【R18】 人外専門奴隷娼婦~奴隷女の望む未来~

くったん

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希望の在処

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 俺を産んですぐに両親が死んだらしい。
 じいちゃんに育てられたけど、ガキのころにじいちゃんも死んだ。
 一人で生きてきた。
 だから愛情ってやつを知らない。
 みなしごって言われてバカにされながら育った。
 それでも生きてこられたのは、まだマシだったから。
 ヒトの奴隷やゴーレム。
 あれに比べればオオカミの俺は幸せだと感じた。
 あんなの死んだ方がマシ。
 何で生きてるのか謎の存在。
 オオカミの中でもド底辺な俺だけど、それでもオオカミだからっていう、そこにラインを引いて、バカにされても毎日を生きていた。

 そして、アキラに出会った。

 初めて優しくしてもらえた。
 初めて温もりってやつをくれた。
 初めて撫でられた。
 初めて心からの笑顔を向けられた。
 どれもこれも初めてで、どうしても恋しくて、どうしてもほしくなった。
 アキラは知らないだろうけど、アキラが奴隷だって知ってる。あの店に来る雄は全員気づいている。知らないのはアキラだけ。
 それでいいと覚悟してるし、あんな店から救って、絶対に守ってやると、アキラのすべてを受け入れてやると、俺なりに誓っていた。


 アキラに内緒で身請けの交渉を始めた。
 給料がなくて困るだろうってのもあるし、他の雄に触らせたくなかったから、その間も貸切にした。
 絶対に喜んでくれる。
 これでアキラを自由にしてやれる。
 自由になったら楽しい所に連れて行こう。
 一緒にいろんな物を見ていろんな経験をしよう。
 そう思ってたのに、現実は残酷だった。

 好きな男がいると言われてフラれた。
 カッと頭に血が上って、最低なことをして逃げた。
 そして後悔した。

 あのときのアキラは、ひどくツラそうで寂しそうで悲しそうだった。
 子どもみたいでとても小さくみえた。
 アキラの素を見たような気がした。
 アキラから逃げた俺が、今さら何かをしたいわけじゃない。
 そんな資格もない。
 でも何か言わないといけない気がして、あの日のことを謝りたくて。
 でもどうしたらいいか分からず、悶々とした日を過ごした。
 そんな俺を見かねた親友のバーナードがアドバイスしてくれた。

「店主に騙されてたんだと思う。とにかくすぐに交渉を再開しろ。その子を買って、話はそれからだろ。うかうかしてると酷い目に遭うぞ」

 バーナードの言うことはごもっとも。
 奴隷は奴隷だ。何をされてもおかしくない。
 それでも踏みとどまるのは、アキラの想いを無視して、アキラを買うという行為に罪悪感があったから。

 結果的にそんなもの、元リーダー達に酷いことされてるのを見て、月の彼方までぶっ飛んだけど。

 もっと早く買えばよかった。
 そしたらあんな目に遭わずに済んだ。
 後悔で頭がおかしくなりそうだった。

「酷い高熱ですが、原因は栄養不足と酷いストレスですね。のんびり出来る環境で休めば治ります」

 医者のアドバイスを聞いてすぐに行動に移した。
 俺に出来ることなら何でもした。
 アキラをバーナードに任せて、身請けの話をまとめた。足元を見られたがどうでもよかった。預金でなんとかなりそうな金額に落ち着いて無事に交渉成立。あとはアキラに詳細を伝えるだけ。
 それなのに、ようやくここまできたのに、病状が悪化して意識不明になった。

「原因不明の高熱が続いてますからね。あとは本人次第です。よほどこちらに戻りたくないのでしょうな」
「……ツッチー……」
「会いたい人がいるようなので会わせてみては? もしかしたら、ですが……」

 すぐに店主に情報を売ってもらった。
 ツッチー、多分アキラの好きな雄だ。
 他の雄に頼らないといけないってことが悔しいけど、それこそつまらない男のプライドってやつ。
 そんなことよりも今はアキラが一番で、アキラの為なら何だってする。

 その一心でツッチーって野郎を連れて来た。

 案の定、意識を取り戻したアキラは、幾分かマシな顔色で、すやすやと気持ち良さそうに寝ていた。
 やっぱりこれ以上は俺の出る幕じゃねーよなって思った。
 アキラを自由にしたら、こいつと幸せに暮らしてほしいと。
 その為に手助けしようと。
 でもゴーレムは帰る間際、額を床に押し付けて土下座してきた。

「頼みがある!」

 いきなり何事だと焦る俺をよそに、ゴーレムは言葉を続けた。

「アキラを、どうかアキラを幸せにしてやってくれ! 俺には出来ないから! アキラにっ、幸せを! お願いだ! あいつを自由に、幸せにしてやってくれ!」

 何で俺? 言い返す前に、バーナードが俺の肩を叩いた。

「……頼まれてやって。それはもうお前にしか出来ないことなんだよ」
「でも、アキラはこいつが」
「いいんだ、これで。こうなるしかなかった、それだけの話だよ」

 何かよく分からなかったけど、バーナードの手の力強さに何か感じるものがあった。

「わかった、アキラのこと幸せにする! 元気になったら一緒にプリン食うんだ」
「……そうか、プリンってやつを……そうかっ、……よかった、ほんとうに、……よかった」

 ゴーレムは静かに泣きながらこの場を去って行った。
 やっぱりよく分からなくて、事情を知ってそうなバーナードに話を聞いたけど、何も答えてくれなかった。


 それから、容態は安定したけどアキラが目を覚ますことはなかった。
 医者が言うには目を覚ましたくないらしい。

「ほら! やっぱりあいつじゃないと幸せにしてやれねーじゃん!」

 バーナードに文句を垂れてすぐにゴーレムを連れて来ようとしたら、珍しく羽交い締めにされてとめられた。

「それよりもアキラちゃんと一緒にいてやれ!」
「何で!?」
「お前にしか出来ないんだよ! ゴーレムと約束しただろ!? 男の約束を破る気か!」
「……ごめん」
「お前がやるんだ。諦めるな」

 でも、どうやったら目を覚ましてくれるかが分からず。
 隣で一緒に寝てみても、声をかけても何の反応もなかった。
 想いを否定されてるみたいで、寂しくて悲しかった。

「……アキラ」

 小さな手を握って声をかけると、少しだけ指に力が入った。
 まぶたも少し開いた。

「アキラ、アキラ!」

 それが嬉しくて、何度も名前を呼んだ。
 アキラはポツリと言った。
 「おきたくない」と。
 その理由を解決しないと起きないってことは俺でも何となく分かった。

「何で起きたくねーの?」
「イイコトなんて何もないから」
「あるよ、いっぱい」
「ウルフは何でも持ってるからそう言えるんだよ」
「……アキラは何がほしいの?」
「普通に生きたい、普通の恋をして幸せになりたいだけなのに。なんで、わたしは、奴隷なの?」

 アキラの想いが心に突き刺さる。
 その気持ちを否定して俺がアキラを買った。
 泣いてるアキラを暖めて包んであげたいけど、その資格もない。
 あいつならそれが出来る。
 あいつにしか出来ない想いが、アキラからのまっすぐな想いが、俺も欲しい。

「いやだ、はなれたくない、まだ、いっしょにいたい! しってたけど、まだ!」

 アキラはあいつと一緒になれないことを知っていて、ずっと耐えてたんだ。
 いつだって笑顔で何でも受け止めてくれた姿はただのハリボテで、本当のアキラはこんなにも小さな女の子だった。

 でも、こんなときでも、やっぱりアキラを愛おしいと思う。
 このまま部屋に閉じ込めて隠しておきたい。
 誰の目にも触れさせないように、その潤んだ瞳に俺だけが映るように。
 独占してめちゃくちゃにしてやりたい。
 俺が買った奴隷。
 下衆な想いが沸き上がる。
 さすがに行動に起こさないけど。

 あいつとの約束は【幸せにすること】だ。
 下衆な俺が幸せに出来るとは思えねーけど、これは分かる。
 辛くても悲しくても歩みを止めたらダメだ。
 例えそれが理不尽なことでも、立ち上がって進むしかない。
 アキラならこんなときに何て言うかな。
 俺なんかの言葉が届くかな。
 届くといいな。

「お前ならやれる! やれるよ!」
「うっさい! 元々はあんたが原因でしょ! オオカミのくせに指図すんな!」
「痛い!?」

 届くどころか手の甲の皮をつねられた。ってかオオカミのくせにって何だ!

「またオオカミをバカにしたな! 散々迷惑掛けたくせに何だその態度! 俺も怒るぞ! ガオーッてするぞ!」
「あんたが新しい主人なんでしょ!? だったら奴隷のおもちゃになってガオーッて鳴いてなさいよ!」
「普通逆だろ!? 奴隷のアキラが俺のおもちゃじゃねーのかよ!」
「あーっ! やっぱり奴隷の私のことそんな風に思ってたんだ! マジで最低! 信じらんない!」
「さっきから何なの!? 喧嘩売ってんの!?」
「……もう、自分がなにいってるかわかんないのーっ!」
「あだああぁっ!?」

 アキラのグーパンチが見事に顔面に飛んできた。
 頬にめり込むそれは、ちっとも威力が無いけど、見事に俺のモヤモヤを吹き飛ばした。
 そうだ、うん、そういうことだ。
 幸せは、可能性で、希望。
 いつだって、そこにある。
 アキラにだって、下衆な俺にだって、誰にだって、可能性がある。
 希望は、心にある。
 うん、やっぱりアキラはすごいぞ!

「希望を捨てるな」
「希望なんてどこにあんのよ! 生まれた時からそんなものなかったわよ!」
「無いなら俺がなるよ!」
「は?」
「俺がお前の希望になる!」
「……ウルフ……」
「アキラの願う欲しいものが手に入らないかもしれない。でも、ゼロじゃないだろ」
「……」
「アキラはどうしたい?」
「……わたし……」
「アキラの望むモノを、幸せの可能性を一緒に考えよう。希望が無かったらゼロから考えてみよう。大丈夫。アキラが望めば、可能性はいつだってアキラの中にある。もしアキラがその可能性に気づけないのなら俺が気づかせてやる。アキラの笑顔を守るためなら何だってする。俺じゃ頼りないかもしれないけど、でも、一人じゃない。これからは二人だ! それはきっと、この世で一番最強なんだぞ!」
「……何で、……そこまでするの。わたし、好きな人がいるのに……」
「俺だってお前が好きだ」
「傷心中にそれ言うの、今から禁止ね」
「俺ね、フラれたって嫌われたって傷ついたって、全然かまわねえ! 何度でも言い続ける。それが例え残酷で理不尽な状況だったとしても、好きだって想いは譲れないからな!」
「何よそれ、そんなこと言われたら起きるしかないじゃない」
「だって俺はお前の希望だろ。転びっぱなしにさせるもんか!」
「……厳しい男に惚れられちゃったわ。こんなときでも……甘えさせてくれないのね」

 開けていた窓からサーッと気持ちの良い風が入ってきた。
 曇りだった空が晴れて、月の光がアキラを照らした。
 うっすらと開かれたまぶたのその奥にある瞳は、月の光と同じで、鈍く、凛と光っている。

 もう、大丈夫だ。

「私の夢を、あの人の願いを叶えたい」
「どんな夢?」
「奴隷のくせにって笑わない?」
「笑わねぇ」
「あのね、恋をして結婚して子供を産んで天寿全うして孫に囲まれて死にたいの。……叶うかな」
「むしろ実現可能。俺が夫ね。安心して子供を産んでくれ。俺も子どもと野球してーんだよ」
「いいの? 私はとってもか弱い乙女だから今日みたいにすぐ怒って泣いちゃうよ」
「いいよ、何でもいい。想い人丸ごとアキラの全部受け入れる。俺のそばにいてくれ。それだけで十分だ」
「ウルフ」
「なに?」
「ありがとう」

 アキラの頬に涙が伝う。
 月の明かりに照らされて、キラキラ宝石みたいに綺麗な瞳が俺のと重なった。

 身も心も重なりあえたらいいのに。
 アキラと想いが一つになれたらいいのに。
 
 叶わない願いを思いながら……

「世界中の誰よりも幸せにしてやる」

 あいつの願いを口にした。




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