5 / 8
・アイリスの場合(3)
しおりを挟むナナシくんの為とはいえ、池で過ごす時間が多くなった。池を眺めることも飽きたから、読書をする時間が増えた。難しい本じゃなくて絵本とか児童書だけど、改めて考えさせられることばかりで、こういう時間も大切なんだなと思い始めた。
ナナシくんは、あれから来てない。もしかしたらここに来ていて、私が居るからどこかへ行ってるのかもしれないけど、こればかりはナナシくんに任せるしかない。分かってるけど待つのは苦手だ。
でも男の子に声を掛けられた。「何してんの?」と。いきなりのことでびっくりして不審者扱いして逃げてしまった。申し訳ないと保健室に戻ってようやく冷静になれた。
次の日、また池のそばのベンチに腰掛けてると、不審者扱いしてしまった男の子が無言だけども笑顔で隣に腰掛けてきた。その笑顔の黒さに一瞬で気づいた私はすぐに立ち上がり、深々と頭を下げて謝罪した。
「 昨日は申し訳ありません!」
「んっ、いいよ。許してやる」
かーなーり偉そうな態度が鼻につく男の子だ。しかもどっかで見たことある気も……。でもこれ以上この人に用はないし、知らない人と一緒に居たくないから、持っていた本を手に取り、もう一度頭を下げて保健室へ戻った。
ナナシくんに言った手前、あまり変えたくないけど……あの人も毎日来そうだ。しばらく池に行かない方がいいのかも。何となくだけど、関わらない方がいいって思う。あの底意地悪い黒さは……怖い。まぁ、新しい場所を開拓してればナナシくんと会うかもしれないし!
「先生、ただいま!」
「おう、おかえり」
保健室の先生に挨拶をして、いつも使ってる私専用のベッドに寝転んだ。
「初恋の野郎は来たのか」
「ううん、今日もダメだった」
ちなみに保健室の先生は珍しく男性だ。すんごいイケメンで男女共に人気がある。だけどみんなは知らない。保健室の先生は女子生徒や女性教師を喰いまくるヤリチン最低野郎だということを。おおっ、なんて恐ろしい保健室。本当によかった、先生のタイプじゃなくて。
「もう諦めろよ。時間の無駄だぜ」
「嫌よ。ナナシくんじゃないとダメだって細胞が訴えてるの」
「子宮の間違いだろ」
「うわ、サイテー」
「はっ、ガキが。【女】になりゃセンセーの言ってることが嫌でも分かるぜ。疼かせてやろうか、お前の子宮」
「先生ってさ、確かに見た目はすんごいイケメンだけども、残念だよね、人間性が」
「そういや最近国語のセンセーも言ってたな。俺を捕まえるのは波を捕まえるみたいだって。一生かかっても捕まえることは出来ないからもう要らねーだとさ」
「捕まえれなかったことを先生のせいにしてるように聞こえるんだけど」
「女のプライドってやつだよ。まっ、ガキのお前に言っても分かんねーだろうけどな」
「そんなこと分かりたくもなーい。もっとストレートに言えばいいのに。何の為の言葉なのよ」
「お前はストレート過ぎて萎える」
「先生、今からセックスしようか。私の子宮を疼かせてくれるんでしょう?」
「おっ、いいぞ。保健室のセンセーが保健体育の実習をしてやろう」
「萎えてないじゃん、ノリノリじゃん。そそくさとベルト外してんじゃん。でも、ね?ストレートもいいもんでしょ」
「……謀りやがったな」
「先生ってかわいい所あるよね、サイテーだけど」
「やっぱり誘ってんのか?」
「なぜそうなる」
「もういい加減、やろうぜ」
「なぜそうなる」
保健室の先生は言うだけでやる気はない。ただの言葉遊び。親しい友だちとの会話のようで、それが楽しかったりする。それに病気のことも知ってるから、気が楽だ。何回も嘔吐物を見せたからってのもあるけど、でも仕事とはいえ、倒れる度に嫌な顔せず介抱してくれるからイイ人だ。サイテーだけど。
「そろそろ体温測るぞ」
「ん」
のそのそと起き上がると先生が体温計を差し出した。それを受け取って脇に挟む。その間、先生が手をおでこに当てた。ひんやりして気持ち良かった。
「……高いな。三十八度九分」
「今日も当たるかなぁ」
ピピピと測定終了の音が鳴ったから、脇から取り出す。表示された数字は、三十八度九分。お見事!
「先生の手があれば体温計要らないね!」
「んなことより、お前の体調だろ。しばらく家で養成しろって言ってんだろ」
池で過ごす時間が長くなってから、体調が思わしくない。熱も下がんないし、むしろ日に日に高くなっていく。先生は休めって言ってるけど、休みたくない理由がある。
「休んでる間にナナシくんが来たら嫌だよ。そんで居るって言ったのに居ない私とすれ違いになるの。そんなの一生後悔するよ」
「そんときゃそれまでの運命だったってことだろ。そもそもナナシとお前の運命は始まってもない。嘆く必要もねーな」
「その始まりをあそこで待ってるの!」
「始まる前に死んだらそれこそ終わりだろ。生きてりゃチャンスはあるんだ。今やるべきことをやれ」
「……やだっ」
「んじゃ、ドクターストップならぬセンセーストップな。親御さんに連絡してくるぜ」
「そんなの卑怯!先生なら分かってくれると思ったのに!」
「分かってるつもりだから数日放置してやっただろ。でももう終わり。これ以上はセンセーでも見過ごせねーよ」
「教師らしいことしてないじゃん、このヤリチン野郎!」
「あーはいはいソウデスカ。大人しく寝て待ってろ。いいか?言いつけを守らなかったらお前をレイプして徹底的に調教してやる。これはマジだぜ。破るのなら破られる覚悟でしろよ」
先生はそう言って保健室から出て行った。マジで逃げたいところだけどあの目はマジだったから、悔しいけども大人しく待ってることにした。心底悔しいけどもっ!
せっかく新しい場所を開拓しながらナナシくんを探そうと思ってたのに。数日は絶対に安静だろうから、そうなると土日も挟んじゃうし。来週までお預けか。
「……生きてる、よね」
不安、といえば不安だ。まだ大丈夫だと思うけど、終わりが近いから、不安に押し潰されそう。でも病気は気からだもの。まだ大丈夫と思えば、きっと大丈夫なの!
「よしっ!」
ぐっと背伸びをしたあと、起き上がって窓に近づいた。太陽の光が容赦なく降り注いで、それがあまりにも眩しくてグラリときたけど、すぐ目の前に見えた光景にそれどころじゃなくなった。
「ナナシ、ナナシくんっ!」
保健室のすぐそばを歩いてるナナシくんを見つけて、すぐに声を掛けた。ナナシくんも私に気づいてくれたけど、プイッと顔をそらされて、そのまま行ってしまった。寂しいけど、……会えたことが嬉しくて、ありったけの勇気を出して、もう一度大きい声でナナシくんに言った。
「今週は行けないけど来週待ってるね!絶対に来てね!絶対に!約束だよ!」
ナナシくんは立ち止まってくれた。こちらを振り向くとすごく嫌そうに返事をしてくれた。
「……気が向いたら」
そう言ってスタスタと行ってしまった。私は笑顔でその背中に手を振った。見えなくなるまで、ずっと。
さっきまではすごく嫌だったけど、大切な約束が出来たから今週は大人しくして体調を治そうと思う。だって運命が始まる予感がしたんだもの。こんなものに負けてられないのよ。
「元気になるぞー!」
「やる気に満ちることはトテモ良いことだが、センセーの言いつけは?」
窓の前に立って万歳してる私のすぐ後ろから保健室の先生の声が聞こえた。恐ろしくてフリーズしてしまった。
「大人しく寝て待ってろと言ったのだが、言いつけは?ここで立って何をしてやがる。ん?どうした?」
「……」
「破ったらレイプして徹底的に調教してやると言ったよな?」
「……」
「ああ、来週が楽しみだナァ」
「ひいいいい!!」
先生の脅しのせいで来週の楽しみが半分不安になった。でも、それでもやっぱり何かが始まる予感を感じて、胸がドキドキしてた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
世話焼き幼馴染と離れるのが辛いので自分から離れることにしました
小村辰馬
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢、エリス・カーマインに転生した。
幼馴染であるアーロンの傍にに居続けると、追放エンドを迎えてしまうのに、原作では俺様だった彼の世話焼きな一面を開花させてしまい、居心地の良い彼のそばを離れるのが辛くなってしまう。
ならば彼の代わりに男友達を作ろうと画策するがーー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる