【R18】わたしとアイツと腐った純愛

くったん

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わたしとアイツと過去のアイツ

 3話

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 約束したわけじゃないけど、日曜の夜は西条透と過ごすようになった。といっても、私がくつろいでると西条透が勝手に来るって感じだけども。
 いろいろな身の上話もした。
 勇樹から聞いてた通り、両親は幼い頃に亡くなり、親戚にたらい回しされていたそうだ。嫌がらせもされたようで、結果的に引き取り手が居なくなり施設に引き取られた。煩わしい人間関係は苦手など、楽しくない話を淡々と話す西条透はやっぱり取って貼っつけたような笑顔を浮かべていた。
 きっとそれが彼の処世術なんだろう。大人なんだもの、仕方ないと思うけど、私はそれが何だか寂しく思えた。
 また素の笑顔が見たい。もっと笑って過ごしてほしい。私の前ではお利口にしないで、もっと本物の西条透をさらけ出してほしい。
 好きになってたんだ。いつの間にか。
 あの時よりも少しずつ距離が縮まったソファーの上、もっと近づきたいともどかしい想いが心を騒がせる。
 チャーミングな唇から発せられる音の全てに私の心臓がリズムを刻む。
 操られてるんじゃないかって疑うほど、西条透に心臓を鷲掴みにされていた。
 それも悪くないと思うんだもの、恋は心を簡単におかしくさせる。
「透さんの仕事ってなに?」
 今日も縮まらないソファーの上、西条透に褒めてもらうため、丁寧に淹れた紅茶を飲みながら情報収集。まだまだ知らないことがたくさんある。もっと知りたい。
「俺の仕事? 藤森さんと同じ会社だよ」
「上司の家に居候してんの?」
「んー、部署は違うんだけどね。顔見知りになって、それからの付き合い。まぁ、……藤森さんにいろいろ相談したらうちに来いって言われてさぁ」
「いろいろ相談? 悩みでもあるの?」
「まぁ、……あるっちゃある」
 踏み込んでいいものか迷うけど、ここで引いたらソファーの上の距離が縮まらないとも思う。だから言葉にせず、伺うように西条透に視線をやった。
「咲希ちゃんになら言ってもいいかな」
 その一言がどれほど嬉しいか分かりもしない西条透は話を続けた。
「転職っつーか、幼い頃からの夢があるんだよね。それを追いかけたいと思うんだけど……」
「パパがダメって言うの?」
「今の仕事を続けながらでも出来るんだから、無理して困難な道に行くことはないって」
 パパの会社は誰でも知ってる有名な企業だ。そこに就職出来たのなら安定安心一直線だろう。それを捨ててでも叶えたい夢、か。
「夢って?」
「……笑わない?」
「失礼ね。私は人の夢を笑うような人間じゃないわよ」
「そう、だよね」
「何なの」
「あんまり大きな声で言えないんだけど」
 西条透が手招きしたから首を傾げながら近づくと、内緒話をするように私の片耳に手を置いた。コンマで顔が熱くなる。それに連動して心臓が暴れ出す。
 早く言ってくれ、そうじゃないと心臓が破裂する!
 でもその願い虚しく、西条透はトドメを刺してきた。
「ふっ」
「ひゃい!?」
 息を吹きかけられて慌てて飛び退く。そして耳を押さえた。
「あははは! ひゃい、だって!」
「あ、あんたねえ! 悪ふざけが過ぎるわよ!」
 バカにして笑う西条透にソファーにあるクッションを投げつける。それでもお腹を抱えて笑い続けるから、それならそれでいいやって思ったり。西条透にとことん甘いのかも。
「それで、夢ってなんなのよ」
「んー、画家」
「がか? がかって……絵を描く画家?」
「うん。そう」
「……画家」
 西条透が絵を描く。いまいちピンッとこなくて反応に困ってると、自室から一冊のスケッチブックを持って来てくれた。
「見ていいの?」
「下手だけどね」
 手渡されたそれを開くと、目を奪われてしまうほど繊細に描かれたおばあちゃんがそこにいた。
 会ったこともないのに、伝わる。それほどまでに表現されている。
「とても優しい人なのね。笑顔がとても素敵だわ」
「うん、優しかったよ。施設に来てたボランティアのおばあちゃんなんだ」
 次のページも、その次のページも、西条透が描いた人間や動物かそこにいた。
 赤ちゃんにお乳を飲ませているお母さん。子どもの毛づくろいをするライオン。赤ちゃんを抱っこしたおじいちゃん。
 どの絵も愛で溢れている。
 それがこんなにも伝わる。
 芸術に関心がないからあまり分からないけど、感嘆を吐くほどの愛が作品に収められている。
 描いた人間の心が見て取れるほどに。
「美しいわ」
「へ!?」
「え? 何?」
「いや、すごいとか言われるけど、美しいって感想は初めてだったからさ」
「むしろ陳腐な感想で申し訳ないわ」
「いやいや、そんなことないよ。ありがとう」
「絵は描いた人間を表すって言うけど本当ね。やっぱりあなたは誰よりも素敵よ。この絵を見て改めて……うん、好き、あなたが大好き。とっっても愛おしく思う」
 繊細でそれでいて力強さを感じる線をそっと撫でる。
 初めて好きになったのが西条透で良かったと思わせるほど、この人に惚れてしまった。
「……ふぁっ!?」
 今度は西条透が驚きの声を出した。絵から目を離して西条透を見ると、耳まで真っ赤にしていた。
「……ふぁっ!?」
 とんでもないことを言ってしまったことにようやく気づいた私も驚きの声を出した。
「あ、あああ、いい、いいい今のは、そ、そそそういうことじゃ」
 すぐに誤魔化そうとすると西条透が私の手首を掴んできた。
「そういうことじゃ、……ない?」
 聞いてくる顔こそ真剣そのもの。だけど耳まで赤く染まってる。手だって少し震えてる。
 緊張してる。
 私と同じ。
 同じであってほしい。
 好きだって、想い。
「……ほんと、って言ったら?」
 逃げ道を作ったいやらしい質問。西条透は応えてくれた。
「好きだよ」
 返事はしてない。
 でも、想いは同じ。
「きみが好きだ」
 西条透の腕の中に押し込まれ、言葉が紡げないほどキスをした。

 本能的に求め合うキスを、ただひたすらに。



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