の託児所化計画は中止。大量のベビー服は慈善施設に寄付されることになった。
「……ナギ。紛らわしいことを。私は……私は、本気で名付けを三千通り考えていたのだぞ」
「ごめんなさい、団長。でも、いつかは本当に……ね?」
僕が照れながらそう言うと、ガイスト様は顔を真っ赤にして僕をベッドに押し倒した。
「……。ならば、キノコではない『本物』を今すぐ仕込み直さねばならんな」
「ちょ、団長! まだお昼ですよ!?」
騒動は収まったものの、ガイスト様の「お父さん修行」への熱意だけは、なぜかさらに燃え上がってしまうのだった。
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