悪役になりたくてなったわけじゃない!

くったん

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・アキトの場合(2)

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過去は無かったことに出来ない。当たり前のことがこんなにも心に突き刺さるってことは、ほんとのほんとに重症だ。このままじゃダメだと思う反面、最近のことを無かったことにしたくなくて、何かもう矛盾だらけの想いに疲れた俺は授業をサボって秘密の穴場に出向いた。

学校から少し離れた裏庭にある池のそばのベンチ。ここは誰も来ないから落ち着ける場所でもある。こうやってベンチに寝れば、そこから見える景色に、すうっと心のゴチャゴチャが洗われる。

泥濘にハマる前に、リセットするべきだ。

幸い、彼女は幼馴染みの俺に気づいてない。告白そのものも無かったことにして、また前と同じように、噂話を聞いて空虚の彼女を育てる。それがいい。そうじゃないと……

「しっ、失礼しまーす!」

目を閉じてゴチャゴチャ考えてると、まぶたに影が出来た。薄目を開けて見れば、彼女が手を広げて立っていた。心臓が飛び出て死ぬかと思った。それはそれで幸せだけども、何だ、一体何をしているんだ。

「紫外線は敵よ」

一人言の意味が分かんなくて怖いんだけど、どういう意味?俺が眩しそうだったから影を作ってくれたってこと?何だよ、それ!優しさかよ!こんな俺なんかの為にお前が紫外線を浴びる必要なんてこれっぽっちもないのに!お前が身を焦がす必要なんてないのに!日焼けしたらどうすんだ!痕になって……痕になれる太陽の光が憎いっ!あいつの身を焼ける太陽に妬ける!ああ、ダメだ、もう重症だ。

しかしそんな俺の煩悩を焼くような言葉が、あいつの唇から次々に降ってきた。

「しかしまぁなんとも、寝顔も美しい人だ。天使のようにあどけなくて、とても愛らしい。頬っぺたプニプニしてそう。まつ毛長い。やだっ、唇がセクシーだわ。捨て猫に変身してくれないかな。そしたら拾って大切に育てるのに。ああでもそうなるとママ役が私になっちゃうから、発展しなさそうな関係になっちゃう。それはイヤよ。私はこの人の恋人になりたいの。手とか繋いだり、キスとか……キスとかっ!」

あああっ、バカ野郎!天使はお前だ!お前が俺の天使で、銀河で一番の存在で、唯一無二の存在で、世界が滅んでもお前のかわいさは永久に不滅で、お前のことはいつだって女として見てきてるし、俺だってキスを、お前とキスをっ!ああああっ、もう!大好きだっ!……少し、冷静になろう、うん。

「……やるか」
「何をする気だよ」

極々冷静を装って起きた。当たり前のように会話するけども、俺の口から出てくる言葉はどれも酷いものばかりで、発してる俺自身が一番戸惑ってた。何で優しく言えないんだろ。何で想ってることの反対のことを言ってしまうんだろ。そんな自身が気持ち悪くて、逃げるようにその場を離れた。でも彼女は、またねと言ってくれた。またここに来ていいと。

バカ野郎!行くに決まってるだろ!むしろ毎日行くわ!と言いたいところだけども、リセットしようとしていた手前、行きづらい。ここでアクションを起こしたら、もう戻れないと分かってる。だからこそ踏みとどまる。彼女と親しくなるということは、それだけ傷が深くなるということ。その恐怖を考えると……足がすくんで動けなかった。

でも見るだけならと、あの池で過ごしている彼女を、遠くから眺めてた。それしか出来なかった。太陽の光に透けた茶色の髪の毛も、真っ白い肌も、うすピンク色の唇も、読書中の横顔も、どれもこれも俺の脳みそにインプットされた。

銀河で一番どころか、女神なんじゃないかと思った。あのかわいさは尋常じゃない。かわいすぎるから神様も連れ去るんじゃないかと真剣に考えたら、彼女の運命にも納得出来た。

彼女に一目ボレした神様が、彼女を妻にしようと、あぶらの乗った一番いい時期である二十歳を狙って、天界へ招くつもりなんだと。そうとしか思えない。銀河をも魅了する彼女だ、神を魅了してもおかしくないが、これはあんまりだ。

「神めっ、何という非道なことをっ」

その話をガイナにしたら、呆気に取られてた。

「アキトってさ、バカだよな」
「……バカって、言った?」
「猛烈なバカになっちまうくらい好きなんだな、あの子のこと」
「……なぁ、猛烈なバカって言った?」
「アキトがそこまで想う子かぁ、ちょっと気になるわ~。ねっ、会って話してみてもいい?」

例え腐れ縁の親友でも近づいてほしくないから、首を横に振った。

「愛する度胸も無いくせに独占欲だけは一丁前だな」

まったくその通りだから何も言えずにいると、ガイナはため息を吐いて言葉を続けた。

「そもそもお前の許可は要らねーし。んじゃ、行ってくる!」
「は?」

どこに?と聞く前に、ガイナはさささっと走り去ってしまった。でも聞かなくても分かる。彼女に会いに行ったんだ。

「あいつっ!」

勢いよく立ち上がると椅子が後ろに倒れた。その音でクラスの注目を浴びたけど、どうでもよかった。今の俺は、彼女のことで頭がいっぱいだ。

女神のような彼女に話しかけるのも、話かけられるのも、俺だけでありたい。彼女の笑みを見るのも、彼女の声を聞けるのも、彼女に触れるのも、俺だけでいい。例えガイナでも許せない。興味本位で彼女に近づく男全般、絶対に許せない。

その一心で、池までの距離を全力で駆けた。

ーーほらな、リセットしようとしても、想いはリセット出来ねーだろ。ダメなのよ、もう。好きだと思ったら、もうダメなのよ。

もう一人の俺がそう言ってる気がした。そうかもしれない。彼女の為にここまで駆けられる。初めて知った、いや、知っていたけど、見て見ぬふりをしていた。傷つくのが怖いから想いに蓋をしていただけ。

ーー開けるべき時が来たんじゃねーの?

「……それは、……っ」

やっぱりそこを思うと、ようやく動き出した足がすくんで止まってしまった。すぐそこに池が見えて、ベンチに腰掛けてる彼女の後ろ姿も見えてる。あと、少し。もう、少し。でもこれ以上は足が動かなかった。

ーー「アキト、さみしいよ」ーー

あのとき、寂しいと泣く彼女を見捨てた俺に、今さら何が出来るんだろう。幼い心に傷を付けた俺に……今さら。

「結局さ、お前は自分がかわいいだけなんだろ」

木の影に隠れて立ち尽くす俺に、木の上に登って隠れてたガイナが声を掛けてきた。俺の想いを試すようなことをしたくせに偉そうなことを言わないでほしい。そう思い無言で睨むと鼻で笑われた。

「あとは勇気だけだ!ってね」

ガイナは俺の肩を叩いて、池に向かって歩き出した。もう止めることはしなかった。そんな勇気は持ってなかった。遠くから見るだけ。今までと変わらない。

ガイナは彼女に声を掛けた。

彼女は……

「いやあああっ!不審者っ!不審者よおおお!」

病気と思わせないような速さでベンチから、いや、声を掛けたガイナから逃げ去った。情けないけども、彼女の予想外の反応に胸を撫で下ろして、すぐにガッツポーズを決めてやった。

「ざまぁ!ガイナ、ざまぁ!」

ーー一番のざまぁは俺だろうに。バカかよ、お前は。

心の奥底から声が聞こえたけど、やっぱり聞こえないふりをした。



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