悪役になりたくてなったわけじゃない!

くったん

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・アイリスの場合(2)

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【とことん自由に生きる】私は、自分で言うのもなんだけど結構有名だ。幼い頃から変人枠に収められてる。つまりどういうことかと言うと、やっぱり友達は出来ないってこと!まっ、親の希望で保健室登校ってことも一つの原因ではあるだろうけど。

保健室で勉強なんてするわけもなく、みんなが真面目に授業を受けているとき、好きなときに好きなだけ散歩をする。先生達も何も言わないし。たまに生徒が散歩中の私を見て「サボり」と騒ぐだけで、基本的に見て見ぬふりの知らん顔をされるから好き勝手やってる。

最近見つけた穴場スポットは、学校裏にある池のそばのベンチだ。学校からちょっと離れるけど、一応学校の敷地内。池の中には魚も泳いでいて、顔を出したときに広がる波紋も、キラキラと反射する水面も、とても美しく心安らげる場所。毎日のように池に来ては、ぼうっとしてる。

今日もぼうっとしてようと来てみたら、大事件が起きた。例の初恋の人が、私のベンチに……いや、私のベンチではないんだけど、私が毎日使っている一番のお気に入りのベンチがあって、そこに寝転んでいるのだ。見間違いかと思って何度も目を擦ったけど、その人はそこにいる。まるで猫のようにベンチの上で丸まって、太陽の光を浴びている。また会えたことが嬉しくて笑顔になれた。

しかしこれはビッグチャンスだ。邪魔者が居ない今、ここで親しくなれたら友達になれる、かも!そんで距離を詰めて恋人に昇格……ぐふふ、これはこれはとんでもない好機が舞い込んできたですぞ。

「しっ、失礼しまーす」

一応小声で断りを入れて、ベンチの前に立った。そして大きく手を広げて、私の影で初恋の人を太陽の光から守った。だって美しい肌が焼けちゃいそうなんだもの。それはダメ。美しいモノは守るべき。それを脅かす紫外線は敵よ。ああ、初恋の人を遠慮なく焦がす紫外線が憎い。妬いちゃう。

しかしまぁなんとも、寝顔も美しい人だ。天使のようにあどけなくて、とても愛らしい。頬っぺたプニプニしてそう。まつ毛長い。やだっ、唇がセクシーだわ。捨て猫に変身してくれないかな。そしたら拾って大切に育てるのに。ああでもそうなるとママ役が私になっちゃうから、発展しなさそうな関係になっちゃう。それはイヤよ。私はこの人の恋人になりたいの。手とか繋いだり、キスとか……キスとかっ!

「……はっ!?」

キョロキョロと首を動かして周囲を確認。誰かがいる気配がない。ここには、初恋の人と私だけ。今なら大丈夫。バレやしない。ほんのちょっと触るだけ。ちょっとだけ。一瞬だけ。そこに唇が落ちてるんだもの、触ってしまうのは当然のことだ。

「……やるか」
「何をする気だよ」

初恋の人がいきなり喋り出したせいで、ここで心臓が止まるかと思った。それはそれで幸せな死因だけども、まだ今の私には早い。やりたいことを叶えるまでは……って、初恋の人が起きてる!?

「えっと、えーっと」

下心に溺れていた手前ものすごく居心地が悪い。誤魔化す為の言い訳を考えてみたけど、ちっとも思い浮かばなくて。でも初恋の人は何かを疑うように、澄んだ空色の瞳で私だけを見つめて(睨んで)いる。言い訳は通じない、そう思った。

「……誰も居ない今なら寝込みを襲えると思いましたっ」

言葉にすると浅はかである。その煩悩に負けた自分が悔しくて顔をしかめた。

「そこにセクシーな唇が落ちてるのなら触れるのが当たり前なんだと思ったの!むしろ触れない方がバカよ!そうよ、そういうことよ!落としてるあなたにも原因があると思うの!」
「いや、どういう理屈だよ。意味分かんねぇ」

初恋の人はダルそうに起き上がると、ベンチにもたれ掛かるように深く腰掛けた。ピンっときた私は、「そーいうことなのっ!」と強く言いながら、ここぞとばかりに初恋の人の隣に座ってみた。チラリと様子を伺うと、特に何の反応もしてなかったから、小さく安堵のため息を吐いた。

よかった、嫌そうにされたらどうしようかと不安だった。でもこれなら少しくらいお話出来るかも!やっぱり好機到来だ!

「ねぇ、名前はなんて言うの?」
「お前に教える義理はない」
「名前くらいで大げさ~」
「名無し」
「ナナシ?珍しい名前だね!でも素敵だよ。教えてくれてありがとう!」
「お前バカだろ」
「うーん、勉強は苦手だね」
「いや、全般的に」
「全般的にバカってどういう意味なの?」
「お前の存在そのもの」
「あっ、それってさ、私の存在を覚えてくれたってこと?わーい、ナナシくんに覚えてもらえた!」
「……そうくるか」
「ふふん、私のポジティブ精神をなめてもらっちゃ困るわ」

得意気にそう言うと、ナナシくんは、呆れたため息を溢して立ち上がった。もう終わる時間が寂しい。次があるかも分かんない。もしかしたら……二度とない、かも。

「私、ここに居るからさ、気が向いたら相手してね」
「俺がする義理はないだろ」
「……でも、……思い出してくれたときでいいの。バカが居たなって。暇人を救うボランティアだと思って、ね!」
「マジできもい」
「ナナシくん、またね!」

ナナシくんは何も言わずに立ち去った。押し付けがましい言い方だと思うし、今日初めて話した人(しかも寝込みを襲おうとした)に言われても気持ち悪いだけってのも百も承知。でも私にはこれしか……

「うっ」

ぐるりと世界が回って見えた。気持ち悪くて吐きそうで口を押さえながらベンチに寝そべった。目を閉じてもぐるんぐるんと回ってる。太陽の光に当てられ過ぎたのか、負の感情に当てられたのか、どっちか分かんないけど、今日言えることはただ一つ。

「ウソの名前でも、嬉しいや」

初恋の人を呼べる名前を教えてもらえたことが、何よりも嬉しかった。



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