【R18】わたしとアイツと腐った純愛

くったん

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わたしとアイツと過去のアイツ

 1話

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 藤森家で過ごすこと、約三年。高校の入学式が終わり、新しい学校生活が始まった。
 楽しい高校生活を堪能するぞと言いたいところだけども、学費、生活費のためにバイトに明け暮れる高校生活になりそうだ。
 中学生から始めた新聞配達のバイトと、学校が終われば喫茶店のバイト。それだけじゃ稼げないから週三でコンビニのバイトを掛け持ち。
 成績を落とすと、両親(主に父親)に、「ほれ見たことか」と言われそうだから、せめて平均よりもちょい上をキープするため、昼と夜は勉学に勤しむ。……オールニばっかりで結果はついてこないけど。

 私は友だちが一人も居ない。
 女子に話しかけても返事がないし、舌打ちや悪口は当たり前。男子に声をかければ当然のように群がるけど、勘違いした男が告白してくるからめんどくさい。それを見た女子が、「男好きのビッチ」と悪評を広めて、結果的に孤立。小学生からこんな学校生活を送っている。
 高校でもその風潮は当たり前で、入学式の次の日にはクラスで浮いてた。ぼっち確定。今さら上辺だけの友だちなんていらないし、朝も夜もバイトで忙しいから、煩わしい関係がなくて良かったと思う。
 でも、お弁当を食べるときが寂しい。仲良しグループで机を引っ付けていて、その中に一人で居るのは、普段一人で居ることを気にしなくても、寂しいと感じる時間だ。「一人でお弁当とか食べたくないよね」とか「一人ぼっちの学生生活とか絶対に送りたくないんだけど」とか、いちいちな事を言わないと気が済まない性格ブス達が原因なんだけども。
 誰かの文句を言って評価を落として、自分を良く見せようと必死になって、毎日暇そうでいいわね。そういう暇があるなら顔と性格を矯正しなさい。人の文句を言う顔もひどいブスよ。妖怪人間みたいで恐ろしいわ。って何度も言いかけているけど、私は美人でとても優しく美しい性格の持ち主だから言わないであげている。
 藤森家の一人息子の勇樹に「そういう性格だから難癖つけられる」と注意された事もあるけど、見た目も性格も美人なんだから仕方ない。
 学生生活は代わり映えしないけども、バイト関係は好調だ。嫌がらせもないし、仕事はきちんとやるし、プライベートまで干渉しないタイプの人達ばかりで大助かり。
 藤森家の雰囲気も良い感じで、居候の身として肩身が狭いと思うようなこともなく、家族として溶け込んでる……と思う。

 学生生活以外は好調の今日は、珍しく夕方のバイトが休みだ。一カ月後にある中間テストのための復習をする予定で、学校が終わって足早に帰宅した。
 藤森家は二階建ての4LDKで、一階にLDKとお風呂と洗面所と和室があり、二階にパパとママの寝室と勇樹の部屋と私の部屋、三つの洋室がある。
 一階の和室は玄関を入ってすぐの所にあって空き部屋なんだけど、今日は珍しくふすまが開いていた。
「ただいま」
 靴を脱いで和室の中を覗くと、知らない男性がママと話していた。ママは私に気づくなり、笑顔で男性を紹介した。
「咲希ちゃん、おかえりなさい。こちらはパパの知り合いで、西条透さん。しばらくうちに居候することになったの」
 西条透さんに目をやると、外面の良さそうな笑顔で手を差し出してきた。
「藤森さんから話は聞いてるよ。今日からよろしく」
 当たり障りのない笑顔は挨拶の基本だ。私もそれを浮かべて手を伸ばす。
「こちらこそよろしくお願いします」
 西条透の手はひどく冷たかった。急いで帰ってきたせいで汗をかくほど暑かったってのもあるけど、私の手との違いにびっくりして、もう片方の手をその手に重ねて握りしめた。
「ママ、この人……すっごい冷え性! これは要改善だよ!」
「あら、冷え性はいけないわねぇ。しばらく代謝に良いメニューに変えましょうか」
「あーん、もう! 冷た過ぎてかわいそう!」
 ここまで冷え性な人は初めてだ。触れてるだけじゃ温まらないから、ぎゅうぎゅうとハンドマッサージ。
「えっと、……何」
「ダメ!」
 手を引っ込めようとするのを制して、冷たい手を揉みほぐす。いくらかマシになってきたけど、でも全然ダメ。これは本格的に要改善だ。
「手の先が冷たいと体も心も冷えっ冷えになるのよ」
「そう……なの?」
「あったかいほうがほっとするでしょ? 冬の缶コーヒーがいい例だよ。あったかいと体も心もポカポカするじゃん」
「そう……かも?」
「まっ、あとは飲み物でも飲んであったかくしてね」
 ハンドマッサージをするの疲れてきたから適当に誤魔化して部屋を出ると、タイミングよく玄関の扉が開いた。
「ただい、あっ! 咲希だ!」
 勇樹のご帰宅だ。私を見るなり急いで靴を脱いで腕を取ってきた。
「バイトは!?」
「休みよ」
「マジかよ! 遊ぼう遊ぼう!」
「いいわよ」
「やったー! 何して遊ぶ!?」
「おままごと」
 飛んで喜んでた勇樹が一瞬にして顔を引つらせた。
「あんたは私の犬ね。ご褒美が欲しいのなら上手に『わん』と鳴きなさい」
「……母さん! 咲希が悪魔化したああ!?」
 ドタバタと和室に駆け込み、知らない人が居ると知ると、またすぐに私の元に戻って後ろに隠れた。
「勇樹、挨拶しなきゃダメじゃないの」
「……誰? 咲希の彼氏?」
「違うわよ」
「……ほんと? ウソじゃない?」
 勇樹がすっごい疑いの目で見てくる。お姉さまをとられたと思って、一丁前にヤキモチを妬いてるんだろう。
「ウソじゃないわよ。ほら、きちんとご挨拶をしなさい」
「……わかった」
 まだ彼氏だと疑ってるらしく、渋々ながらも和室に戻って挨拶をした。それはもうムスッと不服全開なご様子で、「どうも」の一言だけ。これは間違いなくママのお説教コースだ。現に笑顔の仮面の下に般若が見え隠れしているもの。
 でも、ママや私が勇樹を叱る前に、西条透は勇樹の目線の高さに合せて膝を曲げ、当たり障りのない笑顔で挨拶を始めた。
「今日から居候させていただくことになった、西条透だよ。お姉さんの彼氏じゃないから安心してね」
「……どうせ咲希に惚れる男の一人だろ」
「あはは! ないない! それはない! 僕って我の強い女性って苦手でさぁ」
 ああ?と思わず出そうな声を我慢。腕を組んで黙って聞いてあげた。
「ほんと!? 咲希のこと苦手!?」
「うん。これっぽっちも興味ないから」
 どうやらこの西条透という男は、徹底的に私に嫌われたいらしい。それがお望みとあらば是非ともそうしてあげよう。ハンドマッサージしてやったのに、嫌なやつだ。
「じゃ、私は部屋に戻るわ」
「あっ、待って! 俺も!」
「返事は『わん』以外認めないわよ」
「わん!」
「あら、お利口な犬ね。男はそのくらいがちょうどいいわ」
「わん!」
 鳴きながら後ろをついてくる勇樹に癒やされた。男よ、我に従順であれ。まだ子どものくせによく私の好みを熟知してる。是非ともそのまま育ってほしい。
「咲希は今日何すんの?」
「勉強」
「つまんねえ! 遊ぼうぜ!」
「私の成績が落ちて将来就職出来ずにダメ人間になったら勇樹のせいね。責任取ってもらうわよ」
「おう! 俺が養ってやるから安心してダメ人間になってくれ!」
「はいはい、期待してるわね」
「へへ、咲希ぃ!」
 何が嬉しいのかサッパリだけど、私の部屋に入るなりベッドにダイブした。子どものやりそうな事だし、知らん顔して勉強机に向かう。椅子に座って鞄から教科書を取り出してたら、勇樹が足に抱きついてきた。いつものかまってちゃん発動だ。
「なーに」
 教科書を開いたりと、手を動かしながら勇樹に声をかける。
「べっつにぃ」
「かまってほしいんじゃないの?」
「んー、でも、咲希の邪魔したくねーし」
 いつもなら駄々っ子に早変わりなのに、今日はいつもよりも大人しい。珍しい勇樹の行動に手を止めて、足に抱きついてる勇樹の頭をポンポンっと撫でた。
「いつの間にお利口さんに待てが出来るようになったの?」
「俺だって日々成長してんの。身長だってすぐに追い抜くんだからな」
「大人の男に憧れたの? 西条透、だっけ。外面だけはカッコイイものね」
「ち、違うし!」
「まっ、私をコケにしてくれた事は絶対に忘れないけども」
「……一緒に暮らすんだからそーいうのやめようぜ……」
「先に吹っ掛けたのは西条透よ。私は悪くないわ」
「咲希の悪いところってさ、自分の悪いところを省みないことだよな」
「本当に悪いと思ったのなら省みるわよ」
「悪いところを悪いと思ってないところが悪いって言ってんの。どうせまた高校でも友だちも出来てねーんだろ?」
 子どものくせにいちいちうるさい勇樹にため息を一つ。それ以上言うとヤバいと察したらしく、スマホを取り出してゲームを始めた。私も大人しく勉強を開始。でも、西条透が頭にチラついて集中出来ない。
 とても手が冷たくて、当たり障りのない笑顔がうまくて、よく知らないくせに私のことをこれっぽっちも興味ないと言った人。
「……興味がないか、……初めて言われたな」
「んー、何が?」
「なんでもない」
 興味がないのは私も同じ。
 でも、手の冷たさが肌にこびりついて、何かよく分かんないけど、ほんの少しだけ……また触れてみたいと思ってしまった。


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