師匠

赤葉 椛

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師匠

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   小学一年生の頃、何の師匠かは言えない師匠がいた。というか分からない。何故なら師匠はなんでも出来て、僕に色々教えてくれる。どちらかと言えば遊び相手に近いのかもしれない。

 僕が外遊びをしていたら、その師匠は外遊びを一緒にやってくれて僕よりもずっと強い。そして勝つアドバイスをしてくれる。
 僕がカードゲームをやっていたら、その師匠はカードゲームを一緒にやってくれて僕よりもずっと強い。そして勝つアドバイスをしてくれる。

 そんな師匠に僕が勝つものもある。それは子供らしさだ。僕はよく分からないが、師匠は笑顔で頭を撫でながら教えてくれた。でも僕はそのことに対するアドバイスは出来なかった。それからも、師匠は僕に勝ち続けていた。

   師匠はいつも公園に居る。僕が公園に行くといつも師匠はベンチに一人で座ってる。でも今日はいなかった。僕が一人でブランコを漕いでいると、師匠がこっちに来るのが目に入り思わず声を出しそうになった。しかし、いつもと違うスーツ姿にその声は出なかった。師匠がゆっくり歩いてくる。

「ごめんな、もう無理だ」

 師匠は僕を見るなり申し訳なさそうな顔になってぼそっと言った。
理解出来なかった。何がもう無理なのか、何故謝るのか何もかも。

「なんで謝るの? 何が無理なの!」
僕は泣きそうになりながらも声を張りあげる
「もう来れないんだよ。ごめん、本当にごめん」

 それから師匠と僕が会うことは無かった。


   あれから月日がたち、25歳で地元の企業に就職した。今日は、仲の良い上司が奢ってくれると言うので、近所の居酒屋に来ていた。

「俺さー昔弟子がいたんだよ。とはいっても何の弟子か聞かれるとなんも言えないんだけどな」

 どこかで聞いたことのある話だった。もしかしてと思うが口には出せずにいた。もし間違っていたらと思うと怖かったからだ。

「あの時に仕事に就いたってはっきり言っておけば、泣きそうな弟子の顔が最後に見た顔にならなかったと思うと後悔してるんだよな」
「その弟子、僕です」

 思わず我慢できずに言ってしまった。こんなこと言っても信じてくれるはずないのに。

「ほんとか、ほんとにお前なのか?」

嬉しさが込み上げてきて勝手に口が動き出す。

「偶然でも嬉しいですね。まさか同じところに就職してこうやって仲良く話せているなんて。しかも、今もこうやって教えられる立場と教えてくださる立場の関係で。いつになっても師匠は師匠ですね。
これからもお願いします」

「あぁ、よろしくな」

小さい頃に止まっていた歯車はここからまた動き出した。
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