税務課(魔)~魔法税、取り立てます~

荒谷 改(あらたに あらた)

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第一話 黄金ルーキー?

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 おろしたてでまだ自分の身体に馴染んでない制服の襟をぱりっと正し、アニスはこほんと咳払いし喉の通りをよくしてから、税務課(魔)と記された表札を掲げている扉をノックした。
 ごつん!!
 コツンという手応えがあるのだとばかり思っていたアニスは、その手に返ってきた感触の違いに思わず拳を引っ込めた。
「い、痛い。ひ、ひどい」
 アニスと同じ制服姿の男性が、顔をかかえてうずくまりながら、うらめしい目つきで不平を訴える。ちょうど扉がノックされたタイミングで折り悪くも扉を開いたものだから、アニスは見事にその男性の鼻っ柱に拳を喰らわせてしまった。
「す、すいません。決してわざとではなく」
 この扉から出てきて制服姿ということは、これからアニスの同僚もしくは上司となる人間に間違いない。アニスは必死になって取り繕った。
「いえ、こちらの不注意でもありますし。おや?あなた、見慣れない顔ですが、その制服にその腕章……ひょっとして」
「は、はい!!わたくし、本日よりこの課に配属されました」
 言い終わるのを待たずに男性が割って入った。
「新人さんですね。わかりました。私はレヴと申します。あなたは……アニスさんでよろしいですね」
 胸のネームプレートにさっと視線を走らせると、レヴは確認をとった。
「はい。よろしくお願いします」
 深々と頭を下げるアニス。
「上司から話は聞いてますので、あなたは今日づけで私つきの助手さんとして働いてもらいます」
 アニスにとっては就業一日目の超重要事項を、レヴはなんでもないことのようにさらっと口にした。
「ええ?そうなんですか」
「そうなんです。えーっと実はこっちも説明してる時間がありませんで、アニスさんも勝手がわからずたいへんなのは重々承知してるんですが……えっと、とにかく時間がないので、ついてきてもらえますか?」
 まだ自分の勤め先である課に入室すらしてないし、仕事仲間に挨拶もしてない。したことといえば直属の上司に拳をめりこませただけ。こんな状態でいきなりついて来るよう言われてアニスは混乱の極みに陥っていたが、断る術も道理も見当たらず、とにかく従うしかなかった。
「わ、わかりました。なにかお荷物などは」
 ないですと言われ、アニスは取るものも取り敢えずレヴの後に付き従い、入ったばかりの勤め先の建物から飛び出した。
 厳粛で角ばった佇まいの堅牢な建物。この地域一帯を統括する、いわゆるお役所と呼ばれる機関が、アニスの勤める職場である。アニスが卒業した学校からこの役所への雇用が決まった者は他にもいるが、そのほとんどが男性だ。役所勤めは婚期が遅れる、と膾炙かいしゃされるほど女性からは避けられる職種で、アニスも親に大反対されたのをなんとか押し切って就職を果たしたのだ。
 アニスは手仕事など女性向きとされているものが得意ではなかったし、せっかく高い学費を払って学業を修めたのだから、それを活かすような、できれば頭脳労働とされる類の仕事をしたかった。かといって特別に秀でた才があるというわけでもなく、思いついたのは賃金こそ高くないものの待遇など諸々が安定しているお役所というわけだった。中途半端な野心と中途半端な保守性の、妥協の産物だ。
「アニスさん、急いで」
 念願の勤め先だったはずの建物から、駆け足で離れていく就業初日のアニス。なぜ頭脳労働を求めたはずの自分が、勤務開始のしょっぱなから街中をダッシュしているのか不思議でならない。とはいえ新人の身としては、直属の上司に逆らうわけもいかない。消化できない想いを振り払うように、アニスは全力で腕を振り力いっぱい足を動かした。たちまち前を行くレヴを追い抜かし、目的地も知らぬのに先導する立場に躍り出てしまう。
「ア、アニスさん。あっちです。いかだ乗り場に向かってください」
 頭脳労働勤務者たるレヴは、自ら先を行くよりもアニスに先を任せた方が、筏の発車に乗り遅れる可能性は低いだろうと判断した。新人であるアニスが道に迷わないかといっしゅん懸念したが、アニスは迷うことなく疾風のごとく駆けていく。流し見で確認したアニスの経歴によれば、アニスは街の学校出身者だったからそれも当然だった。
「それにしても、この忙しいときに新人の相手なんかしてられないからさっさと出かけようとしたのに」
 まさか勤務開始時刻の一時間前に出勤してくるとはレヴには思いもよらなかった。
「そりゃまぁ、初日は万全を期して早めに出勤するものですけど」
 かつての自分もそうだった。憧れの職業に念願かなって辿り着き、嬉しさと緊張のあまり一時間前に出勤をして、無人の室内でぽつねんと佇んでいたあの頃の自分が懐かしい。
「にしても、早いですね」
 早朝からの全力疾走で息も絶え絶えなレヴをよそに、前を行くアニスはぐんぐんとスピードを上げすでにその背中はレヴの視界から消えかかっている。ペースは落ちるどころか進むたびに勢いを増しているようだった。頭脳労働に憧れを抱いたアニスではあったが、実のところ学校内では有数の肉体派だったのだ。
「かましてくれた拳もなかなかの威力だったし、期待の新人さん……かな?」
 いまだ赤みが差している鼻っ柱を指で撫でながら、レヴは困ったような笑みを浮かべた。
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