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一章

4話 禁忌の書

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「閲覧時間はとっくに過ぎているのですが…」

司書はいぶかしげに、目の前に立った人物を見た。
その人物はフードを目深く被っており、足元までマントで覆われていて、顔も性別すらわからない。

 閉館の時間はとっくに過ぎていた。
館内の戸締まりを終えた司書がようやく帰ろうと思っていたところだった。

 フードの人物は無言で閲覧許可書を机に置いた。
明かりに近づけてそれを見た司書は、驚いて椅子から勢い良く立ち上がった。
それは一般では公開されていないような貴重価値のある文献を見ることができる特別な許可書だった。
つまり目の前の人物は、かなり地位の高い人物ということになる。

「失礼しました!どうぞお入りください」

頭を下げた司書に促されて、フードの人物は館内に入っていった。



フードの人物は手近にあった本棚から、古い文献を手に取る。

『ソレではナイ…アチラだ』

機械的な低い声がした。

 マントからもぞもぞと黒い蝙蝠こうもりが現れて、先導するように奥の部屋に飛んでいく。

 入り口には『禁忌の書庫』と書かれたプレートが掲げられている。
フードの人物は少し躊躇ちゅうちょしたように辺りを見回した。

『何ヲしてオル、早くシろ』

蝙蝠に急かされて、一歩踏み出す。

『コレダ』

蝙蝠が言った。
前足で本に触れるとバチバチと青白い線電気が走った。

『ヤハリ結界を張ッテおるカ』

蝙蝠はバサッと翼をはためかせる。

『オマエの出番ダ』

フードの人物は前に出て、恐る恐る指を伸ばした。
本に触れても今度は何も起こらない。




「お待ちください!」

 図書館から出ようとすると先程の司書に呼び止められる。
出入り口には勝手に本を持ち出しされないように特殊な術式が施されている。
それが反応し、足元に赤い魔法陣が展開していた。

『面倒ダナ』

蝙蝠はそう言うと、口をパカっと開けた。
キーンという高音が発せられて、司書は気を失って倒れた。
それを見たフードの人物は、おろおろし始める。

『気絶させたダケだ、行くゾ』

蝙蝠に言われ、フードの人物は図書館を後にした。

『褒美ダ…お前に“力”を授けてヤル』

蝙蝠が前足で本を掴んだまま、翼を大きくはためかせた。
フードの人物が袖口をまくって、右の甲を見る。
そこには赤い紋章が浮かび上がっていた。
赤々と艶めいた唇が弧を描く。

「これで“ーー”になれる」
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