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わたしとアイツと報告ノート
2話
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ぼくの主な仕事はフリーのガイドだ。ガイドというのは建前で、知り合いの社長の紹介で仕事をもらっている、ただの便利屋さん。
社長はとても素晴らしい人だ。社長が言ったことはそうなるし、アドバイスしてくれたことに従っていれば間違いは起きない。社長のおかげで不動産事業も成功しているし、株も投資も大成功。不労所得のおかげでガイドの仕事が出来ていると言っても過言じゃない。
社長から信頼を得ていると自負している。社長のためならどんな仕事だって成し遂げるし、社長のためにぼくは存在している。社長あってのぼくなのだ。
今日は社長から仕事が届いた。【ワイン研修のため日本からやって来た女性の生活のサポート】というものだ。
生活のサポート、つまり家政婦の仕事。大手企業でもそんな好待遇はない。個人の依頼だというからさらに驚いた。
資料を確認すると、やっぱりお嬢様育ちの女性だった。何かあったらいけないからガイドを付ける親は居る。でも主に女性を雇うものだ。
しかも研修が終わるまで一緒に暮らすよう依頼されている。同じ部屋で暮らすって法律上ダメだと思うんだけど……でも、だからこそ便利屋のぼくを雇ったのかも。
こんなぼくに【生活のサポート】が出来るのだろうか?社長からの紹介の仕事だから頑張るけど。個人情報といっても写真はなかったし、女性と暮らすの初めてだし、いろいろと不安だ。
「えっと、……この部屋か」
今日から住むホテルの一室に着いた。この部屋に【お嬢様】がいる。半分ドキドキ、半分ヒヤヒヤの気持ちで扉を開けた。
十二畳ほどの広さの部屋に、お気持ち程度のキッチンとソファーとテレビがある。思ってたよりも狭くはない。
ふわっと風がぼくの頬を撫でた。部屋にある出窓が開けられていて、そこから外を眺めている女性の姿。風で靡く髪の毛は艶々して美しい。
突っ立っているぼくに気づいた女性は、ゆっくりと振り向いた。そしてぼくに言った。
「はじめまして」
奪われたと思った。たった一瞬で、ぼくのすべてを。そしてぼくは全身に電流が走ったような感覚を覚えた。それはきっと俗に言うトキメキというやつだ。ぼくには分かる。だってこんなにも、ぼくの中で幸せな何かが生まれていく。
「お返事してくれないの?」
女性はぼくのそばに近づいた。甘い匂いがして頭がおかしくなりそうだった。でも嫌いじゃない。もっと嗅ぎたくなる。もっとそばで、たくさん。
「もしもーし?」
「へは!? はじっ、はじめまして! ぼくはマイクです! あなたの生活のサポートを任されました!」
目の前で手をかざされて、ようやく理性が戻ってきた。ぼくは慌てて挨拶をした。慌てるぼくがおかしいのか、女性は笑った。恥ずかしかった。
「はじめまして、私は咲希よ。これからよろしくね」
日本の挨拶らしく手を差し出してきた。ぼくなんかが触れていいものか分からないけど、こういう時じゃないとこの人に触れないと思い、その手を握った。自然と頭を下げていた。
「こちっ、こちらこそ!」
彼女の手は温かくて柔らかかった。まだ離すのが惜しいほどに、もっと触れていたかった。
「じゃあ早速だけど、お腹空いたからご飯を用意してくれる?」
「へ?」
「せっかくイタリアに来たんだもの。本場のイタリア料理が食べたいわ」
「えっ、でも」
今日の予定は【近辺の案内と研修先への挨拶】だ。それが終われば生活用品の買い出し……なんだけど。
予定外のことにチラチラと彼女を見ていたら、彼女は不思議そうにソファーに腰掛けた。
「マイク、どうしたの?」
名前を呼ばれただけで、ぼくの心臓は飛び上がった。彼女の喜ぶことなら何でもしてあげたくて、ウンウンと何度も何度もバカみたいに頷きながらポケットからケータイを取り出した。
「お、おすっ、おすすめのレストランがあるので予約します!」
「じゃあ、今からとお食事デートね」
「デエエエエエットオオオッ!!」
予想外の単語に絶叫してしまった。子供みたいな自分が恥ずかしくなって、ゴホンッと、今のを誤魔化すための咳をした。でも彼女はクスクス笑ってて、何かもう幸せ過ぎてぼくはパンクしそうだ。
「マイクってかわいいのね」
「かわいいって言わないで!」
「かわいいじゃない。マイクが担当で本当に良かった。こう見えて怖かったのよ。外国で暮らすの初めてだし、頼れる人は誰も居ないの。でも……マイクがいるからもう安心ね」
彼女は悲しそうにほほ笑んだ。そうだ彼女はたった一人でイタリアに来たんだ。知り合いの居ないこの地に、たった一人で。
ぼくが悪いわけじゃないけど、とても悪いことをしてるみたいで、凄く嫌な気持ちになった。
「ごめん」
「何であなたが謝るの?」
「……何か、……何となく」
「優しいのね」
研修のためとはいえ、こんなにも美しく優しいい女性が異国の地で一人ぼっち。守らなければ。誰でもない、ぼくが、彼女を守ってあげなくては!
「あっ、あの!」
ぼくはどこぞのナイト気取りで、彼女の前に片膝を着いた。彼女はじっとぼくを見ていた。目と目が合う。それだけなのにすべてを捧げたいと思った。
「ぼくが守りますから! 絶対に! 死んでもあなたを守ってみせます!」
産まれてこのかた一度も言ったことない言葉を、軽はずみとかじゃなく本心を、ついさっき会ったばかりの人に言っている。
彼女は驚いてた。でもすぐに笑顔になってくれた。そしてぼくの頬を撫でながら返事をしてくれた。
「ありがとう、マイク。嬉しいわ。とても情熱的ね。好きよ、そういう男の人」
カアアッと頬から全身に火が回ったように熱い!熱くて熱くてクラクラした。
「ねぇ、マイク。あなたは私を守ると言ったわよね。神に誓うの?」
「はい、誓います!」
「誓いのやり方って知ってる?」
「えっ? や、やり方……」
「足の甲にキスするの」
「ほへ?」
彼女はぼくの唇を指で撫で始めた。ただえさえクラクラしてるのに、もっとクラクラして、何かおかしくなりそうだった。
「あなたが本当に誓ってくれるというのなら、キスして。そうしたらあなたを信じるわ」
「……キス、……足の甲に」
足の甲にキス、それは隷属を表す。あなたに服従するという意思の表れ。
彼女に触れるのなら何だって出来る自信がある。舐めろって言われれば舐めるし、何だって出来る。だからウンウンと何度も頷いて返事をしたら、ズキンと頭にヒビが入った。酷く痛む。
たまにあるこの症状は病気じゃない。実は社長は魔法使いで、こうしてテレパシーという魔法でぼくと交信を取っている。誰にも秘密だ。それに、会話はすべて頭の中で行われるから、誰の前でもバレたりしない。
「も、もしもし!」
空気読めよって内心思ったけど、社長からの連絡は何よりも第一優先。だから彼女との会話を切って、頭の中に意識を集中させた。
「マイクか」
「社長、どうしたんですか!? 何かありましたか!?」
「いや、なんと言うか、……その女と距離を取れ」
「距離を? 1メートルくらいですか?」
「そうではなくてだな、心の距離というか、感情というか。ついさっき会ったばかりでその流れはおかしいと言うか」
「言っている意味が分かりません」
「ええい! ゴチャゴチャうるさいぞ! その女にキスすることは許さん! そんなことをしてみろ、私はお前を許さない!」
「なっ!?」
ぼくは思わず部屋を見渡した。ポカンとしてる彼女も気がかりりだが、それどころじゃない。社長はここに居ないはず。それなのに彼女との会話が筒抜け状態。ってことは……また魔法か。しまった。社長なら普通に仕掛けるってことをド忘れしていた。
でも社長が部下の恋愛事情にまで口を挟んでくるとは思わなかった。そういうのは知らぬ存ぜぬで居てくれそうなのに。むしろ部下の恋愛に興味無さそう。
でも確かに、ついさっき会った女性にあんなこと言うんだもの。止めてしまう気持ちも分かる。社長ってば意外と心配性だ。そういう所も尊敬しています。
「大丈夫ですよ。ぼくは本気ですから」
「違う! そうではなくて!」
「そうではなくて?」
「足にキスをしろなどと普通は言わない! その女、人としておかしいだろうが!」
「えー、そうですか? 全然ありですよ。ぼくは何でも出来ますけどね」
「それはお前の都合だろう!」
「そうですよ。ぼくの恋愛です。ぼくの都合で動きます。誰の足にキスしようがぼくの勝手なんです。社長は関係ないです」
「うああああ! やめろ! 私のSとしての威厳がああああ!!」
「いきなり何なんですか! 今日の社長少しおかしいですよ!」
「キスはダメだ! 絶対にダメだ! それをしたら解雇してやる! これは命令なんだよ、わかったか!」
「ああっ、もう! 分かりましたよ! しません! 我慢します!」
「おおっ、よくわかってくれた。さすが私の腹心だ。この私が唯一心許せるのは、お前だけだよ」
「ったく、調子がいいんだから」
いつものようにぼくを誉めたあと電話を切った。一段と変だったけど、社長の命令なら仕方ない。改めて彼女と向き合って頭を下げた。
「ごめんなさい。足の甲にキスはダメです」
「あー……えっと、……何が?」
「社長からの命令は絶対なので。これ以上は言えません」
「んー……そっか、何となくわかったわ」
「でも、本心ですから! あなたを守る気持ちに偽りはありません! ついさっき出会ったばかりで言っても説得力ないんですけど。……すみません」
改めて頭を下げたら、彼女の手が目の前にきた。顔を上げると、穏やかにほほ笑む彼女と目が合った。やっぱりクラクラした。
「じゃあ、手の甲は? それもダメなのかしら?」
「えっ、えっ!? ど、どうだろう!?」
慌てるぼくを見て彼女は笑った。そしてイタズラっぽく言った。
「試してみる?」
試さない選択肢なんてあるわけない。ぼくは差し出されている彼女の手を取り、ゆっくりとそれに近づけた。
「私、素直な男も大好きよ」
ああ、そうだ、堕ちた、今、ぼくは、間違いなく彼女に堕ちた。
底無し沼のような愛に、ハマったんだ。
社長はとても素晴らしい人だ。社長が言ったことはそうなるし、アドバイスしてくれたことに従っていれば間違いは起きない。社長のおかげで不動産事業も成功しているし、株も投資も大成功。不労所得のおかげでガイドの仕事が出来ていると言っても過言じゃない。
社長から信頼を得ていると自負している。社長のためならどんな仕事だって成し遂げるし、社長のためにぼくは存在している。社長あってのぼくなのだ。
今日は社長から仕事が届いた。【ワイン研修のため日本からやって来た女性の生活のサポート】というものだ。
生活のサポート、つまり家政婦の仕事。大手企業でもそんな好待遇はない。個人の依頼だというからさらに驚いた。
資料を確認すると、やっぱりお嬢様育ちの女性だった。何かあったらいけないからガイドを付ける親は居る。でも主に女性を雇うものだ。
しかも研修が終わるまで一緒に暮らすよう依頼されている。同じ部屋で暮らすって法律上ダメだと思うんだけど……でも、だからこそ便利屋のぼくを雇ったのかも。
こんなぼくに【生活のサポート】が出来るのだろうか?社長からの紹介の仕事だから頑張るけど。個人情報といっても写真はなかったし、女性と暮らすの初めてだし、いろいろと不安だ。
「えっと、……この部屋か」
今日から住むホテルの一室に着いた。この部屋に【お嬢様】がいる。半分ドキドキ、半分ヒヤヒヤの気持ちで扉を開けた。
十二畳ほどの広さの部屋に、お気持ち程度のキッチンとソファーとテレビがある。思ってたよりも狭くはない。
ふわっと風がぼくの頬を撫でた。部屋にある出窓が開けられていて、そこから外を眺めている女性の姿。風で靡く髪の毛は艶々して美しい。
突っ立っているぼくに気づいた女性は、ゆっくりと振り向いた。そしてぼくに言った。
「はじめまして」
奪われたと思った。たった一瞬で、ぼくのすべてを。そしてぼくは全身に電流が走ったような感覚を覚えた。それはきっと俗に言うトキメキというやつだ。ぼくには分かる。だってこんなにも、ぼくの中で幸せな何かが生まれていく。
「お返事してくれないの?」
女性はぼくのそばに近づいた。甘い匂いがして頭がおかしくなりそうだった。でも嫌いじゃない。もっと嗅ぎたくなる。もっとそばで、たくさん。
「もしもーし?」
「へは!? はじっ、はじめまして! ぼくはマイクです! あなたの生活のサポートを任されました!」
目の前で手をかざされて、ようやく理性が戻ってきた。ぼくは慌てて挨拶をした。慌てるぼくがおかしいのか、女性は笑った。恥ずかしかった。
「はじめまして、私は咲希よ。これからよろしくね」
日本の挨拶らしく手を差し出してきた。ぼくなんかが触れていいものか分からないけど、こういう時じゃないとこの人に触れないと思い、その手を握った。自然と頭を下げていた。
「こちっ、こちらこそ!」
彼女の手は温かくて柔らかかった。まだ離すのが惜しいほどに、もっと触れていたかった。
「じゃあ早速だけど、お腹空いたからご飯を用意してくれる?」
「へ?」
「せっかくイタリアに来たんだもの。本場のイタリア料理が食べたいわ」
「えっ、でも」
今日の予定は【近辺の案内と研修先への挨拶】だ。それが終われば生活用品の買い出し……なんだけど。
予定外のことにチラチラと彼女を見ていたら、彼女は不思議そうにソファーに腰掛けた。
「マイク、どうしたの?」
名前を呼ばれただけで、ぼくの心臓は飛び上がった。彼女の喜ぶことなら何でもしてあげたくて、ウンウンと何度も何度もバカみたいに頷きながらポケットからケータイを取り出した。
「お、おすっ、おすすめのレストランがあるので予約します!」
「じゃあ、今からとお食事デートね」
「デエエエエエットオオオッ!!」
予想外の単語に絶叫してしまった。子供みたいな自分が恥ずかしくなって、ゴホンッと、今のを誤魔化すための咳をした。でも彼女はクスクス笑ってて、何かもう幸せ過ぎてぼくはパンクしそうだ。
「マイクってかわいいのね」
「かわいいって言わないで!」
「かわいいじゃない。マイクが担当で本当に良かった。こう見えて怖かったのよ。外国で暮らすの初めてだし、頼れる人は誰も居ないの。でも……マイクがいるからもう安心ね」
彼女は悲しそうにほほ笑んだ。そうだ彼女はたった一人でイタリアに来たんだ。知り合いの居ないこの地に、たった一人で。
ぼくが悪いわけじゃないけど、とても悪いことをしてるみたいで、凄く嫌な気持ちになった。
「ごめん」
「何であなたが謝るの?」
「……何か、……何となく」
「優しいのね」
研修のためとはいえ、こんなにも美しく優しいい女性が異国の地で一人ぼっち。守らなければ。誰でもない、ぼくが、彼女を守ってあげなくては!
「あっ、あの!」
ぼくはどこぞのナイト気取りで、彼女の前に片膝を着いた。彼女はじっとぼくを見ていた。目と目が合う。それだけなのにすべてを捧げたいと思った。
「ぼくが守りますから! 絶対に! 死んでもあなたを守ってみせます!」
産まれてこのかた一度も言ったことない言葉を、軽はずみとかじゃなく本心を、ついさっき会ったばかりの人に言っている。
彼女は驚いてた。でもすぐに笑顔になってくれた。そしてぼくの頬を撫でながら返事をしてくれた。
「ありがとう、マイク。嬉しいわ。とても情熱的ね。好きよ、そういう男の人」
カアアッと頬から全身に火が回ったように熱い!熱くて熱くてクラクラした。
「ねぇ、マイク。あなたは私を守ると言ったわよね。神に誓うの?」
「はい、誓います!」
「誓いのやり方って知ってる?」
「えっ? や、やり方……」
「足の甲にキスするの」
「ほへ?」
彼女はぼくの唇を指で撫で始めた。ただえさえクラクラしてるのに、もっとクラクラして、何かおかしくなりそうだった。
「あなたが本当に誓ってくれるというのなら、キスして。そうしたらあなたを信じるわ」
「……キス、……足の甲に」
足の甲にキス、それは隷属を表す。あなたに服従するという意思の表れ。
彼女に触れるのなら何だって出来る自信がある。舐めろって言われれば舐めるし、何だって出来る。だからウンウンと何度も頷いて返事をしたら、ズキンと頭にヒビが入った。酷く痛む。
たまにあるこの症状は病気じゃない。実は社長は魔法使いで、こうしてテレパシーという魔法でぼくと交信を取っている。誰にも秘密だ。それに、会話はすべて頭の中で行われるから、誰の前でもバレたりしない。
「も、もしもし!」
空気読めよって内心思ったけど、社長からの連絡は何よりも第一優先。だから彼女との会話を切って、頭の中に意識を集中させた。
「マイクか」
「社長、どうしたんですか!? 何かありましたか!?」
「いや、なんと言うか、……その女と距離を取れ」
「距離を? 1メートルくらいですか?」
「そうではなくてだな、心の距離というか、感情というか。ついさっき会ったばかりでその流れはおかしいと言うか」
「言っている意味が分かりません」
「ええい! ゴチャゴチャうるさいぞ! その女にキスすることは許さん! そんなことをしてみろ、私はお前を許さない!」
「なっ!?」
ぼくは思わず部屋を見渡した。ポカンとしてる彼女も気がかりりだが、それどころじゃない。社長はここに居ないはず。それなのに彼女との会話が筒抜け状態。ってことは……また魔法か。しまった。社長なら普通に仕掛けるってことをド忘れしていた。
でも社長が部下の恋愛事情にまで口を挟んでくるとは思わなかった。そういうのは知らぬ存ぜぬで居てくれそうなのに。むしろ部下の恋愛に興味無さそう。
でも確かに、ついさっき会った女性にあんなこと言うんだもの。止めてしまう気持ちも分かる。社長ってば意外と心配性だ。そういう所も尊敬しています。
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「違う! そうではなくて!」
「そうではなくて?」
「足にキスをしろなどと普通は言わない! その女、人としておかしいだろうが!」
「えー、そうですか? 全然ありですよ。ぼくは何でも出来ますけどね」
「それはお前の都合だろう!」
「そうですよ。ぼくの恋愛です。ぼくの都合で動きます。誰の足にキスしようがぼくの勝手なんです。社長は関係ないです」
「うああああ! やめろ! 私のSとしての威厳がああああ!!」
「いきなり何なんですか! 今日の社長少しおかしいですよ!」
「キスはダメだ! 絶対にダメだ! それをしたら解雇してやる! これは命令なんだよ、わかったか!」
「ああっ、もう! 分かりましたよ! しません! 我慢します!」
「おおっ、よくわかってくれた。さすが私の腹心だ。この私が唯一心許せるのは、お前だけだよ」
「ったく、調子がいいんだから」
いつものようにぼくを誉めたあと電話を切った。一段と変だったけど、社長の命令なら仕方ない。改めて彼女と向き合って頭を下げた。
「ごめんなさい。足の甲にキスはダメです」
「あー……えっと、……何が?」
「社長からの命令は絶対なので。これ以上は言えません」
「んー……そっか、何となくわかったわ」
「でも、本心ですから! あなたを守る気持ちに偽りはありません! ついさっき出会ったばかりで言っても説得力ないんですけど。……すみません」
改めて頭を下げたら、彼女の手が目の前にきた。顔を上げると、穏やかにほほ笑む彼女と目が合った。やっぱりクラクラした。
「じゃあ、手の甲は? それもダメなのかしら?」
「えっ、えっ!? ど、どうだろう!?」
慌てるぼくを見て彼女は笑った。そしてイタズラっぽく言った。
「試してみる?」
試さない選択肢なんてあるわけない。ぼくは差し出されている彼女の手を取り、ゆっくりとそれに近づけた。
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ああ、そうだ、堕ちた、今、ぼくは、間違いなく彼女に堕ちた。
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