146 / 156
第5部 同棲編
1-2
しおりを挟む「あ…………」
声が、出てこない。喉がひしゃげたのか、枯渇した砂漠の如く。最賀は静かに陽菜の背に沿ったチャックをジジ……と下ろす。
「──俺が怖いか?」
服を一枚、一枚脱がされる。床に落ちる度に、息を整える。下着も、スカートも、ショーツも脱がされて隠し事をさせない姿にさせる。真っ白な陽菜の肌が月夜に晒されて、生え始めた股下の毛すら明るみになる。月経を迎える前の張った胸元も、艶めく伸びた足先まで目の前の男のものだ。
「怖、くない」
「──どうして?」
最賀は一糸纏わず、艶かしい裸体が前にあるのに触れたりはしなかった。瞳の奥底は燃焼した炎の灯火が宿るのに。陽菜の答えを待つ、咎人の如く。
じとりと陽菜を視姦せず、答えを求める。はあ、と息を吐くだけでも緊張する。怖いかと言えば否とは即答しづらい。ただ、最賀は心の内に野獣を飼っており、陽菜へ放っていない。これが事実だ。
「忠さんは、獣を飼っているから……?」
「はは、本当は手酷くされたいから煽ってるのか?」
「それは忠さんが……望んでいるのでは。離れない確信的な証拠が欲しい、とか」
「俺は狡い中年なので……簡単にはなあ」
「忠さんッ!!」
「はいはい、なんでしょうか陽菜さん」
「……クシャミしそうなので、もっとぎゅっとするか、体があったまること……とか」
「──そこは、服着させて欲しい、じゃないのか?」
最賀のシャツボタンを黙って外し、陽菜もお返しと言わんばかりに服を剥ぎ取る。肌着を引っ張ると、慌てふためいて上擦った声は聞かなかったことにした。首から抜けると、引き締まった肢体が外気に晒される。
「こら……好き勝手して」
ふわ、と体が宙に浮いて陽菜は小さく悲鳴を上げた。最賀は軽々と陽菜を横で抱き抱えたからだ。首にしがみ付いた衝動で、スリッパが爪先から落ちる。
「炬燵でするのと、布団……どっちが良い?」
「……炬燵の使い方、間違えてます」
「じゃあ炬燵でゆーっくり、使い方をレクチャーしようか」
「言い方が……凄く、おじさんっぽい……」
「若者言葉も偶について行けんぞ。特に三条との会話」
炬燵の使い方は間違っている。けれども、蜜柑を食べながら年末年始の恒例番組を観る。
途中、体をひんやりとして手が弄って、姫初めをしたのは今思い出すと恥ずかしい。汗だくになり、着ていた半纏を肌けさせて身体を繋げる。互いの熱で溶け合いそうだった。
「足りない物あるか? ほら、あれ……とか」
「あれ?」
「……男には、ない……ほら」
「ああ、そう言えばストック無いかも……」
言った張本人が耳を赤く染め上げて、顔を掌で覆った。生理用品のことを声を大にして言うのは、と配慮したのだろう。言葉足らずでも、雰囲気で何となく察した。
二人は仕事帰りにドラッグストアで、必要な物を籠に詰め込んでいた。泊まりと同棲では質量が異なる。ある程度の物は最賀の家に備わっているが、生理用品や化粧水等細々とした物は買い足さなければならない。
店内は陳列された商品に満ち溢れている。生活用品や食べ物、薬等種類が豊富だ。夜八時まで営業しており、日々生活に追われる人々の暮らしの支えでもある。
「メーカーとか、なんか……その、俺も知っておくべきだよな」
そうか、最賀は二人姉弟である。身内に姉妹がいる場合、切っては切れぬ話題だ。デリケートな話題を慎重に取り扱う姿勢に、妙に納得してしまう。
比べて、早坂は陽菜が生理痛で仕事中顔を青褪めていた時だった。生理か?タンポンと薬あるのか?とやや大き目の声で話し掛けてきたのだ。陽菜は特段気にしなかったが、周囲の女性陣は嫌悪を示した。
当たり前だ。女性同士ならまだしも、異性から生理の話題を声高々に出すのだ。反感を買っても早坂は神経の図太さは院内一である。桃原が尻拭いさせられたのは言うまでも無い。
因みに、桃原はドラッグストアで生理用品をまじまじ観察した後、早坂は総体的な面でこのメーカーが良いと勧めてきたそうだ。怖いもの知らずなのか。
このエピソードを苦笑混じりに陽菜はドラッグストアで、生理用品を籠に入れながら話すと。最賀はやっぱりあいつは最低野郎だと怒気が篭った声音で吐き捨てた。デリカシーに欠ける男だ、とも。
「あと、痛み止めも買っておくぞ。いつも辛そうだから……」
生理痛で仕事に支障が出てしまうのは、時折あった。便秘はするし、何より猛烈な下腹部痛。湯たんぽやホッカイロ、痛み止めを併用してなんとか峠を越している。まだまだ朝晩は冷え込む時期なので、常備するのが得策だ。
最賀と暮らし始めて、毎日が幸せだった。これ以上ない幸福感が訪れ、陽菜は最賀の手を無意識にぎゅっと握る。怪訝そうに最賀は首を傾げたが、大きな手で握り返してくれる。
手を繋いで歩くことが、こんなにも幸せだなんて。
寝食を共にする上司であり、恋人。それでも、五年前のような脆い関係では無い。聳え立つ障害を乗り越えて、今がある。後ろめたさを感じることの方が、最賀に失礼だ。
この温かい日々が永久に続いて欲しい。
何の変哲も無い毎日が愛おしかった。
河津桜が満開になり、春先を鼻先で感じる。
荷物の少なさに、最賀は何度も目を擦っては疑っていた。
隣近所の住人が土地を拡大させたいらしく、問題も起こらず売却が決定した。あっさり、だ。物事がスムーズに進行し過ぎて若干違和感を覚えるも、万事解決である。
無事だった家具も処分するよりは、次の使い手に譲った方がエコだ。箪笥や破壊されなかった洗濯機等も引き取ってくれると言う。お陰様で荷物の運び出しは大掛かりにならなそうだ。
軍手を嵌めて、一秒でも早く荷物を運ぶ。それはもう、黙々と。陽菜は足早に予め纏めてあったケースを玄関先へ搬出する。
──もう、此処に縛られなくて良いんだ……。
最賀は表札を外した陽菜を見届けると、敷地の外で少ない荷物を車に積んでいる。
「さて、荷物軽トラに積んだし。そろそろ行こうか」
「軽トラック、もしかして関さん家の?」
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる