41 / 68
わたしとアイツと過去のアイツ
3話
しおりを挟む
約束したわけじゃないけど、日曜の夜は西条透と過ごすようになった。といっても、私がくつろいでると西条透が勝手に来るって感じだけども。
いろいろな身の上話もした。
勇樹から聞いてた通り、両親は幼い頃に亡くなり、親戚にたらい回しされていたそうだ。嫌がらせもされたようで、結果的に引き取り手が居なくなり施設に引き取られた。煩わしい人間関係は苦手など、楽しくない話を淡々と話す西条透はやっぱり取って貼っつけたような笑顔を浮かべていた。
きっとそれが彼の処世術なんだろう。大人なんだもの、仕方ないと思うけど、私はそれが何だか寂しく思えた。
また素の笑顔が見たい。もっと笑って過ごしてほしい。私の前ではお利口にしないで、もっと本物の西条透をさらけ出してほしい。
好きになってたんだ。いつの間にか。
あの時よりも少しずつ距離が縮まったソファーの上、もっと近づきたいともどかしい想いが心を騒がせる。
チャーミングな唇から発せられる音の全てに私の心臓がリズムを刻む。
操られてるんじゃないかって疑うほど、西条透に心臓を鷲掴みにされていた。
それも悪くないと思うんだもの、恋は心を簡単におかしくさせる。
「透さんの仕事ってなに?」
今日も縮まらないソファーの上、西条透に褒めてもらうため、丁寧に淹れた紅茶を飲みながら情報収集。まだまだ知らないことがたくさんある。もっと知りたい。
「俺の仕事? 藤森さんと同じ会社だよ」
「上司の家に居候してんの?」
「んー、部署は違うんだけどね。顔見知りになって、それからの付き合い。まぁ、……藤森さんにいろいろ相談したらうちに来いって言われてさぁ」
「いろいろ相談? 悩みでもあるの?」
「まぁ、……あるっちゃある」
踏み込んでいいものか迷うけど、ここで引いたらソファーの上の距離が縮まらないとも思う。だから言葉にせず、伺うように西条透に視線をやった。
「咲希ちゃんになら言ってもいいかな」
その一言がどれほど嬉しいか分かりもしない西条透は話を続けた。
「転職っつーか、幼い頃からの夢があるんだよね。それを追いかけたいと思うんだけど……」
「パパがダメって言うの?」
「今の仕事を続けながらでも出来るんだから、無理して困難な道に行くことはないって」
パパの会社は誰でも知ってる有名な企業だ。そこに就職出来たのなら安定安心一直線だろう。それを捨ててでも叶えたい夢、か。
「夢って?」
「……笑わない?」
「失礼ね。私は人の夢を笑うような人間じゃないわよ」
「そう、だよね」
「何なの」
「あんまり大きな声で言えないんだけど」
西条透が手招きしたから首を傾げながら近づくと、内緒話をするように私の片耳に手を置いた。コンマで顔が熱くなる。それに連動して心臓が暴れ出す。
早く言ってくれ、そうじゃないと心臓が破裂する!
でもその願い虚しく、西条透はトドメを刺してきた。
「ふっ」
「ひゃい!?」
息を吹きかけられて慌てて飛び退く。そして耳を押さえた。
「あははは! ひゃい、だって!」
「あ、あんたねえ! 悪ふざけが過ぎるわよ!」
バカにして笑う西条透にソファーにあるクッションを投げつける。それでもお腹を抱えて笑い続けるから、それならそれでいいやって思ったり。西条透にとことん甘いのかも。
「それで、夢ってなんなのよ」
「んー、画家」
「がか? がかって……絵を描く画家?」
「うん。そう」
「……画家」
西条透が絵を描く。いまいちピンッとこなくて反応に困ってると、自室から一冊のスケッチブックを持って来てくれた。
「見ていいの?」
「下手だけどね」
手渡されたそれを開くと、目を奪われてしまうほど繊細に描かれたおばあちゃんがそこにいた。
会ったこともないのに、伝わる。それほどまでに表現されている。
「とても優しい人なのね。笑顔がとても素敵だわ」
「うん、優しかったよ。施設に来てたボランティアのおばあちゃんなんだ」
次のページも、その次のページも、西条透が描いた人間や動物かそこにいた。
赤ちゃんにお乳を飲ませているお母さん。子どもの毛づくろいをするライオン。赤ちゃんを抱っこしたおじいちゃん。
どの絵も愛で溢れている。
それがこんなにも伝わる。
芸術に関心がないからあまり分からないけど、感嘆を吐くほどの愛が作品に収められている。
描いた人間の心が見て取れるほどに。
「美しいわ」
「へ!?」
「え? 何?」
「いや、すごいとか言われるけど、美しいって感想は初めてだったからさ」
「むしろ陳腐な感想で申し訳ないわ」
「いやいや、そんなことないよ。ありがとう」
「絵は描いた人間を表すって言うけど本当ね。やっぱりあなたは誰よりも素敵よ。この絵を見て改めて……うん、好き、あなたが大好き。とっっても愛おしく思う」
繊細でそれでいて力強さを感じる線をそっと撫でる。
初めて好きになったのが西条透で良かったと思わせるほど、この人に惚れてしまった。
「……ふぁっ!?」
今度は西条透が驚きの声を出した。絵から目を離して西条透を見ると、耳まで真っ赤にしていた。
「……ふぁっ!?」
とんでもないことを言ってしまったことにようやく気づいた私も驚きの声を出した。
「あ、あああ、いい、いいい今のは、そ、そそそういうことじゃ」
すぐに誤魔化そうとすると西条透が私の手首を掴んできた。
「そういうことじゃ、……ない?」
聞いてくる顔こそ真剣そのもの。だけど耳まで赤く染まってる。手だって少し震えてる。
緊張してる。
私と同じ。
同じであってほしい。
好きだって、想い。
「……ほんと、って言ったら?」
逃げ道を作ったいやらしい質問。西条透は応えてくれた。
「好きだよ」
返事はしてない。
でも、想いは同じ。
「きみが好きだ」
西条透の腕の中に押し込まれ、言葉が紡げないほどキスをした。
本能的に求め合うキスを、ただひたすらに。
いろいろな身の上話もした。
勇樹から聞いてた通り、両親は幼い頃に亡くなり、親戚にたらい回しされていたそうだ。嫌がらせもされたようで、結果的に引き取り手が居なくなり施設に引き取られた。煩わしい人間関係は苦手など、楽しくない話を淡々と話す西条透はやっぱり取って貼っつけたような笑顔を浮かべていた。
きっとそれが彼の処世術なんだろう。大人なんだもの、仕方ないと思うけど、私はそれが何だか寂しく思えた。
また素の笑顔が見たい。もっと笑って過ごしてほしい。私の前ではお利口にしないで、もっと本物の西条透をさらけ出してほしい。
好きになってたんだ。いつの間にか。
あの時よりも少しずつ距離が縮まったソファーの上、もっと近づきたいともどかしい想いが心を騒がせる。
チャーミングな唇から発せられる音の全てに私の心臓がリズムを刻む。
操られてるんじゃないかって疑うほど、西条透に心臓を鷲掴みにされていた。
それも悪くないと思うんだもの、恋は心を簡単におかしくさせる。
「透さんの仕事ってなに?」
今日も縮まらないソファーの上、西条透に褒めてもらうため、丁寧に淹れた紅茶を飲みながら情報収集。まだまだ知らないことがたくさんある。もっと知りたい。
「俺の仕事? 藤森さんと同じ会社だよ」
「上司の家に居候してんの?」
「んー、部署は違うんだけどね。顔見知りになって、それからの付き合い。まぁ、……藤森さんにいろいろ相談したらうちに来いって言われてさぁ」
「いろいろ相談? 悩みでもあるの?」
「まぁ、……あるっちゃある」
踏み込んでいいものか迷うけど、ここで引いたらソファーの上の距離が縮まらないとも思う。だから言葉にせず、伺うように西条透に視線をやった。
「咲希ちゃんになら言ってもいいかな」
その一言がどれほど嬉しいか分かりもしない西条透は話を続けた。
「転職っつーか、幼い頃からの夢があるんだよね。それを追いかけたいと思うんだけど……」
「パパがダメって言うの?」
「今の仕事を続けながらでも出来るんだから、無理して困難な道に行くことはないって」
パパの会社は誰でも知ってる有名な企業だ。そこに就職出来たのなら安定安心一直線だろう。それを捨ててでも叶えたい夢、か。
「夢って?」
「……笑わない?」
「失礼ね。私は人の夢を笑うような人間じゃないわよ」
「そう、だよね」
「何なの」
「あんまり大きな声で言えないんだけど」
西条透が手招きしたから首を傾げながら近づくと、内緒話をするように私の片耳に手を置いた。コンマで顔が熱くなる。それに連動して心臓が暴れ出す。
早く言ってくれ、そうじゃないと心臓が破裂する!
でもその願い虚しく、西条透はトドメを刺してきた。
「ふっ」
「ひゃい!?」
息を吹きかけられて慌てて飛び退く。そして耳を押さえた。
「あははは! ひゃい、だって!」
「あ、あんたねえ! 悪ふざけが過ぎるわよ!」
バカにして笑う西条透にソファーにあるクッションを投げつける。それでもお腹を抱えて笑い続けるから、それならそれでいいやって思ったり。西条透にとことん甘いのかも。
「それで、夢ってなんなのよ」
「んー、画家」
「がか? がかって……絵を描く画家?」
「うん。そう」
「……画家」
西条透が絵を描く。いまいちピンッとこなくて反応に困ってると、自室から一冊のスケッチブックを持って来てくれた。
「見ていいの?」
「下手だけどね」
手渡されたそれを開くと、目を奪われてしまうほど繊細に描かれたおばあちゃんがそこにいた。
会ったこともないのに、伝わる。それほどまでに表現されている。
「とても優しい人なのね。笑顔がとても素敵だわ」
「うん、優しかったよ。施設に来てたボランティアのおばあちゃんなんだ」
次のページも、その次のページも、西条透が描いた人間や動物かそこにいた。
赤ちゃんにお乳を飲ませているお母さん。子どもの毛づくろいをするライオン。赤ちゃんを抱っこしたおじいちゃん。
どの絵も愛で溢れている。
それがこんなにも伝わる。
芸術に関心がないからあまり分からないけど、感嘆を吐くほどの愛が作品に収められている。
描いた人間の心が見て取れるほどに。
「美しいわ」
「へ!?」
「え? 何?」
「いや、すごいとか言われるけど、美しいって感想は初めてだったからさ」
「むしろ陳腐な感想で申し訳ないわ」
「いやいや、そんなことないよ。ありがとう」
「絵は描いた人間を表すって言うけど本当ね。やっぱりあなたは誰よりも素敵よ。この絵を見て改めて……うん、好き、あなたが大好き。とっっても愛おしく思う」
繊細でそれでいて力強さを感じる線をそっと撫でる。
初めて好きになったのが西条透で良かったと思わせるほど、この人に惚れてしまった。
「……ふぁっ!?」
今度は西条透が驚きの声を出した。絵から目を離して西条透を見ると、耳まで真っ赤にしていた。
「……ふぁっ!?」
とんでもないことを言ってしまったことにようやく気づいた私も驚きの声を出した。
「あ、あああ、いい、いいい今のは、そ、そそそういうことじゃ」
すぐに誤魔化そうとすると西条透が私の手首を掴んできた。
「そういうことじゃ、……ない?」
聞いてくる顔こそ真剣そのもの。だけど耳まで赤く染まってる。手だって少し震えてる。
緊張してる。
私と同じ。
同じであってほしい。
好きだって、想い。
「……ほんと、って言ったら?」
逃げ道を作ったいやらしい質問。西条透は応えてくれた。
「好きだよ」
返事はしてない。
でも、想いは同じ。
「きみが好きだ」
西条透の腕の中に押し込まれ、言葉が紡げないほどキスをした。
本能的に求め合うキスを、ただひたすらに。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
メイウッド家の双子の姉妹
柴咲もも
恋愛
シャノンは双子の姉ヴァイオレットと共にこの春社交界にデビューした。美しい姉と違って地味で目立たないシャノンは結婚するつもりなどなかった。それなのに、ある夜、訪れた夜会で見知らぬ男にキスされてしまって…?
※19世紀英国風の世界が舞台のヒストリカル風ロマンス小説(のつもり)です。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
結婚式に代理出席したら花嫁になっちゃいました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
美希は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、結婚式の友人の代理出席をする予定で式場にいたのに!?
本編は完結してますが、色々描き足りなかったので、第2章も書いています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる