悪役になりたくてなったわけじゃない!

くったん

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・アキトの場合(3)

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絶対に来てね!と彼女に言われたら、行くしかないと思うのは俺が彼女に弱いからなのか、俺の意思が弱いからなのか。でも一方的に押し付けられた約束が待ち遠しくて、その週は心がソワソワして落ち着かなかった。

土曜の夜は、親戚が主催するパーティーに強制参加だった。そういう付き合いは面倒で、今まですぐ帰ってたけど、家に帰っても一人でソワソワして落ち着かなそうだから、賑やかな場に居た方が気が紛れると思って、珍しくその場にいた。でも婚約者も同伴だから、それは嫌だった。

親が勝手に決めた女を婚約者だと認めたくない。

彼女に会ってその想いは強まるばかりだ。彼女を婚約者にしたい。妻にして一緒に生きていきたい。好きでもない女と結婚するのなら、一生独身でも構わない。今さら親に反抗する気もないくせに、想いだけは一丁前。

「アキト様、今日はお付き合いくださってありがとうございます」
「……」
「ずっと心配してましたの。ほら、あなたって何もおっしゃらないから。夫なのですから、もう少し相談してくれても。それに、そろそろ婚約の挨拶を……アキト様!」

婚約者が何か言ってたけど、知らん顔してその場を離れた。俺を様付けで呼ぶことも、俺を夫と見立てて話すことも、その女の言動すべてが気持ち悪かった。あれと結婚してあれを抱くとか想像するだけで顔をしかめてしまう。絶対に無理。自分で分かる。萎える。匂いというか存在が無理。触れたくもない。だから結婚しても子供は作らないと決めている。彼女と一緒になれないのなら、俺の代で途切れていい。彼女以外の血を残す必要はない。

「アキト様、お待ちください」

こんなにも毛嫌いしているのに、あとを追ってくる。心底気持ち悪くて睨み付けると、やり取りを見ていただろうガイナが俺の肩を抱いてきた。お前の距離感も大概気持ち悪い。

「冷たいねぇ、もう少し優しくしてやれって。なぁ、アンジェリーナちゃん」
「ガイナ様、お久しぶりです」
「おう、久しぶり。んで、何でアキトはそんなにツンケンしてんの」
「うるさい、俺の勝手だろ」
「まさか~、例のあの子でいっぱいなの~?」

見事に図星をついてきたガイナのせいで次の言葉が出てこなかった。だから次の言葉を出したのは、婚約者のアンジェリーナだった。

「例の、あの子?」
「アキトの初恋なんだよなぁ~?」
「余計なことを言うな」
「余計なこと?何で?知ってもらってた方がいいじゃん。そしたらアンジェリーナちゃんも冷めきった夫婦の未来を受け入れるかもよ~」
「どうでもいい」
「ふーん、じゃあ、あの子に教えて」

俺は思わずガイナの腕を振り落とした。

「彼女には何も言うなよ。絶対に、言うな。あれは俺の……」

ニヤリと笑うガイナに、してやられたと気づいても遅い。もう知らんと言ってこの場を離れ、近くの壁に腕を組んでもたれ掛かった。でもイヤなやつのスイッチが入ったガイナは、隣にきてケラケラ笑ってる。

「どんだけゾッコンなんだよ!かっわいいやつめ~」
「うるさい」
「まっ、神様に誘拐されるほどかわいいってベタぼれしてるくれーだもんなぁ」
「その件に関しては本当だと思ってる」
「あー……そういうのをベタぼれって言うんだよ~、気づいてる~?」

それは嫌でも気づいてる。この感情をベタぼれと言わず何と言うのか。もし違うのなら誰か教えてくれ。

「でも、そっかそっか。ようやく勇気を出す気になったか」
「……それは、また……違う話だ」
「……へ?」
「……彼女から誘われたからであって……」
「はあ?彼女の想いを煽るだけ煽って知らん顔するの?それって勝手じゃね?」

それが怖くてリセットしようとしていたくせに。そう言わんばかりのガイナの視線と図星の言葉が痛い。でもガイナの言う通りなんだ。彼女の想いを煽って、また逃げる。それなら最初から近づかなきゃいいのに、それすら出来ないのは、俺が自分勝手過ぎるから。

でも、それでも……彼女を手放したくないと思う、やっぱり自分勝手だ。

「絶対に来てと言われた」
「立派な言い訳はあるんだな」
「……そう、だな」
「でも、そういうのやめろよ。覚悟もないくせに、逃げるだけなら彼女に会うな。まっ、傷つけて泣かせたいのなら話は別だけどさ」
「泣かせたいなど!」

思うわけがない。彼女の涙は見たくない。似合わない。彼女にはいつも笑っていてほしい。……でも、そうか。覚悟も勇気もない俺が会ったところで傷つけるだけか。あのときと同じで、また……

「そのウダウダなヘタレタイムが一生の後悔に変わんなきゃいいけどね。分かってる?時間は有限で、タイムリミットはそこまで近づいてるんだよ」

だから怖くて動けない。絶対に掘られる傷が怖くて、なるべく浅くて済むようにと。彼女の為じゃない。自分の為に。身勝手な自分に反吐が出そう。彼女の命と自分の心を天秤にかけて、いつだって勝つのは、俺の心。でも改めようともしない俺は、きっと最低のヘタレ野郎だ。

「まーね、お前の人生、お前が決めていくしかないんだろうけどさ。でも、だからこそっつーの?彼女に彼氏が出来ても」
「それはない」

まだ話してる途中だったけど、何も考えずに即答した。ガイナからより痛い視線が飛んできたけど、でもそう思ったからしょうがない。

「……何それ、お前以外の男に惚れないと思ってんの?それはちょっとさ」

幻想抱きすぎじゃね?という言葉を残してガイナは去った。言葉にされると滑稽に思えて、でも彼女の命から目をそらし、自分の心を守るその様も滑稽だ。情けない。でも、どうしたら彼女を追い出すことが出来るんだろ。すべて無かったことに出来たら、ここまで自分を追い込まずに済むのに。

「アキト様」

婚約者が隣に立った。ピンッと背筋を伸ばして堂々と立つその姿は、端から見れば美しいのだろう。でも俺から見れば気持ち悪い女だし、そして毎度のことながら気づいてしまう。

「馴れ馴れしくするな」

彼女以外ほしくない、そう思ってしまうのだから、一生彼女を心から追い出せないんだろうなぁと、やっぱり振り出しに戻ってしまう自分の身勝手さを、鼻で嗤った。


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