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ふたりを連れて行った騎士と入れ替わりで、メランがやって来た。

「プルメリア様!ご無事ですか?」
「ええ。メランがここを教えに走ってくれたのでしょう?ナイスタイミングだったわ。ありがとう。」
「有難きお言葉…。」

メランが目に涙をためている。

心配かけたのね…。

昨夜からメランの気配が消えていたが、向かう方向が定まり、お父様へ報告の為戻ったのだろうと思っていた。
それは、当たっていたようだ。

「ノアもありがとう。助かったわ。」
「見ていて、ヒヤヒヤ致しました。何もなく良かったです。」

私とノア、メランが話をしていると、ジェイクが私の顔をクルッと自分の方に向けさせた。

「俺を見てくれ。」
「ジェイク?」
「もう、婚約破棄したように見せなくて良いんだよな?」
「そうですね。黒幕も分かりましたし、後はお父様たち上層部の仕事でしょうし…。」
「では行こうか。」

ジェイクは、いつかのように私をお姫様抱っこした。周りにはノア、メランの他に騎士たちもいる。

「ジェイク!?今回は怪我もしていません!自分で歩けます!」
「駄目だ。」

それ以上は聞く耳持たず、玄関まで歩いていく。騎士達はこちらを見て、温かい視線を送っている。

ハグよりもお姫様抱っこの方が、恥ずかしいと思うのは私だけなのだろうか…。

途中には、倒れた人たちも見えた。おじさんの言っていた『誰か』に違いない。

ジェイクは師匠の所へ行き、声をかけた。

「親父。」

今回の作戦指揮権は、騎士団長の師匠にある。

やっぱり、来てたんだ。
本部で座って指揮するタイプではないものね。

「あー、うん。帰っていいぞ。」

なんか微妙な反応?

「プルメリア嬢。気が済むまで付き合ってやってくれ。」
「?」
「ここの所、荒れていたんだ。今日だって急に飛び出すし…。」

そういうことか…。

「余計なことは言うな。」
「ったく。生意気になったもんだ。」

ジェイクが外に出ると、エメラルド家の馬車が止まっており、御者に「ゆっくり進め」と指示を出して、乗り込んだ。
ノアとメランは頭を下げ、見送りの姿勢を取る。ふたりとは、ここで一旦お別れのようだ。

「馬車も準備して下さったんですね。」
「リアを連れ帰る時に必要だから付いてこさせた。」
「わざわざありがとうございます。」

馬を追って馬車を走らせるのは、大変だったろうに…。
後で御者にもお礼を言いましょう。

「出せ。」

ジェイクは御者側の小窓を叩き、指示を出す。
私は、まだジェイクの膝の上だ。

さっきは皆の前で恥ずかしかったけれど、今はジェイクから離れたくないと思ってしまう。

今回、恐怖を感じた訳でも無い。
でも、なんか…。

私は腕に力が入る。

「ん?どうした?」

ジェイクはそれに気づき、穏やかな声をかけてくれる。

「…もっと、くっつきたくなっただけです。」
「そ、そうか。いくらでもくっつけ。」
「はい。そうさせてもらいます。」

私は腕の力を強めて、ジェイクの首元に顔を埋めた。
ジェイクは、ゆっくり私の背中を撫でている。

私は、無性に首元に吸い付きたくなった。

…駄目かな?怒られるかな?
ジェイクは、どんな反応をするんだろう。

好奇心も出て来たので、実行してみた。

ちゅう。

「!!!」

ジェイクは吸われた首を抑え、バッと身体を離した。

「リア!?」

目を見開いている。

可愛い…。

「もう一回。」
「だ、駄目だ!」
「どうして?」

首をコテンと横へ倒す。

「分かってやっているだろう…。」
「…」

分かってないとは、言わない。

「リア、お返しだ。」

ジェイクは私を引き寄せ、首元に吸い付いた。

「あんっ。」

私は、思わず口を塞ぐ。

声、出ちゃった…。

ジェイクは大きく息を吐いた。

「はぁ。…早く結婚したいな。」
「そうですね。」
「…うっすら赤くなった。」
「?」
「ここだ。」

ツンツンと首元を触られる。

「!」

今度は私が首を抑える番だった。

「このくらいなら1日で消える。」
「…何でわかるのですか?」

過去の事は、言ってもしょうがないのは分かっているけど、心がザワザワする。

「訓練でアザはつきものだ。」
「ああ、訓練ですか。」

なんだ。そっちか…。

「何だと思ったんだ?」
「いえ、何でも…。ジェイクは赤くなっていませんね。」
「そうか?残念だな。」
「残念ですか…。では、もう一回。」
「いや、それは遠慮する。」 
「…ふふふっ」
「くくっ。」

私達は笑いあった。








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