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奴隷女の望む未来
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幸せな夢を見た。
ツッチーと夫婦で幸せに暮らしてた。
ショーのときに似たセックスをしてた。
最後はお別れした。
もっと一緒にいたかった。
一緒に生きたかった。
二人で笑っていたかった。
手を繋いでいたかった。
おでこを合わせて眠りたかった。
あの人は幸せになれと言ってくれた。
私の幸せを願っていた。
そうなったからこそ得られたものもあると、そう信じてると。
目が覚めると手に泥が付いてたから、あの会話だけは現実なんだと分かった。
本当に、もう会えない。
それからまた寝込んだ。
高熱に魘され見る夢は幸せなものばかり。
ツッチーが恋しくて、笑って、幸せで。
終わりがきたらまた最初から深い眠りに就いた。
一緒に死のうとしたこともあったけど、寸前でツッチーにとめられた。
「そのときが来たら迎えに行くから、もう少し頑張れ」
今すぐ来てって泣き叫んでも、目が覚めたら2番の部屋。
見たくなくてまた目を閉じた。
夢の続きを、幸せを終わらせたくなかった。
時折、ウルフの声も聞こえた。
「……アキラっ、……アキラ」
泣いてるその声は小さな子供みたいで、心配になって手を伸ばした。
そこまでは覚えてる。
次に目が覚めると、妙に晴れやかな気持ちになっていた。
身が引きちぎられるほど悲しくても、あの日の約束を守る。
あの人が私の願いを守ってくれたように、私もあの人の願いを守る。
それがあの人の願い。
あの人が残してくれた想い。
そう思えた時、今までの熱が嘘みたいにすうっと引いた。
心は重いけど、体が生きたいと訴えてた。
「いき、てる」
「アキラ! アキラっ!」
「ここ、どこ」
ウルフが状況を教えてくれた。
身請けしたものの、不調が続くので館を追い出されたらしい。
それから二週間ほどウルフの家で寝たきり状態だったと。
「あとツッチーからの伝言。ちょっと遠くへ行く。約束は守れってさ」
「……そっか……」
本当に現実を叩きつけられた気分だ。
会うことも、触れることも、話すことも、見ることも出来ない。
そういう所へ行ってしまった。
でも、あの人らしい言葉だと思う。
最後の最後まで優しい人だ。
「そうだね、また会えるまで全力で頑張らないとね」
「大丈夫か?」
ウルフの問いに苦笑いしながら頷いた。
「今度は大丈夫。迷惑かけてごめんね」
「誰も迷惑だなんて思ってねーよ」
「でも、ウルフが私の主人になるなんて思わなかった。人生って何が起きるか分かんないもんだね」
「主人っていうか夫だろ。お前が元気になったら、結婚すんぞ、結婚」
「ヒトとオオカミって結婚できるの?」
「戸籍上出来ねーけど、形だけなら出来るだろ。アキラは俺と添い遂げる、俺はアキラと添い遂げるって儀式だからな」
「それって……要らなくない?」
「俺がお前のドレス姿を見てーの! 分かれよ、そんくらい!」
「いや全然分かんないし。病み上がり過ぎて現実か夢かの判断が追い付かないの」
「はあ? 現実で最後に覚えてんのは何だよ」
「バーナードさんが口移しでお水くれた」
「ふーん」
あいた! 余計なことを言ってしまった!
その話ナイショだったのに。
「バーナードが、ねぇ」
あれは看病の一貫で、いやらしいキスじゃないんだけど、間違いなく勘違いしてる。でも病み上がりで正すのもメンドーだから知らん顔した。
しかしそう考えると、夢か現実かよく分からない夢ばかりだったな。あのときに似たエッチな夢を見ちゃうし、お別れしたのにさっさと次の雄との将来を決めちゃうし。
まだこんなにも好きなのに。
結婚か……ちょっと待って。この流れって、私、最低じゃない!?
「やだ、何これ! くら替えするの早すぎて引く。マジで引く!」
あまりにも恐ろしい現実が襲ってきて、顔を真っ青にしてガタガタ震えたら、ウルフが爆笑しながら言った。
「今さらだろ」
「全然笑えない! サイアク!」
「んじゃ奴隷に戻る? お前の自由という名の運命は、このウルフ様が握ってるんだぜ」
「そうやって奴隷を脅すわけね!」
「そうだぜ、だからもう何を言ってもムダ。アキラは俺の奴隷ってことで、お買い上げされたわけ。はなっからアキラに拒否権はない! 嫌々でも俺と結婚してもらいまーす」
「……ねぇ、ウルフ」
「な、何だよ」
ウルフに身請けされるって聞いた日に考えてたことがある。
実現するのは無理かもって諦めてたけど、ダメ元で聞いてみたい。
「ある程度のことを自由に判断する権利を下さい」
「もちろんやるよ。当たり前だろ! それにあいつと約束してるからな。アキラを自由にしてほしいって」
「そっか」
「あと、お前を幸せにしてくれってさ」
「……っ」
「ツッチーってさ、男前だよな。敵う気しねーわ」
こうなることを見越してた。
こうなるって分かった上で、一人で想ってくれてた。
私が泣いてる間も、あの人は私を思って行動してくれていた。
本当に優しすぎて、今さら……
「こんなのが欲しかったんじゃないの」
あれだけ泣いたのに、まだ懲りずに涙が出てきた。しかも文句と一緒に。
本当に、何で私って最低なんだろ。
「ただ……もっと一緒にいたかった、……たくさん話をしたかった、……それだけでよかったのに……」
そう言ってもどうしようもない。
私は奴隷で、あの人も奴隷。
あの人はもういない。
後悔したって今さら。
だけど後悔せずにいられない。
それでも、その後悔を背負って生きていくしかないんだ。
「私ね、勉強したい。奴隷だから右も左も何も分からないの」
「バーナードに教えてもらえよ。あいつめちゃくちゃ頭がいいんだぜ」
「もっとちゃんと自分の足で歩きたい。このままだと絶対に甘えちゃうから、しっかりした自分になりたい」
「オレは全然いいけどなぁ、甘えたなお前でも全然余裕で支えるし」
「……主人がそう言うなら……」
「あっ、違う違う! そーいうんじゃなくて! いいと思うぞ! 好きにしろよ。お前のやりたいこと全部、俺が支えるし」
「……ありがとう、ございます」
「お礼とかいらねえ。幸せにするって約束したからな、お前と、あいつと」
「ありがとうっ、本当にありがとうっ、ウルフにお尻を向けられないね」
「それはいやだ! バック責め好きだからお尻は向けてほしい!」
「うわ」
「何で引くの!? つーかそれって足を向けてじゃね!?」
「どっちも変わんないよ」
「ええー……」
こうして私は、ウルフに身請けされて奴隷から自由人になった。
もっとこう、スパッと勧善懲悪みたいな感じでマスターとお店の女の子たちに復讐したかったのに残念だ。
「ざまぁってしたかったな」
その日の夜、ウルフの家でご馳走とプリンを食べて、食後の紅茶を飲みながらバーナードさんに愚痴った。バーナードさんが言うには、これが一番の仕返しらしい。
「何で?」
「普通の感覚ならね、奴隷の女の子に惚れたからって高額なお金払ってまで身請けしないんだよ。誰もが羨む奇跡のシンデレラストーリーってやつを見せつけられたんだ、さぞかし悔しいだろうね」
「身請け金ってどこかで聞いたような、……五千万万ジュエルだっけ!?」
「よく知ってるね。最終的に倍額いったよ。もうすっからかん。まっ、あいつ地主だしすぐに取り戻すでしょ」
「倍額!? 地主!? ウルフのくせに金持ちなの!?」
「あははっ、いいねっ、そのリアクション!」
まさかの事実がここに来て判明した。
金持ちってことは置いといても、倍額の一億を出してるとは!
これはダメだ。
こんなの聞いたらウルフに足を向けて寝れない。
ケツを向けろって言われたら喜んで向けないといけないレベルのやつ。
そうだよ、そうだった。
白蛇様が身請け金のこと教えてくれてたのに、すっかり忘れてた。……あっ、身請けが決まったら相手に見せろって玉をくれたよね。確かポケットに入れっぱなし……あったあった。
「ウルフ!」
二匹の子供オオカミと遊んでたウルフに近寄って白蛇様にもらった玉を差し出した。
「これ」
「あああああ!?」
説明する前にウルフが叫んだ。
「あああああ!?」
「あああああ!?」
それをみた二匹のオオカミも叫んだ。ちなみにこのオオカミは双子の子供だ。みなしごで頼れる大人が居ないから拾ったと説明された。かわいいけど、たまにドSの匂いがするから、そこだけは苦手だ。黙ってればかわいいのに。
「どうした……あああああ!?」
三匹の異変に気づいたバーナードさんが近づいてきたけど、玉を見て三匹と同じく叫んだ。
「ど、どうしたんだよ! これ!」
「白蛇様にもらったの。身請けされたら相手に見せなさいって」
「白蛇……ホワイトスネークか!?」
「スネーク……そうそう。ホワイトスネークって名前の白蛇様」
ウルフは何も言わずに放心した。
バーナードさんは顎が外れそうなほど口をあんぐりと開いてた。
「白蛇みたの!?」
「みたの!?」
かわいい双子のオオカミが寄ってきてニマニマする口元をそのままに、両手を使って二人の頭を撫でた。尻尾がフリフリしてて何かもう感無量。マジでかわいい。超絶かわいい。黙ってれば。
「みたよ。すっごい白蛇様だった」
「えーっ、すっごいの!?」
「どんな風に!?」
「んっとね、性態は蛇と同じで中々の絞め具合だったけど、ヌルヌルしてて、……あれは一発で孕むと思うの」
「アキラお姉ちゃんは孕むような激しいセックスが好きなんだね」
「アキラお姉ちゃんはウルフが言ってた通りの淫乱ドMなんだね」
「子供がそんなことを言ったらいけません!」
「図星突かれて焦ってるぅ」
「ドMの反応おもしろいねぇ」
子供に何てことを教えてるのと、一言説教してやろうと思ってるけども、ウルフはまだ放心中。
「この玉、そんなにすごいの?」
ポツリと呟いたら、今度は四人が一斉に詰め寄ってきた。
「すごいも何も! 奴隷が持ってていいやつじゃねーよ!」
失礼なことを言ったウルフに一言もの申す前に、バーナードさんが分かりやすく教えてくれた。
「国家レベルの取引の時に使うような代物だよ! それもここぞって時に!」
「へぇ、こんな玉がねぇ」
小さな玉にそんな価値があるのかと改めて玉を眺めてたら、今度は双子オオカミが説明してくれた。
「こんなの出されたら、うんって従うしかないんだよ!? 望むもの何でも手に入るんだよ!?」
「奴隷どころか貴族、いや、王族にもなれちゃうやつだよ!?」
そう言われてもピンとこなくて、リアクションが取れない。
それに、私がほしいものは、こんな玉じゃ手に入らない。
こんな玉じゃ心は救えない。
だからこそ白蛇様はこれをプレゼントしてくれたのかも。
私が望む未来を手に入れるために。
これを上手く使えば、ウルフに従うこともなく、一人で自由に暮らせる。
王様になって奴隷制度を無くすことも出来る。
贅沢三昧な暮らしだって出来る。
好きな未来が描ける。
この玉に希望が詰まってる。
でも、【希望】ならここにある。
私の【希望】は、あのときから変わってない。
もう二度と捨てないって決めたんだ。
「んじゃ、これはウルフにあげるね」
「ひっ! アキラを酷い目に遇わせたら殺される!」
「大げさだなぁ。白蛇様は優しいから酷いことしないよ」
「相手は蛇の神様だぞ! そこんとこ分かってんの!? か、み、さ、ま!」
「だと思った。やっぱり白蛇は幸運の象徴よね。あのとき拝んで大正解だったわ」
「ダメだ、バーナード。アキラって意外と肝っ玉が据わってるや」
「奴隷になっても屈してない時点でお察しだな」
「アキラお姉ちゃん、強いね」
「憧れるね」
「私ってドMだから打たれ強いのかも」
何だかんだな毎日でも、楽しくも穏やかに過ぎていく。
ゆっくりと、でも、あっという間に。
あの人の痛みはまだあるけど、これはこれでいいと思えるようになった。
あの人を思って泣くのも、思い出して笑うのも、どれも大切なもの。
この傷みが今の私を作ってくれてる。
これで本当に良かったのか。
運命を変えられたんじゃないのか。
知識が増えた今だからこそ思うこともある。
私はそれを背負って、あなたの望む、あなたが生きれなかった未来を、精一杯生きていく。
それでも、やっぱり……
「早く、会いたいな」
私はただ、あなたを想う。
ツッチーと夫婦で幸せに暮らしてた。
ショーのときに似たセックスをしてた。
最後はお別れした。
もっと一緒にいたかった。
一緒に生きたかった。
二人で笑っていたかった。
手を繋いでいたかった。
おでこを合わせて眠りたかった。
あの人は幸せになれと言ってくれた。
私の幸せを願っていた。
そうなったからこそ得られたものもあると、そう信じてると。
目が覚めると手に泥が付いてたから、あの会話だけは現実なんだと分かった。
本当に、もう会えない。
それからまた寝込んだ。
高熱に魘され見る夢は幸せなものばかり。
ツッチーが恋しくて、笑って、幸せで。
終わりがきたらまた最初から深い眠りに就いた。
一緒に死のうとしたこともあったけど、寸前でツッチーにとめられた。
「そのときが来たら迎えに行くから、もう少し頑張れ」
今すぐ来てって泣き叫んでも、目が覚めたら2番の部屋。
見たくなくてまた目を閉じた。
夢の続きを、幸せを終わらせたくなかった。
時折、ウルフの声も聞こえた。
「……アキラっ、……アキラ」
泣いてるその声は小さな子供みたいで、心配になって手を伸ばした。
そこまでは覚えてる。
次に目が覚めると、妙に晴れやかな気持ちになっていた。
身が引きちぎられるほど悲しくても、あの日の約束を守る。
あの人が私の願いを守ってくれたように、私もあの人の願いを守る。
それがあの人の願い。
あの人が残してくれた想い。
そう思えた時、今までの熱が嘘みたいにすうっと引いた。
心は重いけど、体が生きたいと訴えてた。
「いき、てる」
「アキラ! アキラっ!」
「ここ、どこ」
ウルフが状況を教えてくれた。
身請けしたものの、不調が続くので館を追い出されたらしい。
それから二週間ほどウルフの家で寝たきり状態だったと。
「あとツッチーからの伝言。ちょっと遠くへ行く。約束は守れってさ」
「……そっか……」
本当に現実を叩きつけられた気分だ。
会うことも、触れることも、話すことも、見ることも出来ない。
そういう所へ行ってしまった。
でも、あの人らしい言葉だと思う。
最後の最後まで優しい人だ。
「そうだね、また会えるまで全力で頑張らないとね」
「大丈夫か?」
ウルフの問いに苦笑いしながら頷いた。
「今度は大丈夫。迷惑かけてごめんね」
「誰も迷惑だなんて思ってねーよ」
「でも、ウルフが私の主人になるなんて思わなかった。人生って何が起きるか分かんないもんだね」
「主人っていうか夫だろ。お前が元気になったら、結婚すんぞ、結婚」
「ヒトとオオカミって結婚できるの?」
「戸籍上出来ねーけど、形だけなら出来るだろ。アキラは俺と添い遂げる、俺はアキラと添い遂げるって儀式だからな」
「それって……要らなくない?」
「俺がお前のドレス姿を見てーの! 分かれよ、そんくらい!」
「いや全然分かんないし。病み上がり過ぎて現実か夢かの判断が追い付かないの」
「はあ? 現実で最後に覚えてんのは何だよ」
「バーナードさんが口移しでお水くれた」
「ふーん」
あいた! 余計なことを言ってしまった!
その話ナイショだったのに。
「バーナードが、ねぇ」
あれは看病の一貫で、いやらしいキスじゃないんだけど、間違いなく勘違いしてる。でも病み上がりで正すのもメンドーだから知らん顔した。
しかしそう考えると、夢か現実かよく分からない夢ばかりだったな。あのときに似たエッチな夢を見ちゃうし、お別れしたのにさっさと次の雄との将来を決めちゃうし。
まだこんなにも好きなのに。
結婚か……ちょっと待って。この流れって、私、最低じゃない!?
「やだ、何これ! くら替えするの早すぎて引く。マジで引く!」
あまりにも恐ろしい現実が襲ってきて、顔を真っ青にしてガタガタ震えたら、ウルフが爆笑しながら言った。
「今さらだろ」
「全然笑えない! サイアク!」
「んじゃ奴隷に戻る? お前の自由という名の運命は、このウルフ様が握ってるんだぜ」
「そうやって奴隷を脅すわけね!」
「そうだぜ、だからもう何を言ってもムダ。アキラは俺の奴隷ってことで、お買い上げされたわけ。はなっからアキラに拒否権はない! 嫌々でも俺と結婚してもらいまーす」
「……ねぇ、ウルフ」
「な、何だよ」
ウルフに身請けされるって聞いた日に考えてたことがある。
実現するのは無理かもって諦めてたけど、ダメ元で聞いてみたい。
「ある程度のことを自由に判断する権利を下さい」
「もちろんやるよ。当たり前だろ! それにあいつと約束してるからな。アキラを自由にしてほしいって」
「そっか」
「あと、お前を幸せにしてくれってさ」
「……っ」
「ツッチーってさ、男前だよな。敵う気しねーわ」
こうなることを見越してた。
こうなるって分かった上で、一人で想ってくれてた。
私が泣いてる間も、あの人は私を思って行動してくれていた。
本当に優しすぎて、今さら……
「こんなのが欲しかったんじゃないの」
あれだけ泣いたのに、まだ懲りずに涙が出てきた。しかも文句と一緒に。
本当に、何で私って最低なんだろ。
「ただ……もっと一緒にいたかった、……たくさん話をしたかった、……それだけでよかったのに……」
そう言ってもどうしようもない。
私は奴隷で、あの人も奴隷。
あの人はもういない。
後悔したって今さら。
だけど後悔せずにいられない。
それでも、その後悔を背負って生きていくしかないんだ。
「私ね、勉強したい。奴隷だから右も左も何も分からないの」
「バーナードに教えてもらえよ。あいつめちゃくちゃ頭がいいんだぜ」
「もっとちゃんと自分の足で歩きたい。このままだと絶対に甘えちゃうから、しっかりした自分になりたい」
「オレは全然いいけどなぁ、甘えたなお前でも全然余裕で支えるし」
「……主人がそう言うなら……」
「あっ、違う違う! そーいうんじゃなくて! いいと思うぞ! 好きにしろよ。お前のやりたいこと全部、俺が支えるし」
「……ありがとう、ございます」
「お礼とかいらねえ。幸せにするって約束したからな、お前と、あいつと」
「ありがとうっ、本当にありがとうっ、ウルフにお尻を向けられないね」
「それはいやだ! バック責め好きだからお尻は向けてほしい!」
「うわ」
「何で引くの!? つーかそれって足を向けてじゃね!?」
「どっちも変わんないよ」
「ええー……」
こうして私は、ウルフに身請けされて奴隷から自由人になった。
もっとこう、スパッと勧善懲悪みたいな感じでマスターとお店の女の子たちに復讐したかったのに残念だ。
「ざまぁってしたかったな」
その日の夜、ウルフの家でご馳走とプリンを食べて、食後の紅茶を飲みながらバーナードさんに愚痴った。バーナードさんが言うには、これが一番の仕返しらしい。
「何で?」
「普通の感覚ならね、奴隷の女の子に惚れたからって高額なお金払ってまで身請けしないんだよ。誰もが羨む奇跡のシンデレラストーリーってやつを見せつけられたんだ、さぞかし悔しいだろうね」
「身請け金ってどこかで聞いたような、……五千万万ジュエルだっけ!?」
「よく知ってるね。最終的に倍額いったよ。もうすっからかん。まっ、あいつ地主だしすぐに取り戻すでしょ」
「倍額!? 地主!? ウルフのくせに金持ちなの!?」
「あははっ、いいねっ、そのリアクション!」
まさかの事実がここに来て判明した。
金持ちってことは置いといても、倍額の一億を出してるとは!
これはダメだ。
こんなの聞いたらウルフに足を向けて寝れない。
ケツを向けろって言われたら喜んで向けないといけないレベルのやつ。
そうだよ、そうだった。
白蛇様が身請け金のこと教えてくれてたのに、すっかり忘れてた。……あっ、身請けが決まったら相手に見せろって玉をくれたよね。確かポケットに入れっぱなし……あったあった。
「ウルフ!」
二匹の子供オオカミと遊んでたウルフに近寄って白蛇様にもらった玉を差し出した。
「これ」
「あああああ!?」
説明する前にウルフが叫んだ。
「あああああ!?」
「あああああ!?」
それをみた二匹のオオカミも叫んだ。ちなみにこのオオカミは双子の子供だ。みなしごで頼れる大人が居ないから拾ったと説明された。かわいいけど、たまにドSの匂いがするから、そこだけは苦手だ。黙ってればかわいいのに。
「どうした……あああああ!?」
三匹の異変に気づいたバーナードさんが近づいてきたけど、玉を見て三匹と同じく叫んだ。
「ど、どうしたんだよ! これ!」
「白蛇様にもらったの。身請けされたら相手に見せなさいって」
「白蛇……ホワイトスネークか!?」
「スネーク……そうそう。ホワイトスネークって名前の白蛇様」
ウルフは何も言わずに放心した。
バーナードさんは顎が外れそうなほど口をあんぐりと開いてた。
「白蛇みたの!?」
「みたの!?」
かわいい双子のオオカミが寄ってきてニマニマする口元をそのままに、両手を使って二人の頭を撫でた。尻尾がフリフリしてて何かもう感無量。マジでかわいい。超絶かわいい。黙ってれば。
「みたよ。すっごい白蛇様だった」
「えーっ、すっごいの!?」
「どんな風に!?」
「んっとね、性態は蛇と同じで中々の絞め具合だったけど、ヌルヌルしてて、……あれは一発で孕むと思うの」
「アキラお姉ちゃんは孕むような激しいセックスが好きなんだね」
「アキラお姉ちゃんはウルフが言ってた通りの淫乱ドMなんだね」
「子供がそんなことを言ったらいけません!」
「図星突かれて焦ってるぅ」
「ドMの反応おもしろいねぇ」
子供に何てことを教えてるのと、一言説教してやろうと思ってるけども、ウルフはまだ放心中。
「この玉、そんなにすごいの?」
ポツリと呟いたら、今度は四人が一斉に詰め寄ってきた。
「すごいも何も! 奴隷が持ってていいやつじゃねーよ!」
失礼なことを言ったウルフに一言もの申す前に、バーナードさんが分かりやすく教えてくれた。
「国家レベルの取引の時に使うような代物だよ! それもここぞって時に!」
「へぇ、こんな玉がねぇ」
小さな玉にそんな価値があるのかと改めて玉を眺めてたら、今度は双子オオカミが説明してくれた。
「こんなの出されたら、うんって従うしかないんだよ!? 望むもの何でも手に入るんだよ!?」
「奴隷どころか貴族、いや、王族にもなれちゃうやつだよ!?」
そう言われてもピンとこなくて、リアクションが取れない。
それに、私がほしいものは、こんな玉じゃ手に入らない。
こんな玉じゃ心は救えない。
だからこそ白蛇様はこれをプレゼントしてくれたのかも。
私が望む未来を手に入れるために。
これを上手く使えば、ウルフに従うこともなく、一人で自由に暮らせる。
王様になって奴隷制度を無くすことも出来る。
贅沢三昧な暮らしだって出来る。
好きな未来が描ける。
この玉に希望が詰まってる。
でも、【希望】ならここにある。
私の【希望】は、あのときから変わってない。
もう二度と捨てないって決めたんだ。
「んじゃ、これはウルフにあげるね」
「ひっ! アキラを酷い目に遇わせたら殺される!」
「大げさだなぁ。白蛇様は優しいから酷いことしないよ」
「相手は蛇の神様だぞ! そこんとこ分かってんの!? か、み、さ、ま!」
「だと思った。やっぱり白蛇は幸運の象徴よね。あのとき拝んで大正解だったわ」
「ダメだ、バーナード。アキラって意外と肝っ玉が据わってるや」
「奴隷になっても屈してない時点でお察しだな」
「アキラお姉ちゃん、強いね」
「憧れるね」
「私ってドMだから打たれ強いのかも」
何だかんだな毎日でも、楽しくも穏やかに過ぎていく。
ゆっくりと、でも、あっという間に。
あの人の痛みはまだあるけど、これはこれでいいと思えるようになった。
あの人を思って泣くのも、思い出して笑うのも、どれも大切なもの。
この傷みが今の私を作ってくれてる。
これで本当に良かったのか。
運命を変えられたんじゃないのか。
知識が増えた今だからこそ思うこともある。
私はそれを背負って、あなたの望む、あなたが生きれなかった未来を、精一杯生きていく。
それでも、やっぱり……
「早く、会いたいな」
私はただ、あなたを想う。
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