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しおりを挟む通っている学園でも婚約破棄の話題で持ちきりだった。私が皇子を裏切って他の男と寝たといううわさも出ている。
それに関しては誰も信じていないようなので、普通に笑顔で過ごしていればいいだろう。
ただ問題は、皇子がずっと側にいることだ。
「俺が見張っていないとな!」
「食事の時もゆっくりしたいのですけど」
カフェでランチを楽しむどころの話じゃない。朝から迎えに来て一緒に登校。同じクラスだから離れることもできず。今だって隣のイスに座ってる。いい加減、うっとうしい皇子にため息をはいた。
「何だよ、そのため息は!俺は婚約者なんだぞ!」
「婚約を破棄するって言ったのは、あなたよ」
「でっ、でも!できないだろ!」
「そうね、お互い残念ですね」
「……残念……」
見るからに皇子が落ち込んだ。私の行為を見たからって、あからさまに発情しなくてもいいのに。
「ねぇ、皇子」
ある質問をしようと声を掛けたけど、それよりも大きな声が聞こえた。
「皇子!」
フィジーのご登場だ。
「皇子ってば何で先に行っちゃうの?ずっと待ってたのに」
フィジーは皇子の前の席に腰掛けた。挨拶くらいしなさいよ、頭が高いわねって言いたいのを堪えて、カットフルーツを食べた。
「ああ、すまない。この女に用があってな」
「もう終わった?お昼にしましょう」
「そ、そうだな。三人で食べよう」
何でそこで三人で食べることになるんだろう。二人で食べたらいいのに。でも、そうね、これはこれで楽しめるかも。
「ねぇ、皇子。話って何かしら?」
にっこりと笑顔で聞いた。
「あっ、あーっと」
何も考えていないからすごく焦っている。仕方ないから助け船を出してあげた。
「もしかして、あの事についてかしら?」
「そっ、そう!それだ!」
「あの日は熱い夜でしたものね。何度だって語りたくなるのも分かりますわ」
「は!?」
「もしかして今夜のお誘いかしら?」
「……っ」
一体何を想像しているのか。真っ赤になった皇子にほほ笑んだ。
「あらやだアルザ様ったら、まだお昼なのに。やっぱりあのうわさは本当でしたのね」
やっぱり食い付いてきたフィジーに、否定も肯定もせずほほ笑んで、食後の紅茶に口をつけた。
「ほら、皇子。この人はうわさは本当ですわ。皇子がいながら他の男性と……」
「……そ、それは……」
フィジーのあからさまな挑発に乗って遊ぶのもありだけど……、私は何も言わずに皇子の目をじっと見つめた。そんな私を真っ赤になった顔でにらみ付ける。
分かりやすい反応がおもしろい。もっと遊んでやろうと、皇子の太ももを指先でそっとなでた。
「っ」
ピクッと肩を揺らす。その反応をじっと見つめながら、指先でハートを描いた。何個も描いた。
昨日のこともあって、目をそらしたら負けだと思っているんだろう。にらみ続ける皇子がかわいくて笑ってしまった。
「ふふっ、おっかしい」
「なっ、何で笑う!!」
「いえ、ごめんなさい。ずっと見つめてくれるんですもの。嬉しくて思わず」
「見つめてなどいない!」
「そうかしら?てっきりあの日の私を重ねて見てるとばかり」
「ちっ、違う!」
「私は重ねてるわ。あの日のあなたの目はひどく興奮して」
まだ話している途中なのに、限界を突破したであろう皇子が勢いよく立ち上がった。私の手首をつかみ、「来い!」と無理やり引っ張ってきた。
簡単に釣れた皇子に笑いつつ、その笑顔そのままに、悔しいと怒りに震えているフィジーにお願いした。
「わたくしの食器、片付けておいてね」
皇子に引っ張られる形でその場から離れていく。後ろで何か陶器のような物が割れる音がして、んべっと舌を出した。
ーーーーー
フィジーの心境なんて何のその。皇子は私を連れて行くことで頭がいっぱいなようで。
誰も使っていない教室に入るなり、私を突き飛ばした。ずさりと転んだ。打った膝が痛む。でも皇子は床に倒れる私をにらみ付けた。
その見下ろしてくる様に口が歪んでしまうのは、私がマゾヒストだから。でもダメなの。ご主人様には遠く及ばないの。
「フィジーの前で何のまねだ!」
「何のこと?」
「おっ、俺の足に触っていた!」
「ああ、そっちね」
てっきり会話の方かと。まぁ、どっちでもいいけど。
「それで?何がご不満だったの?」
そう言いながら立ち上がる。制服に付いたホコリを払い、そばにあるイスに座る。ズキズキと痛む膝が気になるけど、皇子のご機嫌を直してあげないと。
「フィジーの前であんなことをするなよ!」
「ほんの少し触れただけです」
「ダメだ!」
「だったらもうしません。嫌な思いをさせるつもりはなかったのよ。ごめんなさい」
「……ふんっ、意外と物分かりがいいんだな」
物分かりの悪い裏切り者のあなたとは違うの。って心の中でつぶやいて、痛む膝にふれた。
「何だ、膝が痛いのか」
「ええ、先ほど倒れたときに打ったみたいで……」
「!?」
「気にしないでくださいね。あなたを怒らせたわたくしが悪いんだから」
「……そう、だ!おまえが変なことをするからだ!」
「ええ、ごめんなさい。皇子を責めるつもりはないのよ。でも、痛みがひどくて。手伝っていただけませんか?」
「何をしたらいいんだ」
「ストッキングを破ってほしいの」
「は?」
「これ、このストッキング、破れなくて」
膝辺り部分のストッキングを自分で引っ張ってみせた。こんなの自分で破れるし、皇子に頼む必要はない。でも、こっちの方がおもしろそう。
「ねっ、お願い。傷の確認しないと」
「……あ、ああ。分かった」
皇子は私の前にしゃがんだ。おずおずと手を伸ばしてストッキングに触れる。わざとピクリと体を揺らしたら、皇子の手が離れた。
「ご、ごめんなさい。……傷に当たって」
「い、いや、別に」
【ストッキングを破る】だけ。それだけ。でも皇子は真っ赤になっている。フィジーとヤれる所までヤッていると思っていたけど、どうやら違うらしい。
皇子はまだ【坊や】なんだ。
「やっ、破る、ぞ」
「ええ、お願いしますわ」
皇子はもう一度ストッキングに触れた。両手で膝部分を引っ張りながら指を引っかける。穴を作るために。それを見て自分の唇をペロリと舐めた。
「ねぇ、皇子」
「何も言うな」
「ストッキングを破るって」
「言うなーーっ!」
言われた通りに黙ったら、今度はにらんできた。
「やっぱり気になるから言えよ!」
この皇子はどうしてこうあるのかしら。かわいいと一瞬でも思った私も変だけど。
「言っていいの?」
「中途半端が気になる!」
「そう?」
「何だよ!」
「ストッキングを破るとき、どういう気持ちなの?」
「へ?」
皇子は私の顔からストッキングに視線を移した。
「辱しめたいと思うの?それとも征服したいって思うのかしら?でも、そうよね、黒いそこから白い肌が見えるといやらしくもあるわね」
「バカを言うなよ!これはおまえが!」
「そうよ。わたくしがお願いしただけ。それだけよ。ふと思っただけなの。ごめんなさい。変なことを言ったわ。でも、ねぇ、早く破ってくださるかしら?」
「何だっておまえは変なことしか」
その続きはなかった。皇子はストッキングに引っ掛けてた指をグッと中に入れ、穴が開くまでそこをほじる。グニグニと。つぷんと指が入ったのを見て、囁くように言った。
「引き裂いちゃ、ダメよ」
ビリリと布が避ける音がした。膝部分だけじゃなく、膝上からすねまで、無残にも大きく割けたストッキングからは、白い肌が剥き出しになっている。
「あらあら、皇子ったら」
露になった膝を確認すると、強く打ったらしく赤い紫に変色していた。その患部に触れる前に、皇子の手がそこに触れた。
グッと押される痛みで顔をしかめると、それを見た皇子は【してやった】という顔をした。
「こういうのが好きなんだろ!?ひどいことをされて喜ぶ変態なんだろ!」
いろいろと間違っているけど、違ってるなりにも皇子が考えた【プレイ】だ。私も私なりに応えてあげようと思い、皇子の後頭部に手を回して、ぐっと引き寄せた。耳に口を当てる。皇子から女の甘い匂いがして鈍く痛んだ。
「ええ、そうよ。痛いのも好きよ。でもね、皇子。そうじゃないの。そこじゃないのよ」
もう片方の手を皇子の手に重ねる。指を取り、その指をゆっくり動かしながら教えてあげた。
「焦ってはダメよ。外側からじっくり責めるの。ゆっくりと時間を掛けて、痛みを甘味に変えてあげるの。ほら、こうやってするのよ。……ねっ、やってみて」
皇子から手を離すと、皇子はひどく弱い圧で患部の外側を押した。ゆっくりと、さっきと違って丁寧に。じわりじわりと痛みを責める。
「ええ、そうよ、それでいいの。とてもお上手だわ」
荒い息をわざと耳に吹き掛けると、皇子は患部を強く押した。突然の痛みに「んっ」と声が出てしまった。
「すっ、すまない!」
「大丈夫よ。驚かせちゃったわね」
「……あの、……もう、離してくれないか」
「あら、ごめんなさい」
皇子から手を離すと、皇子も膝から手を離した。皇子の視線は破れたストッキングと患部。それに対して何を思ってるのか、皇子に質問しようとすると、教室の扉が勢いよく開いた。
「何を、しているのかしら?」
フィジーは笑顔の裏にものすごい怒りを隠している。それに気づける皇子じゃないので、フィジーがこちらに来る前に、皇子に忠告した。
「フィジーに、興奮しているソレを見られたくなかったら、何も言わずに退室することね」
「ソレ……っ!!?」
皇子はフィジーを見ることも声を掛けることもなく教室から出て行った。あまりの慌てっぷりと、最後の走っていく情けない背中が面白くて、皇子が出て行ったあとも、一人で笑っていた。
「あら、アルザ様ったら、私の男に手を出して楽しそうですわね」
皇子が居なくなったら遠慮がなくなるフィジーも、なかなかどうしておもしろい。何でこうも笑わせてくれるんだ、この二人。
「あなたの男?あれはわたくしの婚約者です。わたくしの男に手を出して楽しそうなのはあなたでしょう?」
「皇子は私が好きなんです!」
「へぇ、そう。だから?」
「だからって……皇子を縛るのはやめてください!」
フィジーのくだらない言葉のせいで興醒めだ。つまらなすぎてため息をはいた。
「あれを縛っているのはわたくしじゃありません。人間界と魔界の契約よ。それがどれほど重大なことか、あなたも知っているでしょう」
「でも!結婚は好きな人とするのが一番幸せなんです!私は皇子に幸せになってもらいたい!」
「あら、驚きね。皇子と相思相愛だと思ってるの?」
「へ?」
「見て、これ」
足を上げてフィジーに破れたストッキングを見せてあげた。
「皇子に引き裂かれちゃったの。膝部分だけでよかったのに。あの夜を思い出して気持ちが昂ったのかしら」
我ながら下品な挑発だ。でもフィジーはその挑発に乗る気らしい。わなわなと震える手を振り上げて、思い切り私の頬に振り下ろした。
乾いた音が教室に響く。
「最低っ!!」
怒りを訴えるフィジーの荒い息と言葉に大爆笑しそうで。でも怒っているのは私も同じ。
「嫌だわ。ストッキングを破っただけのお話なのに」
この痛み、必ず精算してやる。
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