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一章
1話 聖女の裏の顔
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伝授の儀を終えた聖女は、後ろ手で自室のドアを閉めた。
「ったく、やってられないわ!!あのきしょいうすら禿げじじぃ…!」
途端に大声を上げた聖女は、外したベールを床に叩きつけた。
その表情には先程までの儚げさは微塵もない。
「イレーネお姉様! 聖女の法衣をそんな粗末に扱っては駄目よ」
見かねたアマリエ・ヴィヴィオルドは慌ててベールを拾い上げて、洋服掛けに吊した。
アマリエは聖女イレーネの実妹で、彼女付きの補佐神官であり、世話係でもある。
「それになんなの…このダサい服。カビ臭いし…ホント最悪だわ」
アマリエの言ったことを無視して、イレーネは衣装を脱ぎ捨てると、わざわざ踏みつけてから長椅子に腰を下ろした。
「私の出るところはあって引き締まった美しいボディラインが完全に野暮ったい布で隠れてしまうし、今度はいっそのこと夜会のようなドレスを着ようかしら」
イレーネは真剣な顔でそう言い放った。
「これは天蚕と呼ばれる神界の蚕の糸で織られた衣装で、とても希少価値があるものなのよ」
アマリエは拾い上げた衣装の埃を軽く払いながら、何度目かになる溜め息をついた。
「それに夜会のドレスって…イレーネお姉様ったら正気…?」
アマリエは呆れた口調で言った。
胸元と背中がパックリ開いたドレスを着て、民衆の前に出るのは聖職者としていかせん良くないのではないだろうか。
魔物討伐で一部の騎士のやる気が上がるかもしれないが、そんな軽装で戦地に赴いたら、怪我どころでは済まない。
「あんた、私を馬鹿にしてるの?」
イレーネはワントーン低い声で言った。
アマリエはハッとした。
「ま、まさか!滅相もない!私がイレーネお姉様を馬鹿にするなんて!!天地がひっくり返ってもありえないわ!!だってイレーネお姉様は聖女様で…私の自慢の姉なのよ!」
アマリエは慌てて取り繕ったが、イレーネの顔はさらに険しくなる。
(あ、あざと過ぎたかしら)
アマリエがハラハラしてるとタイミングよく女神官が水桶を持ってきた。
「聖女様おみ足を」
「…ええ、ありがとう」
イレーネはアマリエに見せた極悪な顔から、しおらしい聖女の顔に切り替えた。
実妹であるアマリエ以外では、イレーネは健気で儚げな聖女を演じている。
アマリエはその変わり身の速さに感心した。
(イレーネお姉様…まさに女優並ね)
女神官に足を洗われて、ドレスに着替えさせられたイレーネは上機嫌だった。
祝杯を兼ての夜会に出る前に王太子と軽めの昼食を取ることになっていた。
「アマリエ、今日は特別に一緒の席につくことを許可するわ」
「…はい」
急に話を振って来たイレーネに、アマリエは不承不承ながら答えた。
イレーネの魂胆はわかっている。
自分と王太子がイチャついている姿をまじまじと見せつけて、羨ましがらせたいのだろう。
イレーネはそういう性格の悪い…ネジ曲がった性分の持ち主なのだ。
しかし拒否権がないアマリエは大人しく、イレーネの後をついていくことにした。
「ったく、やってられないわ!!あのきしょいうすら禿げじじぃ…!」
途端に大声を上げた聖女は、外したベールを床に叩きつけた。
その表情には先程までの儚げさは微塵もない。
「イレーネお姉様! 聖女の法衣をそんな粗末に扱っては駄目よ」
見かねたアマリエ・ヴィヴィオルドは慌ててベールを拾い上げて、洋服掛けに吊した。
アマリエは聖女イレーネの実妹で、彼女付きの補佐神官であり、世話係でもある。
「それになんなの…このダサい服。カビ臭いし…ホント最悪だわ」
アマリエの言ったことを無視して、イレーネは衣装を脱ぎ捨てると、わざわざ踏みつけてから長椅子に腰を下ろした。
「私の出るところはあって引き締まった美しいボディラインが完全に野暮ったい布で隠れてしまうし、今度はいっそのこと夜会のようなドレスを着ようかしら」
イレーネは真剣な顔でそう言い放った。
「これは天蚕と呼ばれる神界の蚕の糸で織られた衣装で、とても希少価値があるものなのよ」
アマリエは拾い上げた衣装の埃を軽く払いながら、何度目かになる溜め息をついた。
「それに夜会のドレスって…イレーネお姉様ったら正気…?」
アマリエは呆れた口調で言った。
胸元と背中がパックリ開いたドレスを着て、民衆の前に出るのは聖職者としていかせん良くないのではないだろうか。
魔物討伐で一部の騎士のやる気が上がるかもしれないが、そんな軽装で戦地に赴いたら、怪我どころでは済まない。
「あんた、私を馬鹿にしてるの?」
イレーネはワントーン低い声で言った。
アマリエはハッとした。
「ま、まさか!滅相もない!私がイレーネお姉様を馬鹿にするなんて!!天地がひっくり返ってもありえないわ!!だってイレーネお姉様は聖女様で…私の自慢の姉なのよ!」
アマリエは慌てて取り繕ったが、イレーネの顔はさらに険しくなる。
(あ、あざと過ぎたかしら)
アマリエがハラハラしてるとタイミングよく女神官が水桶を持ってきた。
「聖女様おみ足を」
「…ええ、ありがとう」
イレーネはアマリエに見せた極悪な顔から、しおらしい聖女の顔に切り替えた。
実妹であるアマリエ以外では、イレーネは健気で儚げな聖女を演じている。
アマリエはその変わり身の速さに感心した。
(イレーネお姉様…まさに女優並ね)
女神官に足を洗われて、ドレスに着替えさせられたイレーネは上機嫌だった。
祝杯を兼ての夜会に出る前に王太子と軽めの昼食を取ることになっていた。
「アマリエ、今日は特別に一緒の席につくことを許可するわ」
「…はい」
急に話を振って来たイレーネに、アマリエは不承不承ながら答えた。
イレーネの魂胆はわかっている。
自分と王太子がイチャついている姿をまじまじと見せつけて、羨ましがらせたいのだろう。
イレーネはそういう性格の悪い…ネジ曲がった性分の持ち主なのだ。
しかし拒否権がないアマリエは大人しく、イレーネの後をついていくことにした。
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