悪役になりたくてなったわけじゃない!

くったん

文字の大きさ
7 / 8

・ガイナの場合(1)

しおりを挟む

幼いころに彼女の話はアキトから聞いていた。二十歳まで生きられないと、失うのも置いていかれるのも怖いと、傷つきたくないと泣くアキトに、子どもながら軽蔑を覚えた。それもそれで正解で、何が正解とかないんだろうけど。

自分がそうならどうするんだろうと考えてみたけど、よく分からなかった。でも、彼女は彼女なりに前を向いて進んでいる。誰よりも一生懸命で、何よりも命を尊んでいる。子どもながらすごい女だなと思ったし、尊敬すら覚えた。

それからは彼女の情報だけを集めて、彼女の生き様を観察していた。別に好きとかそういうんじゃない。ただ彼女の人生が気になっただけ。それだけの気持ち。まぁ、仮にも親友であるアキトの片想いの相手だし、俺にも好きな人がいるし。

【好きに生きる】彼女はあっという間に有名になった。端から見れば教養のない女だろうけど、マナーが悪いとか挨拶も出来ないわけじゃない。しがらみに囚われない彼女を羨ましく思う連中の妬みでレッテルを貼られただけ。何度か社交場で見たことがある。礼儀正しく、笑顔がチャーミングで、何よりも雰囲気に威厳がある。あれは女でも嫉妬するし、まず男が放っておかないなと思ったものだ。でも、俺にとってはそこまでの女。

何を隠そう俺の好きな女は、俺の幼馴染みであり、アキトの現婚約者であるアンジェリーナだ。幼い頃からずーっと俺の片想い。何であんなヘタレ野郎がいいのか全然分からんけども、婚約者の為と言って努力する様を近くで見つめてきた。元々不器用だからと誰よりも努力をしていた。伯爵家に恥じぬ妻になるべく、どんなに辛いことがあっても、愚痴を溢さず、ひたむきに、日々の努力を惜しまず。そうして今では名の知れた美しい女になった。

だからこそっつーの?アンジェリーナの想いも努力も台無しにするアキトも、アキトの心に住まうあの女も、尊敬してたりしていたが成長するにつれて嫌いになった。特にあの女だけは許せない。憎しみすら感じる。

あの女が早く死んでくれたら、アキトもアンジェリーナも解放される。アキトの心からあの女が居なくなって、そうしたら空いた隙間にアンジェリーナが入り込んで、そうしたらアキトはアンジェリーナの良さに絶対に気づける。泣いてばかりのアンジェリーナが笑って幸せに過ごせる日が来る。

そうなるために俺が出来ることは、アキトとあの女の邪魔をすること。アキトがこれ以上想いを滾らせないように調整していくこと。あの女と引っ付かないようにすること。一番いい案があるとするなら、俺があの女と引っ付いて、アキトの傷心をアンジェリーナが治す……って感じ。死にかけの女と付き合っても楽しくないだろうけど、アンジェリーナの幸せの為だ。俺は一肌でも二肌でも脱ぐ。

本当に申し訳ない、親友よ。お前とアンジェリーナを天秤にかけて大切に思うのは、いつだってアンジェリーナなんだ。これも運命だと思って許してほしい。

「んで、どうするの?行くの?」

今日はアキトとあの女の約束の日。昼休みになっても自分の席から動かないアキトに声を掛けた。この前のパーティーのときに釘を刺したおかげで、アキトは首を横に振って黙り込んだ。一応ってこともあるし、引っかけることを言ってみた。

「んじゃ、俺が狙ってもいいよね?覚悟ならあるし」

一瞬顔をしかめたアキトだったけど、すぐにうつむいて小さく縦に頷いた。おお、本当にちゃんと考えてる。うんうん、それでいいんだ。アキトはアンジェリーナを幸せにする義務があるんだ。そうじゃないと俺が困る。

「ならさ、俺が代わりに行っていい?」
「好きにしろ」
「ラッキー!実はさ、ずっと好きだったんだよね~」

満面の笑みでウソを言うとアキトがこれでもかってくらい目を見開いていた。

「アキトの想い人だし、何か言い出せなくてさ。ごめんっ!」

両手を顔の前で合わせてそう言うと、アキトは遠い目で俺を見ている。

「お前の方がお似合いだと思う」

何それめちゃくちゃ気持ちが悪い。って喉まで出てきた言葉をゴクリと飲み込んだ。何だか胃が気持ち悪くなった。これはストレス性なやつだ。だってこんなにも、腹が立つ。

「んじゃ、行ってくる」

お似合いって何だ。本来なら婚約者がいるお前が他の女に惚れるなどあってはならないことで、でもその感情を隠すことなくあの女を想っている。非常に悔しい。何でお前の心の中にアンジェリーナが居ないんだ。あんなにも努力家でひたむきで素敵で美しい女はこの世に居ないのに。何で。何でお前なんだ。

もし俺だったら……

「なーんて、そんな幻想、バカらしくて見てらんないや」

今以上想像すると止まらなくなるし、空しくなる。その感情が少し溢れそうだからキツく蓋をした。とにかく!アンジェリーナの為に俺の成すべきことは、二人の邪魔と、あの女を落とすこと。それだけだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

世話焼き幼馴染と離れるのが辛いので自分から離れることにしました

小村辰馬
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢、エリス・カーマインに転生した。 幼馴染であるアーロンの傍にに居続けると、追放エンドを迎えてしまうのに、原作では俺様だった彼の世話焼きな一面を開花させてしまい、居心地の良い彼のそばを離れるのが辛くなってしまう。 ならば彼の代わりに男友達を作ろうと画策するがーー

処理中です...