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わたしとアイツと報告ノート
1話
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誰にもバレることなく、いつも通りの距離感で正月を過ごし、二人きりの時間ができれば恋人のように過ごした。
二月に入れば入試があり、三月になれば合格発表。二月はじめの今、入試を目前に控えた追い込み時期だ。入試さえ終われば勉強から解放される。勇樹ともっとイチャイチャ出来る。
もちろん入試の日は、お疲れさまパーティーでもしてあげようと思って休みを取った。勇樹もそれを楽しみに頑張ってるみたいだ。
その日のデートの予定を立てるために、仕事場で〇〇ウォーカーをチェック。今日も暇なようで、お客さんは誰も居ない。
最近お客さん来ないな。
他人事のように雑誌を読んでたら、マスターに雑誌を取り上げられた。
「暇だな」
「最近特にヤバいですね」
「俺なりにプランを考えた」
「何のプランですか」
「この店のあり方について」
この店は知る人ぞ知る名店だ。マスターが有名ってのもあるけど、お店の雰囲気とマスターの空気が妙にマッチしている。
隠れ家と言えばそれっぽいが、木を基調とした昔ながらのレトロなバーで、簡単に言うなら古くさい。オールバックの髪型に黒を基調とした制服のマスターも古くさい。
それもそれでイイ味が出てて私は好きなんだけど……。
「プランその一、店を改装」
「それ一番の悪手ですよ。ぶっコケるだけなんでやめてください」
「プランその二、俺を改装」
「今さらオールバック以外にされても反応に困るので却下。己のトレードマークは大切にしてください」
「プランその三、新メニュー追加」
「その場で作るオリジナルカクテルがうちの売りです。常に新メニューみたいなもんなので却下。つーか新メニューができてもコンテスト用に取っておきたいです」
「プランその四、ワインの種類を増やす」
「それいいですね。常連客もワインの種類があるといいのにって言ってますし、客層も小金持ちが多いし、ヴィンテージ物とか置くのもいいかも。お店とマスターにも合うと思いますよ」
「じゃあ、ワインにしよう」
「決まったのならもういいでしょ。雑誌、返してください」
「はい」
マスターが差し出したのは二冊の本だった。右手には〇〇ウォーカーで、左手には『はじめてのワイン』と書かれた分厚い本。迷わず右手を選んだけど、掴む寸前に左手にあった分厚い本が私の手に触れた。
ちょっとそういうのはいらないから、右手にある雑誌を掴み引っ張った。マスターは手を離そうとしなかった。
「咲希が落とした本はこっちだ」
「いいえ、違います。私が取られた雑誌は〇〇ウォーカーです」
「ワインの勉強したいだろ?」
「嫌です無理です。カクテルで精一杯なんです。マスターが勉強して下さい」
「俺も店の経営で精一杯なんだ」
「プランを変えた方がいいんじゃないですか」
「あり金全部ヴィンテージワインに投資してあとに引けない」
「何してんの!?」
まさかの暴露話に便乗して、ワインの本を押し付けられた。思わず手に取ったのも仕方のないことだ。
ヴィンテージワインと言えば高額ワイン。それを買い漁ったとなると……これ以上は想像すらしたくない。素人の分際でヴィンテージワインに手を出すとは……。
最初からプラン四にするつもりで話を振ってきた。しかもソムリエ担当って。お酒を提供する身として気になってた分野だけども、どう考えても無理だ。
「給料上げる」
「無理です。常連客の方がよっぽど詳しいんですよ。時間も自信もありませんし、中途半端に学びたくありません」
「咲希ならそう言うと思って用意しといた」
マスターは一枚のチケットを差し出した。幼い頃から行きたかった国が英語で記載されていた。イタリアだ。
「意味が分かりません」
「知り合いがソムリエをやっている。その店で修行してこい」
「……イタリアで!?」
「その間も給料は振り込む。光熱費は無料、住むところも用意した。専用のガイドも付ける。至れり尽くせりの豪華イタリア修行に不満な点は?」
「……期間は?」
「一カ月」
「ちなみに拒否権は……」
「すべて手配済だ。ソムリエのマーチンが咲希のことを首を長くして待つ待ってるぞ。なんせアイツは美人にめっぽう弱い」
「……行ってきます」
そもそも拒否権すらない私はイタリア修行を泣く泣く受け入れるしかなく、この日は常連客とイタリアの話で盛り上がった。
勇樹にも言ったけど、「修行!? なにそれめちゃくちゃかっけーじゃん! 負けてらんねぇ、俺も頑張るぜ!」と。
「一カ月も会えないんだよ。入試の前日も、終わったあとも、合格発表の日も、私はここに居ないんだよ」
「でも、……空は繋がってるぜ」
きっと勇樹は勉強のやり過ぎで疲れてるのだと思う。だったら同じ空の下、勇樹を見習って私も勉強を頑張ろうと思い、すぐにパスポートを申請した。
必要な物の買い出し、英会話の復習。現地で住む家の情報、修行場である店の情報などを調べ、着実に準備を進めていた。
その間も勇樹が何か言ってくるわけでもなく、いつも通りの日常のまま出発日を迎えた。
「行ってくるね」
部屋の扉を少し開けて、学校に行く準備をしてる勇樹に声をかける。
「うっす、頑張れよ」
いつも通りの返事で拍子抜け……というかすごく寂しい。もっと抱き合ったりとか、キスとかあってもいいのに。
でも、それだけ受験でいっぱいいっぱいなんだって思ったら、押すに押せず。
「……受験、頑張ってね」
「おう、頑張る」
かーなーり寂しいけど、ぐっと堪えて、そそくさと国際空港を目指した。
だから知らない。
「はあ!? イタリアに修行!?」
「咲希ちゃん何度も言ってたじゃないの」
「その辺のイタリア料理店かと思ってた……、だから家から通うもんだと……」
「修行とはいえ、イタリアで暮らせるなんて羨ましいわ。咲希ちゃん美人だから向こうでもモテモテでしょうね」
「ふあ!? モ、モテモテ!?」
「イケメン外国人さんに盗られちゃうんじゃない? まっ、それも仕方ないわよね。行ってらっしゃいのキスもしてくれない彼氏なんだもの」
「咲希が浮気するはず……バレてる?」
「バレバレよ。お父さん、孫を抱けるって喜んでたわ。でもせめて高校を卒業するまで避妊はしなさい」
「……うっす」
勇樹が勘違いしてたことも、ママとパパに関係がバレてたことも、何も知らないまま、一人むなしく旅立った。
二月に入れば入試があり、三月になれば合格発表。二月はじめの今、入試を目前に控えた追い込み時期だ。入試さえ終われば勉強から解放される。勇樹ともっとイチャイチャ出来る。
もちろん入試の日は、お疲れさまパーティーでもしてあげようと思って休みを取った。勇樹もそれを楽しみに頑張ってるみたいだ。
その日のデートの予定を立てるために、仕事場で〇〇ウォーカーをチェック。今日も暇なようで、お客さんは誰も居ない。
最近お客さん来ないな。
他人事のように雑誌を読んでたら、マスターに雑誌を取り上げられた。
「暇だな」
「最近特にヤバいですね」
「俺なりにプランを考えた」
「何のプランですか」
「この店のあり方について」
この店は知る人ぞ知る名店だ。マスターが有名ってのもあるけど、お店の雰囲気とマスターの空気が妙にマッチしている。
隠れ家と言えばそれっぽいが、木を基調とした昔ながらのレトロなバーで、簡単に言うなら古くさい。オールバックの髪型に黒を基調とした制服のマスターも古くさい。
それもそれでイイ味が出てて私は好きなんだけど……。
「プランその一、店を改装」
「それ一番の悪手ですよ。ぶっコケるだけなんでやめてください」
「プランその二、俺を改装」
「今さらオールバック以外にされても反応に困るので却下。己のトレードマークは大切にしてください」
「プランその三、新メニュー追加」
「その場で作るオリジナルカクテルがうちの売りです。常に新メニューみたいなもんなので却下。つーか新メニューができてもコンテスト用に取っておきたいです」
「プランその四、ワインの種類を増やす」
「それいいですね。常連客もワインの種類があるといいのにって言ってますし、客層も小金持ちが多いし、ヴィンテージ物とか置くのもいいかも。お店とマスターにも合うと思いますよ」
「じゃあ、ワインにしよう」
「決まったのならもういいでしょ。雑誌、返してください」
「はい」
マスターが差し出したのは二冊の本だった。右手には〇〇ウォーカーで、左手には『はじめてのワイン』と書かれた分厚い本。迷わず右手を選んだけど、掴む寸前に左手にあった分厚い本が私の手に触れた。
ちょっとそういうのはいらないから、右手にある雑誌を掴み引っ張った。マスターは手を離そうとしなかった。
「咲希が落とした本はこっちだ」
「いいえ、違います。私が取られた雑誌は〇〇ウォーカーです」
「ワインの勉強したいだろ?」
「嫌です無理です。カクテルで精一杯なんです。マスターが勉強して下さい」
「俺も店の経営で精一杯なんだ」
「プランを変えた方がいいんじゃないですか」
「あり金全部ヴィンテージワインに投資してあとに引けない」
「何してんの!?」
まさかの暴露話に便乗して、ワインの本を押し付けられた。思わず手に取ったのも仕方のないことだ。
ヴィンテージワインと言えば高額ワイン。それを買い漁ったとなると……これ以上は想像すらしたくない。素人の分際でヴィンテージワインに手を出すとは……。
最初からプラン四にするつもりで話を振ってきた。しかもソムリエ担当って。お酒を提供する身として気になってた分野だけども、どう考えても無理だ。
「給料上げる」
「無理です。常連客の方がよっぽど詳しいんですよ。時間も自信もありませんし、中途半端に学びたくありません」
「咲希ならそう言うと思って用意しといた」
マスターは一枚のチケットを差し出した。幼い頃から行きたかった国が英語で記載されていた。イタリアだ。
「意味が分かりません」
「知り合いがソムリエをやっている。その店で修行してこい」
「……イタリアで!?」
「その間も給料は振り込む。光熱費は無料、住むところも用意した。専用のガイドも付ける。至れり尽くせりの豪華イタリア修行に不満な点は?」
「……期間は?」
「一カ月」
「ちなみに拒否権は……」
「すべて手配済だ。ソムリエのマーチンが咲希のことを首を長くして待つ待ってるぞ。なんせアイツは美人にめっぽう弱い」
「……行ってきます」
そもそも拒否権すらない私はイタリア修行を泣く泣く受け入れるしかなく、この日は常連客とイタリアの話で盛り上がった。
勇樹にも言ったけど、「修行!? なにそれめちゃくちゃかっけーじゃん! 負けてらんねぇ、俺も頑張るぜ!」と。
「一カ月も会えないんだよ。入試の前日も、終わったあとも、合格発表の日も、私はここに居ないんだよ」
「でも、……空は繋がってるぜ」
きっと勇樹は勉強のやり過ぎで疲れてるのだと思う。だったら同じ空の下、勇樹を見習って私も勉強を頑張ろうと思い、すぐにパスポートを申請した。
必要な物の買い出し、英会話の復習。現地で住む家の情報、修行場である店の情報などを調べ、着実に準備を進めていた。
その間も勇樹が何か言ってくるわけでもなく、いつも通りの日常のまま出発日を迎えた。
「行ってくるね」
部屋の扉を少し開けて、学校に行く準備をしてる勇樹に声をかける。
「うっす、頑張れよ」
いつも通りの返事で拍子抜け……というかすごく寂しい。もっと抱き合ったりとか、キスとかあってもいいのに。
でも、それだけ受験でいっぱいいっぱいなんだって思ったら、押すに押せず。
「……受験、頑張ってね」
「おう、頑張る」
かーなーり寂しいけど、ぐっと堪えて、そそくさと国際空港を目指した。
だから知らない。
「はあ!? イタリアに修行!?」
「咲希ちゃん何度も言ってたじゃないの」
「その辺のイタリア料理店かと思ってた……、だから家から通うもんだと……」
「修行とはいえ、イタリアで暮らせるなんて羨ましいわ。咲希ちゃん美人だから向こうでもモテモテでしょうね」
「ふあ!? モ、モテモテ!?」
「イケメン外国人さんに盗られちゃうんじゃない? まっ、それも仕方ないわよね。行ってらっしゃいのキスもしてくれない彼氏なんだもの」
「咲希が浮気するはず……バレてる?」
「バレバレよ。お父さん、孫を抱けるって喜んでたわ。でもせめて高校を卒業するまで避妊はしなさい」
「……うっす」
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