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第六十四話 白夜刀

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 俺はアイテムボックスを開くと、中に収納されているアイテムからドロップアイテムを見繕って出していく。

 ドロップアイテムのほとんどは、粗野な証などの進化アイテムだが、いくつか目新しいアイテムもある。

 早速、それらのアイテムに鑑定のスキルを発動させていく。



ラルゴクラスタ鋼のインゴット

説明:

 白亜のような純白の色が特徴的な金属のインゴット。
 ラルゴクラスタ鋼は鋼のおよそ10倍の硬度と5倍の重量がある。
その性質上、鋼製の武器よりも上質な武器ができるが、その超重量を御し切るのは達人ですら至難の業だと言われている。


土轟の大斧

説明:

 岩盤竜の竜骨と大地のマナ結晶をふんだんに使用して鍛え上げられた巨大な斧。MPを使用して地面に打ち付けることで、【土轟衝波(グラウンド・ゼロ)】のスキルを発動させることができる。

装備時の物理攻撃力:250



鋼石の塊

説明:

 複数の鋼石が地底奥深くの圧力で一つの塊に圧縮されたアイテム。その小さな塊の中には、膨大な数の鋼石の力が秘められている。



「……とりあえず目ぼしいアイテムはこの三つか」

 新しく手に入れたアイテムの内、【ラルゴクラスタ鋼のインゴット】と【土轟の大斧】の二つは岩盤竜からのレアドロップ品だ。

「ラルゴクラスタ鋼……」

 俺の目の前にあるのは白金のように輝く金属だ。


 ラルゴクラスタ鋼。


 その名前は知っている。なにせ、

「コイツが……転移ポータルの素材か」

 そう。
 転移ポータルの素材になる金属のインゴット。それがいま目の前にある。

「まさか、岩盤竜からのドロップ品だったとはな」

 俺は軽い気持ちで目の前にあるインゴットを手に取った。その瞬間、

「お、重っ!?」

 白金色の金属のインゴットを手に取った瞬間、ズシリっと凄まじい負荷が腕にかかる。

 強化された俺の膂力は鉄や鋼のインゴット程度なら、発泡スチロールを掴む程度の負荷しか感じない。

 筋力を強化し続けている俺ですらここまでの負荷を感じるってことは、このラルゴクラスタ鋼はかなりの重量があるみたいだな。

 しかも、今回は二体の岩盤竜がどちらもドロップしたようで、手元にはラルゴクラスタ鋼のインゴットが二個もある。

「悩むな」

 転移ポータルのためにとっておくか、それともこのラルゴクラスタ鋼のインゴットを使って新しい武具をクラフトしてしまうか。

「うーん……このラルゴクラスタ鋼を使えば、かなり強力な武器がクラフトできそうなんだよな……」

 転移ポータルを作るためにはこのラルゴクラスタ鋼が五個必要になる。それに加えて、まだ見たこともないポータルストーンなるアイテムも必要になる。

 ここは希少な鉱石を転移ポータルのために取っておくか、それとも強力な武器をクラフトしてしまうか。

「ま、良いか。とりあえず今はこれは置いておいて、っと」

 俺はラルゴクラスタ鋼のインゴットを手元に置くと、視線を次のアイテムへと向ける。
 次に手に取ったのは、見上げるばかりの巨大な大斧だ。

 手に持っていると、ズシリっと凄まじい重量が両腕に圧し掛かる。

「づっ……こ、れは……」

 かなりキツいな。

 ラルゴクラスタ鋼もかなりの重量があったが、こちらはそれ以上だ。

巨大な土色の大斧は武骨な形状をしていてかなり持ちにくい。その上かなりの重量があるせいで、筋力値が30もある俺ですら振り回すのが精いっぱいだ。

「ふぅ……コイツは、かなり重いな」

 何回か振り回してみたが、それだけで息が上がってしまった。

「この武器にもスキルが宿っているのか。まずは……それを、試してみるか」

 俺は息を整えると、再び両腕に力を込めて土轟の大斧を持ち上げる。

「くっ……オラっ!!」

 俺は超重量の大斧を頭上に振り上げると、目の前の地面に全力で叩きつけた。すると、衝撃の瞬間に俺の身体からMPが抜けていく感覚があった。

 俺のMPを吸収した土轟の大斧の刀身がドクンっと大きく脈打った、そして、



 ――――ッ!!!



 俺から少し離れた場所が轟音と共に爆発した。

 いや、爆発じゃない。あれは……、

「地面の下から……衝撃波が迸っているのか……」

 地面から噴出した衝撃波は、その付近にあった数本の巨木をまとめて薙ぎ払い、空中へと巻き上げる。
 やがて、空中に巻き上げられた巨大な樹木が地面の上に落下して、轟音と共に地響きを轟かせる。

「づぅぅ……ぉ……」

 頭上に吹き飛ばされた樹木が地面に激突した際の衝撃は、少し離れた場所にいた俺ですら思わず地面にへたり込んでしまうほどの大きさだった。

 巨大な樹に近づいてみると、俺の胴回りほどもある巨大な樹木が、根っこの部分から引っこ抜かれた状態で地面の上に横たわっている。

 これは……。

「すげぇ、破壊力だな」

 樹木が生えていた場所を見ると、そこには巨大なクレーターができていた。複数の樹木を丸ごと上空に吹き飛ばすほどの衝撃波だ。
 このクレーターが、この土轟の大斧のスキル【土轟衝波(グラウンド・ゼロ)】の威力の高さを物語っている。

「ちょっ、ちょっと何っ!? 今の衝撃はッ!!?」
「ご、ご主人様っ!!? ご無事でッ!!!」

 そのまま爆心地を呆然と眺めていると、ログハウスの方から麗奈ちゃん達とメロウ達が慌てて駆け寄って来た。

 メロウ達に至っては周囲を慌てて警戒している。

「あぁ、いや……スマン。敵襲とかではないんだ、ただちょっと新しく手に入れた武器の試し斬りをしていてな」

 俺の周囲を取り囲み、敵襲に備えているメロウ達に、俺は頬を掻きながら事情を説明した。すると、

「馬っっっ鹿じゃないのっ!!! 総二さんっ! アンタねェ!! そういうことをするのなら、せめて一言ぐらい言いなさいよッ!!」

「ご主人様ッ!! 武器の試し斬りをなさるのはご勝手ですが……少しは周辺を警備している我らの身にもなっていただきたいッ!」

 あの……えっと、はい。ごめんなさい。

 滅茶苦茶に怒られてしまった。

 言葉は通じない筈なのに、麗奈ちゃんとメロウは偶然にも同じタイミングで同じことを言ってきた。

 いや、本当にごめんなさい。

 まさか、俺も新しく手に入れた武器のスキルがあそこまで強力なものだとは思いもしなかったんだ。

 麗奈ちゃんとメロウにしこたま怒られた後で、正座までさせられて、そこでようやく俺は許された。

 プンスカと怒り心頭のまま去っていく彼女たちの背中を見送ってから、俺は手元の大斧を見下ろした。

 この土轟の大斧はかなり強力な武器だな。

 純粋な武器としての威力は元より、スキルの土轟衝波(グラウンド・ゼロ)が特に強い。

「ただ……ちと重すぎるな……」

 筋力値が30もある俺ですら一振りするのがやっとだ。これはまともに武器として活用するためには筋力値が最低でも40は必要になりそうだ。

 これだけの超重量級の武器を扱える配下は……一人しかいない。

「これは、グンダ用かな」

 俺は手元の土轟の大斧を仕舞いこんだ。

「ふぅ……」

あぁ、クソ重かった。持っていた手が未だに痺れている。

俺は痺れた手を軽く振りながら、視線をラルゴクラスタ鋼へと戻した。

「あとは……コイツか」

 俺は暫く悩んでから、ゆっくりと頭を振った。

「……使っちまうか」

 現状ではポータルストーンがない以上、ここでラルゴクラスタ鋼を温存しておいても意味がない。

 確かに、転移ポータルの増設はしておきたいが、ここで武具を強化しなかったことが後々に命運を分けることになるかもしれない。

 あるかもしれない未来のことよりも、俺達は今この瞬間を生き延びなければならない。

「温存しておいて、それで死んじまったら何の意味もないからな」

俺はさっそくクラフティングのスキル付け替えると、スキルの効果を発動させる。

「ふぅん……? 結構色々な物が作れるみたいだな」

 剣に、槍に、防具に、盾。
 目の前には十数種類もの武具が選択肢として表示されている。

「うーん……」

 沢山作れるものがあるのは良いことだが、やはりここは武器一択かな。

俺自身が攻撃的な思考が強いというのもあるが、やはり強力で希少な鉱石は防具よりも武器に使いたい。
 
 現状、防具は鉄の装備で十分だしな。

 現在、前衛を任せているゼクトール隊とハーキュリー隊。それとグンダ隊には鉄製の防具を配備してある。

 鉄製の防具の防御力はかなり優秀で、そんじょそこらのゴブリン程度の攻撃ならばビクともしない強度がある。
 なので、防具は鉄で十分だ。

 鉄鉱石なら希少鉱石探知のスキルを使えば、いくらでも手に入るしな。

「と、なると……やはり武器か」

 ただ、武器と言っても俺が扱える武器の種類はそう多くない。

「クラフトに関しては、変に冒険したくはないかな。やっぱりここは剣……」

 ――にしたい。
ただ、それでもこの希少な金属をただの直剣やロングソードにしてしまうのも勿体ないな。

「う~~ん…………んっ!」

 と、作成可能な武器一覧を見ていた俺はある武器に目が留まった。そこには【白亜の大剣】と表示されていた。

「大剣、大剣か……」

 選択肢としては悪くない。

 剣であるから俺でもすんなりと扱えるし、なんならその射程やリーチを生かして槍や、長柄武器のような用途も可能な武器種だ。

「良しっ!! 決めたっ!」

 この白亜の大剣を作ってみよう。

 俺はさっそく目の前にある二個のラルゴクラスタ鋼を素材にして、巨大な一本の大剣をクラフトした。


白亜の大剣

説明:

 鋼よりも硬いと言われる金属――ラルゴクラスタ鋼をふんだんに使用して鍛えられた大剣。
その切れ味は、鉄すら簡単に斬り裂く。

装備時の物理攻撃力:450


強ぉっ!? なんだこの武器はっ!?


 白亜の大剣の攻撃力を見た俺は思わず叫んでしまった。

 未強化の状態で装備時の物理攻撃力が450もある。これは……とんでもねェな。

 白亜の大剣は、処女雪のような純白の刀身が特徴の剣だ。

「デッケぇ……それに凄く重い……」

 手に持ってみると、ズシリとかなりの重量が腕にのしかかってくる。

 流石に土轟の大斧ほどではないが、それでも生半可な筋力の値では振ることすらできそうにない。

 馬鹿みたいな筋力値を誇る俺で、ギリギリか。

「…………」

 俺は近くの木を見つけて、その目の前に立つ。

 白亜の大剣の柄を両手で握り締め、腰を低く落とす。そのまま息を整えて、全身の意識を集中させる。そして、

「ぜえええぇぇぇぇえええぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 気合い一閃。

 全身全霊の力を込めて、足を踏み出した。そのまま数歩ほど走り、身体を回転させて、白亜の大剣を振り回す。


 一閃。


 重さに負けないように遠心力を利用して、巨大な刀身を近くに生えていた木へと叩きつける。
 すると、白亜の刀身が――木の幹へと埋まり込んだ。

 一気に木の幹の半ばほどまで斬り進み、そこで止まった。

「凄ぇ……」

 流石に一刀で巨大な木の幹を斬り飛ばすまではいかなかったが、それでも一撃でこの切れ味だ。

 俺は木の幹の半ばほどまで埋まり込んだ白亜の刀身を見て、満足げに頷いた。でも、そこであることに気づいた。

「……ちょっと待って。
 これ……どうやって抜けばいいんだ」

 見れば白亜の大剣はその巨大な刀身が綺麗なまでに木の幹に埋まっている。引いてみるが、当然ビクともしない。

「…………」

 これは……やっちまった、かも。
 いや、確実にやっちまったよね、これ……。

「どうしよう……」

 押してみても、引いてみても、白亜の刀身はビクとも動かない。

「仕方ない。この木をぶっ壊すか」

 俺は溜息をつきながら腕をまくって、手のひらを白亜の刀身が埋まり込んだままの木へと向けた。



 結局、木を真ん中からぶっ壊して無理やりに白亜の刀身を取り出した。白亜の大剣が半ばまで埋まり込んでいたおかげで少し衝撃を与えるだけで簡単に木は倒れてくれた。

 そこで木の断面を見た俺は驚愕した。

 木の表面が、鋭い刃物で切断されたようにツルツルだったのだ。手で断面に触れてみれば、白亜の大剣の切れ味の凄まじさが分かる。

 どうやらこの恐ろしいまでの切れ味こそが、白亜の大剣の最大の特徴みたいだ。

「普通、大剣ってのはその重量で叩き斬るものだが……コイツはまるで違う」

 とんでもない超重量でありながら、その刀身は日本刀のような鋭さがある。

「まるで、日本刀をそのまま巨大化させたような武器だな、こりゃ」

 これは、凄く良い。
 気に入った。

 今後はこの武器をメインウェポンにして、ヒュージゴブリンの宝剣はゼクトールあたりにでもくれてやろう。

「ただ、白亜の大剣……か」

 なんとも武骨で面白みのない名前だな。
 せっかく新しい相棒になるのだから、コイツに名前を付けてやろうかな。

「ただ、名前……ね」

 自慢じゃないが、俺はネーミングセンスってやつが皆無だ。でも、どうせ名前を付けるのならカッコイイ名前の方がいいよなぁ……。

「白亜……純白の刀身……処女雪……雪、か」

 よしっ!
 決めたっ!!

「お前の名前は“白夜刀(びゃくやとう)”だ」

 雪と言えば北極が真っ先に思い浮かんだ。

聞いた話によれば真夏の北極では一日中、陽が沈まない白夜、という現象が起こるという。

 日が陰らず、いつまでも美しい白の輝きを放つ雪景色のように、折れず、曲がらず、絶対に壊れない……という思いを込めて名付けてみた。

「まあ、悪くはないかな」

 ネーミングセンスがない俺にしては良くできた方だ。

 愛剣の名前が決まったら、さっそく強化のお時間だ。

 都合の良いことに、手元には鋼石の塊というアイテムがある。これを使えば、白夜刀を強化することが可能だ。
 手元の鋼石の塊を使って、白夜刀を一気に+3まで強化させる。

 +3まで強化すると、鋼石の塊は粉々に砕け散って消えてしまった。どうやらこの鋼石の塊は、鋼石十二個分の効果があるみたいだな。

 +3まで強化したおかげで、白夜刀の装備時の物理攻撃力がとんでもないことになっている。

「……装備時の物理攻撃力がとんでもないことになっている。まるで化け物だな、こりゃ」

 白夜刀を+3まで強化すると、武器自体の攻撃力が一気に630まで上昇した。

 今の俺がこの白夜刀を装備すれば物理攻撃力の値が余裕で1000を超える。

 どうやら今回の強化で、俺はとんでもない馬鹿火力を手に入れてしまったみたいだ。

「ふむ……?」

 流石にこの巨大な大剣を腰元に装備することはできないので、巨大な鞘をクラフトして背中に背負う形で装備する。

 これで良し、っと。

 白夜刀を背中に装備すると、代わりに今まで使っていたヒュージゴブリンの宝剣をアイテムボックスのなかへと仕舞いこむ。

「見てくれは少し悪いが、まあ悪くないか」

 良いね。

 新しい武器を手に入れて、こうして装備を変える瞬間はまるでRPGゲームのようだ。ワクワクするね。

 俺は軽く伸びをすると、周囲を見渡した。

「これで、アイテム整理は全部終わったかな」

 今回はかなり満足のいく結果になった。後は……。

「運転手さんに、岩盤竜の鱗でも解体して貰いに行くか」

 それとせっかくだし、手に入れた岩盤竜の肉の半分はクラスメイト達にくれてやろうと思う。

 俺は麗奈ちゃん達に一言だけ声をかけて、蘭子先生達のいる拠点の方へ向かって歩き出した。
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