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優しさは罪

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 スライムのセックスで性的な何かを開発されたと思う。あれは依存性が高すぎる。媚薬を飲まされておかしくされたのなら言い訳も出来るけど、素でアレだもの。もう二度と来ないでほしいけど、満足そうにまた来るって言ってたから、これも奴隷の運命の一つ。
 大人数に犯されようが、セックス依存性になろうが、借金完済するまで逃げられないんだ。

「……っ、ぁ」

 何もしてないのに、アソコが疼いて疼いてたまんない。少しでもアソコに力を込めれば、中に何も入ってないことが寂しくて苦しくて。自分で何度も処理してみても、昂った熱は引くことを知らず。どうしようもないから、何もかもが足りないと叫ぶ体をぎゅっと抱きしめて、寝てやり過ごしてた。

 そんなとき、営業終了時間の二時間前にツッチーが来てくれた。

「嬉しいけど一昨日来たばっかだよ」
「気にするな」

 ありがたいけど、心配だ。それを悟ったのか頭をなでてきた。これ以上は私が踏み込む領域じゃない。金を出して買われた。そういう関係で、そういうお店だ。だからこそお仕事をしないと、私は奴隷娼婦なんだと嫌でも思わせないと、ツッチーの優しさに全力で甘えそう。
 ツッチーは今日も何もするつもりがないらしい。
 ベッドを背もたれに床に座り、私はベッドに腰掛けて談笑していた。
 私の視線はツッチーのアレ辺りにいっちゃって、でもアレはさすがに入んないからって今度は指にいっちゃって。ヒトと変わらない太さの指を入れられたらなんて想像すると、体が火照って、襲いたい気持ちでいっぱい。そう思うと、自分がものすごく嫌になって頭を抱えた。
 こんなのもうお仕事すら関係なく、ただ発情してる雌。
 スライムセックスは依存性が高かった。たかが一回のセックスでクセになってる。
 嫌だこんなの。誰か助けて。

「どうした? 頭でも痛むのか?」
「そんなことないよ!」

 発情中とも言えないし、適当に流してたけど、ツッチーから見た私は相当無理してるように見えたんだろう。

「少し、休め」
「ふああっ!」

 そっと背中に触れた手に、その摩擦に、ビクゥッと体が揺れた。変な声が出た口をすぐに手で覆って、変なところを見られた羞恥で赤くなった顔をうつ向かせた。

「どうした?」

 どうしたと聞かれても、メタルなスライムに全身開発されて、背中の皮ふすらも性感帯になりましたって言いたくないし。

「べっ、別に」
「別にってことはないだろう。顔も赤いぞ。熱でもある」

 顔に向かって伸びてきた手で何をするのか分かって、反射的にパシンと振り払ってしまった。やってしまったと後悔しても遅い。

「悪い」

 ひどく悲しげに手を引っ込めようとしたから、また反射的にそれを握った。

「違うの! 嫌とかじゃなくて!」

 言葉と裏腹、握ってる手の皮の厚みやゴツゴツした感じ、指の太さ長さに触れて、アソコがヒクリと揺れた。
 もうダメだと思った。
 誤魔化すのも我慢するのも、お手上げだ。
 アソコも含めて全身を犯されたいって思ってる、発情してる雌だ。

「……は、……発情してて」

 こんな自分を見せたくないけど、口に出したらもう止まらない。恥ずかしさで潤んでいく目をそのままに、ツッチーをじっと見つめた。
 こうすれば食いついてくれると思った私の考えは浅はかだったようで、ツッチーは思い切り眉間にしわを寄せて、見るからに不快な態度を示した。

「誰にそうされた」
「っ」
「隠さなくていい」
「な、んで」
「おまえは確かにいやらしいが、なんというか、いやらしさの濃度が薄い。それだけ濃くなれば何かあったと気づく」

 濃度が薄いってどういう意味?
 お子ちゃまってこと?
 満面の笑みで問い詰めたいところだけども、何も言ってないのに異常に気づいてくれたことが嬉しかったし、改めて冷静になれた。
 今の私は異常なんだ。
 でもツッチーはお客さま。この話はそれこそ私の領域ってやつ。すべてを話すべきかどうかチラリとツッチーを伺うと、さっきよりもしわが濃くなって般若になりかけてたから、観念してすべてを話すことにした。

「その、とあるお客さまが来まして」
「そんなこと分かる。何にそうされたって聞いているんだ」
「……スライム」
「……は?」

 一瞬でしわが消えてくれたけど、今度はポカンとした顔をされた。何を言ってるのか分からなかったと言いたげだったから、もう一度犯人の名をあげた。

「……メタルなスライム、です」

 シンと静まり返る部屋が何とも気まずいから、またうつ向いてた。

「……ああ……」

 ツッチーから悩ましい声が聞こえた。

「スライムはダメだ。スライムだけはどこの店も出禁を食らってる。人外専門店でもアウトなやつらだぞ」
「そうなの!?」
「理由は分かるだろ。スライムが抱いた相手は依存性になる。おまえはまだ大丈夫だとは思うが……」
「でもマスターは何も言って……」

 そうだ、私に言うはずがない。
 奴隷は奴隷、金になればいい、それだけの存在。セックス依存性に陥っておかしくさせた方がマスターにとっては都合がいい。都合が悪くなれば、売るか、殺して臓器を売るか、好きなようにも出来る。
 でも、だからって私の状況は変わらない。
 スライムが出禁を食らうほどのヤバい人外さんって分かれば、そうならない為の対処はいくつかある。多分。
 やっぱり知識は必要で、それを教えてくれるツッチーはやっぱり優しい。

「相手のペースにはまらないように、次は気をつけなくちゃね。教えてくれてありがとう」

 笑顔でお礼を言っても、今度はツッチーがうつ向いてしまった。

「……何もしてやれなくて、……すまん」

 小さなつぶやきが聞こえた。
 心を握り潰された気分だった。
 そんなことない。こうやって来てくれるだけで助かるし、自由に近づいてる。それはとても幸せなことなんだって言おうと口を開いたら、ちょうどタイマーが鳴った。

「時間だな」
「そう、だね」
「帰る」
「外まで送るよ」
「いい」
「でも、……これしかできないから」
「……好きにしろ」

 とても気まずいし、流れた話を戻すのも勇気が出なくて、その話には触れずに立ち上がった。

「行くぞ」
「……うん」

 かなり渋々だけどツッチーをお見送りするために、お店の廊下を並んで歩く。改めて見てもやっぱり巨人で、イケメンとはほど遠いけど、でも誰よりも優しくてあったかい……そんなことを考えてると、いくつもの妙な気持ちが生まれた。
 だからこそ、さっきのつぶやきが気掛かりだ。やっぱり言ってしまおうと、歩くペースをわざと落とした。

「ごめんね」
「何が」
「こうして来てくれる、幸せだよ。ほら、自由に近づいてるってことだし!」
「……負担が大きすぎる。自由になる前に死んだら元も子もないんだぞ」
「私って頑丈だから!」

 大丈夫って伝える前に頭に手が乗った。

「俺の前では正直でいろ。ウソをつかれる方が心配になる」

 何でそうやって甘やかすんだろ。
 奴隷を甘やかしても良いことないのに。
 責任を取るつもりがないなら、あまり踏み込んできてほしくない。
 変な気持ちに襲われるから。

「ツッチーは」
「あっれぇ」

 会話を遮るように、前方から嫌な声が聞こえた。お嬢のお客さん、公開ショーを提案したやつだ。すぐに小さな声で、「早く行って」とツッチーに伝えたけど、かばうように私の前に立った。

「ツッチー!」
「大丈夫だ」

 奴隷にこんなことしてもイイコトなんてないし、奴隷だから虐げられて当然だし、奴隷だからかばう必要なんてないのに。

 その意味を、その優しさを、また経験した私は、ツッチーの服に手を伸ばそうとした。でも、出来なかった。そうしないように自分の手をぎゅっと握りしめた。

「えー、お顔くらい見せてよ。仲良くした仲じゃない」
「すみません。気分が優れないそうなので」
「そうなの? 別にどうでもいいけど」

 どうでもいいのなら、このまま何も言わずに去ってくれ! そう願いながらぎゅうぎゅうに手を握りしめていた。

「あっ、そういえば、この前の公開ショーも楽しかったね。五十人は相手したんじゃないの? 嫌だ嫌だって泣いてたのに、最後はよがってかわいかったなぁ。よがり狂うキミはかわいいね。奴隷のくせに」

 聞かれたくない人に聞かれてしまった。
 でも、これが私だ。
 大人数のヒトに犯されても、虐げられても、何食わぬ顔で生きてる。

「あの」

 守られる価値すらない自分に気づいて、ツッチーの後ろから前へ出て、お客さんにお辞儀をした。

「やっと顔が見れた!」
「お見送り、あるので」
「ああ、そうだったね。邪魔してごめんね」
「失礼します」

 もう一度お辞儀をして歩き出したら、お客さんが、「待って」と声をかけた。ズキッと痛む頭を押さえて立ち止まった。

「今日しようか! ねっ、そうしよう!」
「きょうですか?」
「うん! マスターに許可もらうし! いいよね?」

 私に拒否権すらないのに何でイチイチ聞くんだろう。そういうの面倒なだけなのに。

「……わかりま」

 途中まで言いかけた言葉は、ポスッと頭に乗った手に止められた。

「相手が俺じゃいけませんか?」
「へ?」
「ゴーレムとヒトのセックスなんていう珍妙なもの、絶対に他では見れません」

 あんたいきなり何を言ってんの?
 ツッチーの顔を見上げようとしたけど、大きい手が顔ごと頭のすべてをつかんできた。

「この体格差です。モノ好きには堪らない組み合わせだと思います」
「……確かにいいかも! ヒト同士は見飽きたなって思ってたところだったんだよ」
「その代わり、今日の相手は俺だけにしてください。それと、明日は休みにしてもらうと助かります。泊まっていいのなら看病は俺がします。俺以上となると相手がヒトでも間違いなく死にますから」
「お、おお。マスターの大切な奴隷だからな、それはマズイ。わ、わかった」
「出過ぎた真似をして申し訳ありません」
「いいよいいよ。面白ければ何でもいいし。じゃ、マスターに言ってくるから待ってて」

 お客さんは楽しそうに立ち去った。
 ようやく手を離してもらってツッチーをキッとにらんだけど、あまりにも優しく微笑んでくるものだから、グッと言葉を飲んでうつむいた。

「勝手なことしてすまない。おまえを守る方法がこれしか思いつかなくて」
「ツッチーまで巻き沿いになる方法なんて少しも嬉しくない」
「そうか? これはこれでざまぁって感じなんだが」
「どこが」
「あいつらクソ共にゴーレムのセックスってやつを見せつけられるだろ」
「……なにその俺のはすごいんだぜって自信……」
「ヒトに見せて恥になるモノは持ってないと思っているが、……アキラはどう思う?」
「すんごいモノだと思う」
「そりゃ良かった。でも、おまえにはまたツラい思いをさせてしまう。ごめんな」

 謝られても、庇われても、嬉しくない。
 こんなの全然笑えない。
 責任すら取れないなら、これ以上踏み込んでほしくないのに、簡単に入ってくるツッチーにイライラしてる。
 無責任にばらまかれる優しさは罪だ。

「かばってくれてありがとう。でも、帰って。あとは私が何とかする」
「アキラ」
「これが私の仕事なの。ツッチーには関係ないでしょ。早く帰って」
「俺がそうしたいからそうしただけだ。それこそアキラに関係ない話だろ」
「大人数を前にセックスする特殊な趣味でもお持ちなの?」
「くそ男に無理強いされてるおまえを見捨てる勇気がないだけだ。責任も取れねぇし救えもしないのに。ひどい男だなと自分でも思う」
「……何よそれ」

 どこまで私の心を見透かしてるんだ。
 何でそうも簡単に入ってくるんだ。
 ツッチーはお客さんで私は奴隷、それでいい関係なのに。
 何でこんなに涙も想いもあふれてるんだ。

「……ありがとう」
「実をいうと、アキラとエグいセックスができることが少しワクワクでもある」
「感謝の言葉を返して」
「だろ? だから礼なんてもんは要らないんだよ」
「……うん、もう言わない」
「わかったなら泣き止め。どうせ泣くならセックス中にしろ。まぁ、どうせわんわん泣くだろうけどな」
「……なっ、なによ! ついこの前まで童貞だったくせにっ!」
「アキラを犯すイメトレなら完璧だ」
「うん、もう大丈夫。何か涙が引っ込んじゃった」
「そりゃよかった」
「おーい、許可もらったよ!」

 タイミングが良いところにお客さんが戻ってきた。すぐに顔を背けて涙でぬれた顔を手で拭った。

「明日は休みで、面倒をみてくれるんならタダで泊まっていいって。その代わり、お客さんが喜ぶえっぐいセックス頼むよってさ」
「わかりました」
「えっぐいセックスかぁ。……それこそ死んじゃうかもねぇ」

 お客さんが歩き出した。追うようにツッチーが歩いて、その後ろを私が歩く。
 こういうとき、いつも一人で怖かったけど今日は怖くない。
 一人じゃなく二人、やっぱりこうなると二人は無敵だと思う。

「アキラ」
「何?」

 先を歩いてたツッチーが振り向いたから立ち止まった。ツッチーはポケットから布を取り出して、目を覆うように巻いた。
 正直、ありがたい。こうすればお客さんの視線を回避出来るし、見たくないものが映らない。

「俺だけに集中しろよ」
「うん」
「開発されたんだろ。徹底的に消毒してやる」

 耳元でそうささやいたあと、耳の穴にも何かを入れてきた。
 何も見えないし、聞こえない。
 ツッチー以外のものが何も感じられない世界。
 ツッチーと私だけの世界が作られたみたいで、忘れていたアソコがヒクリとうずいた。


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