2 / 16
2
しおりを挟む前世のご主人様に出会えたけど、その関係が報われることはなかった。
あの日、あの場から逃げた皇子が近衛を連れて戻ってきた。それを予想して逃げたご主人様は現在行方知れず。せっかく出会えたのに、また離れ離れになった。
誰のせいでもない、皇子のせいで。
「俺は見たんだ!コイツが見張りの男と……その、……行為をしていた!」
バカみたいに騒いでくれたせいで、皇帝とその他のお偉いさんに呼び出された。昨日の行為と婚約破棄の件について尋問されている。
「まさかアルザがそんなこと……」
真っ青に嘆く皇帝陛下に思わず笑ってしまいそうだった。私は魔界側の人間だ。魔王の弟の娘。魔王の姪にあたる。
立場は皇子の方が上でも、魔界といざこざを起こしたくない人間界の王族は、基本は私の味方。日ごろの行いも優等生だから悪く言われる覚えもないのだけど。
それに今は、皇子の品性の方が疑われている。婚約者を放置して堂々と浮気。フィジーがそれを許しても王家は許さない。
「本当です、父上……いえ、皇帝陛下!こいつは婚約者の俺をずっと裏切っていたのです!」
自分の裏切りを棚に上げて何を言ってるんだろう。先に裏切ったのは皇子なのに。本当に、心底、腹が立つ男。ちょっと遊んで泣かせてやりましょうか。
「違いますわ、皇帝陛下。皇子の話はすべて作り話です」
「なっ!?」
「婚約者である皇子がいらっしゃるのに、わたくしが……他の男性と……うぅ」
ぐすんぐすんと啜り泣く声を出して、ウソ泣きがばれないように手で顔を隠した。
優等生のアルザが泣いている。しかも浮気者の婚約者に品性を疑われて。おお、何てかわいそうなアルザ……って所かしら。でももう一押しほしいわ。【かわいそうなアルザ】を完成させ、なおかつ皇子に恥をかかせる何かが。
「ウソだっ!おまえは俺の前で行為をしていたじゃないか!」
いいわ、その調子よ、皇子。その素直さがあだとなって、今から私に食べられちゃうのね。覚悟するといいわ。
「行為をしていたとおっしゃいますが、わたくしが何をしていたと!?もっと詳しく説明をすべきです!」
皇帝陛下もその他お偉いさんも「そうだそうだ」と頷いた。こうなると詳しく説明する道しか残されていない。皇子もそれを気づいている。
「説明を求める」
「なっ、ななな」
是非とも今の皇子の様子を見てやりたいところだけど、それはあとでのお楽しみに取っておこう。
「コッ、コイツは!……後ろから男に……その、……それで」
「ほら、そうやってハッキリとおっしゃらない!それが証拠です!皇子の作り話ですわ!」
「違う!俺は見たんだ!コイツはあの男に後ろから入れられて喜んでいた!俺に見せつけながらセックスをしていた!」
皇子の詳しすぎる説明に、シーンと静まり返った。笑い転げたくて仕方なくて、でも笑うわけにもいかず。笑いを耐えて震える体を利用して、また啜り泣いた。
「……ひどすぎますっ、……わたしくっ、……そんな……」
皇帝陛下はわざわざお立ちになり、わああっと泣く私の肩をそっと抱いた。それがどれ程のことか嫌でも理解してる皇子は、自分の最悪な現状に気づいたようで、ようやく静かになった。
「……アルザ、すまない。うちのバカ息子が本当に、……許してくれ。……アルザの尊厳を傷つけてしまった」
「……おとう……さま……」
「こんな愚息を持つ私を……まだ父と呼んでくれるのか」
「……もちろんですわ、お義父様。それにわたくしが悪いのです。……あの子のことを責めてしまったの。皇子が気を悪くするのも当然ですわ。愛する人を悪く言われるのは嫌ですもの」
少し悲しげに微笑んでやったら、お義父様は本当に申し訳なさそうにしていた。
「婚約破棄の件は……」
「ええ、分かってます。これは魔界と人間界のための婚姻ですもの。何が起きても破棄は出来ません」
「……私も、今回の件についてご内密に済ませたいと思っている。もう少し時間はかかるが……愚息を止めれない私を最低だと思ってくれていい。本当にすまない」
「気を悪くしないで、お義父様。お義父様がいれば寂しくなんかないの。だってパパのように……ごめんなさい、皇帝陛下。わたしったら失礼を……」
「っっ!!アルザっ!かわいい私のアルザーーッ!」
「お義父様!」
涙を流しながらお義父様と抱きしめ合うという茶番劇を披露したあと、改めて皇帝陛下とその他お偉いさんの話し合いが始まった。
「この件があちらにバレるとまずい」
「これをネタに関税をーって言ってくるかもしれませんな」
「魔界との繋がりを保つためにも、スキャンダルだけは避けたい。……やむ終えんか」
政治の話やら何やらしているが、女の私には関係のない話。もちろん愚息と呼ばれた皇子にも。
「失礼いたします」
どちらの件も不問となったので、みなさまにご挨拶をして大広間から出た。
昨日の疲れもあるし、体を休めたいから早く自分の宮殿に帰りたいけど、皇子が腕を掴んできた。
「話がある!」
それはそれは大変なお怒り具合で。昨日のことを追及するのか、それとも昨日のことを思い出して興奮しているのか。
絵に描いた茹でタコのような色を見て、私はペロリと唇を舐めた。
ーーーーー
「なぜウソをついた!何なんだあの男は!いつから裏切っていた!」
「そんなことより、いいの?あなたの評判だだ下がりよ。裏切り者の婚約者が男に犯されるのを見せつけた、バカ正直に言うんだもの。笑い転げるかと思ったわ」
さっきを思い出してクスクス笑った。皇子はそれが気に入らなかったらしく、私の腕を掴んで引っ張ってきた。
「あらあら、ご機嫌ななめね」
「うるさいっ!!」
皇子は寝室へと向かった。私をベッドへ乱暴に投げ飛ばし、あろうことか上にまたがってきた。
本当コイツは絵に描いたアホ皇子だ。でもそのおかげで【これから】を少しだけ楽しめそう。やれ刺繍だ、やれダンスだって毎日退屈なんだもの。
こういうことがないと女は暇で死んじゃうって、お義父様のお姉様が言ってた。まったくその通りだと思う。【前世の記憶】が戻って本当に良かった。
「どういうことだと聞いてるんだ!」
「何が?」
「きっ、昨日のあれは!」
「ええ、とても情熱的な夜だったわね」
クスクス笑いながら皇子を見ると、これでもかいうほど真っ赤にしていた。
「あなたも見ていたでしょう。私のあられもない姿を。ヨダレを垂らして、肩を震わせ、焦点の合わない目であなたを見つめていた。……今と同じ」
じっと目を合わせると皇子の方から目をそらした。ペロリと自分の唇を舐めた。
「初めて見られたわ」
手を伸ばして皇子の髪の毛に触れた。体を起こし、その手を後頭部に回し、ぐっと引き寄せた。嫌なら拒否すればいいものを、皇子はされるがまま、私の首に顔を埋めた。
「ねぇ、……どうだった?」
「……っ」
私は皇子の耳の穴に音を入れた。ちいさく囁くように、ねっとりと。脳みそを掻き乱すよう。
「地下牢に響く私の声は?……吐息は?風通しが悪いから匂ってたでしょう?ねぇ、私の匂いはどうだった?快楽に堕ちた私を見てどう思ったの?ーー興奮、した?」
皇子の肩が小さく揺れた。図星のサインに思わず自分の唇を舐めた。その舌がチロリと皇子の耳に当たった。ものすごい勢いで飛び退いた。
「あっ、その!これは!」
手に耳を当てて必死になっているが、別のトコロも必死に布を張ってたから、それをクスクス笑って見ていた。そのことに気づいた皇子は、ポーーッと湯気が出そうなほど熱くなり大声を出した。
「俺はフィジーが好きなんだ!!」
まるで自分に言い聞かせるかのような、その言葉に、私は悪い笑みを浮かべた。
「私はあなたが大好きよ」
これからは退屈と無縁でいられそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる