目が覚めたら【呪いの首輪】と【呪いのおパンツ】をつけられていたけど、これをやった犯人は誰ですか?

くったん

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2章 呪いの首輪と呪いのおパンツ

番外編/それはまるで月のように/ジョニー視点

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眠れない体に慣れたって言い方はおかしいけど、眠れない夜の過ごし方は嫌でも身に付いた。

基本的にリビアと別の部屋。ぼくがゾンビだから、きっと多分、気を使ってくれているんだと思う。

その気遣いがつらいときがたまにあるんだ。

例えばこういう日。

過去を思い出して、考えなくてもいいことを考え出す、今日のような日。

痛みも空腹も温もりも何も感じない。本当にぼくがこの世に存在しているのか、指が食い込むほど自分自身を抱きしめても、何も感じないこの体が、怖くて怖くてたまらない。

不安を煽る材料は揃いすぎていて、それから抜け出すには、心は不安に囚われすぎている。

【呪いの首輪】があれば、【願い事を叶えれば】元に戻れる可能性がある。だから今はこの体でもいい。

そうだと分かっていても、こんな日は誰かと一緒にいたい。でも、一人でいたい。矛盾した気持ち、その原因は分かっている。

「もしもーし……起きてる?」

ギギッと遠慮がちに開いた扉。返事も聞かず勝手に入ってきて、部屋の隅に座っていたぼくの前にしゃがんだ。

つい数週間前に拾ったネコ。もう家族と言ってもいいほどに、ぼくとリビアの心に居着いた。最初は良かった。でも今は、ぼくの心をざわつかせる存在だ。

「こんな部屋のすみっこで何してるの?寝ないの?」
「……寝ないじゃなくて、寝られないんだよ」
「不眠症ってやつ?」
「そう、不眠症ってやつ」

不眠症なわけがない。あの時からぼくは眠れないのに。寝なくていい、そんな体になったのに。

ぼく達の事情を知らないから、ぼくがなぜゾンビなのかも知らないから、ハルがそう言っても仕方ないと分かっていても、思うところがある。

「眠れない時はアレだよ、アレに限ると思う」

眠れないんじゃなくて、睡眠を必要としないんだって。ハルはいいよね。不眠症だなんて言っても毎日眠れるんだ。永遠に眠らないなんてこと、ないんだから。永遠と思ってしまいそうなほど、独りの夜を過ごしたことないんだから。

嫉妬、といえばそれまで。でも、その原因が、ハルの言葉が、真っ暗な部屋にいるぼくを、さらに真っ黒に染め上げていく。

「ホットミルクおいしいよ。それと読書もいいんだって。……あ!頭を使うような本はダメだよ。あと面白いやつもダメ。続きが気になって夜更かし覚悟で読んじゃうし、気持ちが高揚して寝付き悪くなるの。そうなるとえっちな本もダメだね。リビアの取り上げた方がいいかな?」

うるさい、耳障りだ。不眠症の対処法なんてぼくだって知ってる。あーもう、その声ですら煩わしい。その口から、あいつの名前を聞きたくない。

「うるさい!さっきから!」

怒声が部屋に響き渡る。その声を発したのはぼくなのに、ハルの顔を見られない。

でも、見られないことをいいことに、ぼくはハルを責め立てた。

何を言ってるのか自分でも分からないほどに、この体になった時から我慢していた全てを出すかのように。

いったん開いた蓋がなかなか閉まらない。次々に汚い言葉が漏れ出す。漏れ出た言葉がハルを刺して、そして、きっと、傷つけた。

「きみだってぼくと同じだ!人間ですらないじゃないか!」

傷つけたと自覚して、そこでやっと汚い言葉を口にするのを止めた。

ぼくの言葉でハルを刺した。

ハルを見られない。見るのが怖い。

でも、どうせなら泣いていてほしい。

そうすれば謝罪するキッカケが出来るのに。この静けさを、この罪を感じなくて済むのに。

部屋は静まり返っている。

それを打ち破るのは、きみの声。

「甘い、甘過ぎる。こんな夜の過ごし方を知らないなんて勿体ないよ!こんな時だからこそ、顔を上げましょう!」

フンッと鼻息を荒くしたきみをやっと見ることが出来た。

ぼくが声を掛けるより前に、スッと立ち上がって、きみは前を歩いていく。ぼくはそれを目で追う。

「こーーんな真っ暗な部屋にいるから、心も真っ黒になっちゃうんだよ」

勢いよくカーテンが開くと、部屋に明かりが灯った。

真っ暗だったぼくの視界に、眩しいと感じるほどの明かりが射し込む。

窓辺に立つきみの後ろ姿。その後ろに、真ん丸の大きい月。

大きい月が、きみを照らす。

月明かりがきみを透かして、まるで映画のワンシーンみたいなハルの姿に、ぼくは息を飲んだ。

「……綺麗だ」

本当にそう思った。

「うん、心はあった!」

呟いたボクの言葉に振り向くハル。あるはずもない心臓に手を置いた。ない、でも、あった。

あの日、失くしたと思っていたものがここにあった。

ううん、違う。ハルが作ってくれた。

ぼくの心を。

ぼくの鼓動を。

「ゾンビはゾンビでも、ジョニーはジョニーだよ!」

汚い言葉でハルを刺したのに、その傷を埋めるための謝罪も何もしてないのに、傷つけられたハルがボクの傷を埋める。それでいいよと言わんばかりの笑顔をぼくに向けて。

「私も真っ暗で眠れないのよ。やっぱり記憶に触れるのが……怖いの。だからこそこんな日は月見に限るってね」

記憶を探ると言ってた。だから関わりのあるオジサンに会いに行って、自分のことを教えてもらうと。そうすれば、ぼくの呪いが早く解けると。だから、ぼくが気を遣わないように話をしに来たのかも。ぼくのためじゃなくて、自分のためだから気にするなって。

「……あ、違うよ!きっかけはジョニーだけど、自分のためだからね!そんなことよりも、一緒に見ない?」

彼女の優しさに甘えてた。もう掛ける言葉が見つからない。でもいくら言葉を並べたって意味のないように思える。

ハルは謝罪や言葉を望んでいない。一緒に月を見てほしい、それだけ。それだけで、十分だと。

だから肯定の意味で、月明かりに照らされたハルに近づく。

ハルの後ろに立って窓辺に手を置いた。ぼくの腕の間にいる小さなハルが、ぼくを見上げた。

「もしさ、もしね、不安で眠れない日が来たら、こうやって、一緒に月を見てくれる?」

記憶もない、何もない、それでも、真っ暗な中に小さな光を灯している。不安を抱いている瞳に写る、その光は銀色。

自分の不安でいっぱいだろうに、まるで月のようなそれが、ぼくの真っ黒を照らしてくれた。

きっと、月を見たら、今日のきみを思い出すだろう。

だから、月があれば、きみを思えば、こんな夜が来ても、もう怖くない。

そう想わせてくれたのはきみだ。

きみが教えてくれた、この想い。

きみが作った、この鼓動。

「……いつだって、毎日だって、月を見ながら、きみが来るのを待ってる」

それはまるで月のように、ぼくの心を灯したんだ。


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