11 / 55
1章 長い長いプロローグ(後編)
好きというもの
しおりを挟む
それは突然だった。
「ガッコー?」
「学校だよ」
「ガッコウ」
ランディはガッコウというものに行かなければならないと報告を受けた。
「長期休暇以外は帰ってこない」
「……帰ってこない?」
「寮制だからな」
「いつから?」
「今朝早くに出発した。お猫様は寂しいだろうが、これはランディのためであって仕方のないことなんだよ」
ランディのためなら仕方がないけど、何だか置いて行かれた気分のようで、とっっっても嫌な気分だ。一緒にいるって、また星空を見るって約束したのに。でもランディが嘘をつくはずがない。
まさか……この前の留守番の件、ジョージは怒ってるんじゃ……、だからランディを追い出した、とか?あれから二人とも微妙な空気だったし……。
「ジョージが追い出したの?」
「……その必要があった」
「ジョージのバカ!ジョージなんてだいっきらい!!」
「か、かかか覚悟はしていたが、こ、こ、これほどまでとは……あ、ああ、あああああああ!」
それからジョージとは口を聞いてない。心のモヤモヤが晴れないんだもの、しょうがないじゃないか。
「今日はお猫様の好きなハンバーグだよ、チーズたっぷりだよ」
好きなご飯でご機嫌を取ってこようとも。
「お猫様の新しいお洋服だよ。これなんて特にかわいいだろ。白のワンピースは天使のようなお猫様に絶対に似合う……あああああああ!!似合うっ!」
かわいいお洋服を与えられても。
「お猫様のお部屋を模様替えしようか。ニンジャ屋敷に憧れてるんだろう?」
「ニンジャにゃ!?ニンニンできるかにゃ!?」
「ネコ語ッ!久しぶりに聞いた声がッ、ネコ語ッ!あああああああ!!」
例え好きなモノを買い与えられても、絶対に許さないって思ってたのにっ!
時の流れとは無情だ。
一週間、一か月、一年と、時が経てば経つほど怒りが風化した。
ランディがいないことに慣れてしまった。
ガッコウが休みのときは帰ってくるとジョージは言ってたのに、ランディは一度も帰ってこなかった。それもあってジョージとの戦いが長く続いたんだけども、私が怒ってもランディが帰ってくるわけもなく、ジョージとの微妙な空気の中、一日一日が無情に過ぎていくだけ。
夏がきて秋になる、寒い冬を越えて春が訪れる。
季節が過ぎるたびにランディのいない日常に慣れていく。
誕生日も一人で星空を見る。
寂しいけど、私にはどうすることも出来ない。
会いたいと願っても、流れ星は叶えてくれなかった。
「ジョージ、シーツ洗うからさっさと起きて!」
気づけばもう三度目の初夏。一年前にジョージと仲直りをした。ランディを思い出すのをやめた。寂しくなるだけで、明るくなれないから。
「やだよぉ、まだ眠いよぉ」
最近メンドクセーオヤジと化してるジョージをベッドから蹴落とし、シーツを剥ぎ取る。するとジョージは私の手からシーツを取り上げ、それで私を包んだ。
「悪い子にはお仕置きだ!」
「悪いのはいつまでたっても起きないジョージでしょ!」
「たまには寝坊もいいもんだろ!」
「ぎゃーっ!」
そのままベッドに倒れた。それでもぎゅうぎゅうに抱き付いてくるジョージと笑いあった。
「このまま二度寝するか」
「えー」
「今日はお休みにしよう」
「えー」
ほんとに二度寝する気らしく、ジョージは黙り込んでしまった。
「もう、仕方ないなぁ」
ぐるりと寝返りをうってジョージに背中を向ける。それでも引っ付いてくるジョージにため息を一つ。
初夏の眩しい光が窓から入る。その向こうには真っ青な空と、白く薄い月。掴めるはずもないのに、手を伸ばしてそれを掴んでみた。
「ねぇ、ジョージ。どうして明るいのに月が出ているの?」
「……」
「どうして空は青いの?」
「……」
「どうして雲はふわふわなの?」
「……」
「どうして……」
ランディは帰ってこないの?
その答えを聞くのが怖くて口を閉じた。
「大丈夫だよ」
伸ばした手に重なる大きな手。包み込むそれにやっぱりひどく安心して、寂しいことを考えるのをやめて目を閉じた。
「……ランディ」
その日の夢は、ランディとひまわり畑で遊ぶ夢だった。
かくれんぼをしていた。
高く伸びるたくさんのひまわりを掻き分けてランディを探す。自分を呼ぶ声は聞こえるのに、探せど探せど見つからない。
寂しくて、悲しくて、腹が立って、おっきな声でランディを呼んだ。
「ランディ!」
びゅうっと風が吹いた。
大切なものを盗まれた気がして、その風を追いかけた。
真っ青な空に浮かぶ白く薄い月と同じ、掴めるはずもないのに、一生懸命に手を伸ばす。
掴めないから伸ばす。
掴みたいから伸ばす。
ああ、そうだ、誤魔化せるはずなかったんだ。
私はこんなにも……
「……ランディ」
好きを知ってしまっていたんだ。
「ガッコー?」
「学校だよ」
「ガッコウ」
ランディはガッコウというものに行かなければならないと報告を受けた。
「長期休暇以外は帰ってこない」
「……帰ってこない?」
「寮制だからな」
「いつから?」
「今朝早くに出発した。お猫様は寂しいだろうが、これはランディのためであって仕方のないことなんだよ」
ランディのためなら仕方がないけど、何だか置いて行かれた気分のようで、とっっっても嫌な気分だ。一緒にいるって、また星空を見るって約束したのに。でもランディが嘘をつくはずがない。
まさか……この前の留守番の件、ジョージは怒ってるんじゃ……、だからランディを追い出した、とか?あれから二人とも微妙な空気だったし……。
「ジョージが追い出したの?」
「……その必要があった」
「ジョージのバカ!ジョージなんてだいっきらい!!」
「か、かかか覚悟はしていたが、こ、こ、これほどまでとは……あ、ああ、あああああああ!」
それからジョージとは口を聞いてない。心のモヤモヤが晴れないんだもの、しょうがないじゃないか。
「今日はお猫様の好きなハンバーグだよ、チーズたっぷりだよ」
好きなご飯でご機嫌を取ってこようとも。
「お猫様の新しいお洋服だよ。これなんて特にかわいいだろ。白のワンピースは天使のようなお猫様に絶対に似合う……あああああああ!!似合うっ!」
かわいいお洋服を与えられても。
「お猫様のお部屋を模様替えしようか。ニンジャ屋敷に憧れてるんだろう?」
「ニンジャにゃ!?ニンニンできるかにゃ!?」
「ネコ語ッ!久しぶりに聞いた声がッ、ネコ語ッ!あああああああ!!」
例え好きなモノを買い与えられても、絶対に許さないって思ってたのにっ!
時の流れとは無情だ。
一週間、一か月、一年と、時が経てば経つほど怒りが風化した。
ランディがいないことに慣れてしまった。
ガッコウが休みのときは帰ってくるとジョージは言ってたのに、ランディは一度も帰ってこなかった。それもあってジョージとの戦いが長く続いたんだけども、私が怒ってもランディが帰ってくるわけもなく、ジョージとの微妙な空気の中、一日一日が無情に過ぎていくだけ。
夏がきて秋になる、寒い冬を越えて春が訪れる。
季節が過ぎるたびにランディのいない日常に慣れていく。
誕生日も一人で星空を見る。
寂しいけど、私にはどうすることも出来ない。
会いたいと願っても、流れ星は叶えてくれなかった。
「ジョージ、シーツ洗うからさっさと起きて!」
気づけばもう三度目の初夏。一年前にジョージと仲直りをした。ランディを思い出すのをやめた。寂しくなるだけで、明るくなれないから。
「やだよぉ、まだ眠いよぉ」
最近メンドクセーオヤジと化してるジョージをベッドから蹴落とし、シーツを剥ぎ取る。するとジョージは私の手からシーツを取り上げ、それで私を包んだ。
「悪い子にはお仕置きだ!」
「悪いのはいつまでたっても起きないジョージでしょ!」
「たまには寝坊もいいもんだろ!」
「ぎゃーっ!」
そのままベッドに倒れた。それでもぎゅうぎゅうに抱き付いてくるジョージと笑いあった。
「このまま二度寝するか」
「えー」
「今日はお休みにしよう」
「えー」
ほんとに二度寝する気らしく、ジョージは黙り込んでしまった。
「もう、仕方ないなぁ」
ぐるりと寝返りをうってジョージに背中を向ける。それでも引っ付いてくるジョージにため息を一つ。
初夏の眩しい光が窓から入る。その向こうには真っ青な空と、白く薄い月。掴めるはずもないのに、手を伸ばしてそれを掴んでみた。
「ねぇ、ジョージ。どうして明るいのに月が出ているの?」
「……」
「どうして空は青いの?」
「……」
「どうして雲はふわふわなの?」
「……」
「どうして……」
ランディは帰ってこないの?
その答えを聞くのが怖くて口を閉じた。
「大丈夫だよ」
伸ばした手に重なる大きな手。包み込むそれにやっぱりひどく安心して、寂しいことを考えるのをやめて目を閉じた。
「……ランディ」
その日の夢は、ランディとひまわり畑で遊ぶ夢だった。
かくれんぼをしていた。
高く伸びるたくさんのひまわりを掻き分けてランディを探す。自分を呼ぶ声は聞こえるのに、探せど探せど見つからない。
寂しくて、悲しくて、腹が立って、おっきな声でランディを呼んだ。
「ランディ!」
びゅうっと風が吹いた。
大切なものを盗まれた気がして、その風を追いかけた。
真っ青な空に浮かぶ白く薄い月と同じ、掴めるはずもないのに、一生懸命に手を伸ばす。
掴めないから伸ばす。
掴みたいから伸ばす。
ああ、そうだ、誤魔化せるはずなかったんだ。
私はこんなにも……
「……ランディ」
好きを知ってしまっていたんだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる