戀の再燃〜笑わぬ循環器内科医は幸薄ワンコを永久に手離さない

暁月蛍火

文字の大きさ
154 / 156
第5部 同棲編

2-3 ※

しおりを挟む



「……やっぱり、嫌な思いさせたな」

 首を横に振るが、最賀は納得していない。苦笑して見せ、無理して明るく振る舞おうとしている。

 最賀は陽菜が旅館に着いてから、概ね二時間後に帰って来た。居ても立っても居られず、靴を脱いでいた最賀に飛び付いた。倒れること無く、抱き留めた男は散々搾取された後だった。

 角部屋に通された陽菜は、一人で悶々とテーブルに突っ伏していた。荷物は既に運ばれており、手配済みで。陽菜はただ、最賀の帰宅を待つ術しか無かった。
 心配で心配で堪らなくて、木目調のテーブルに置かれた湯呑みと急須を眺める始末だ。

 陽菜が最賀の立場ならば、同じ行動を取っていただろう。

 家族の枠組みに押し込んで、魔法の言葉を操って搾取する。そんな身内がいるのならば、一刻も早く距離を取らせたい。そう考えるのは当たり前だ。

「部屋付きの露天風呂で良かった」

「……気兼ねなく入れますしね」

「それに、陽菜と入れるだろう?」

 大浴場を利用するのを躊躇っていたのは、完全に見透かされている。陽菜の顔と内側の膝には痛々しい傷痕が刻まれ、隠し通すのは至難の業だ。一度、公共施設の浴場を利用した時、気味悪がられたからである。

 服を脱いで、掛け湯をして体を手際良く洗った後に湯船に浸かる。体の隅々まで熱が行き渡っていく。

「あ、手のマッサージします」

 大浴場とは異なって、部屋付きの露天風呂は格別だった。深く息を漏らし、髪をかき上げた壮年はやけに気怠げだ。眉間に刻まれたままの皺を、和らげたい。陽菜は最賀の掌を指圧して凝りを解す。

 分厚い掌は、男性の手だ。指が短く手の小さい陽菜とは、大違いである。親指と人差し指の間のツボを押すと、微かに顔を歪ませた。合谷ごうこくのツボは肩凝りや目の疲れに効くと言われている。

 最賀の掌紋は中心から手首にかけて、途中で途切れており、不思議だった。

「……忠さん、あの」

 不意に、額に張り付いた前髪を最賀に上げられる。傷が露わになって、唇を落とす男に身を預けた。まだこの行為に慣れない。傷を愛す人など、誰一人いなかったからだ。

 目が合うと、最賀は優しく笑い掛けてくれる。疲労が滲んだ顔で、陽菜に心配を掛けさせぬように。

「無理して、笑わないで下さい……」

 全部曝け出せたら良いのに、なんて。

 小さな秘密の一つに、地元に帰りたく無いことを挙げた男が何故今回帰ったのか。幾ら姉の子供だろうと心配なのだ。定期的にコンタクトを取ることで、子供を守る第三者の大人がいると釘を刺す。

 己が育った環境を見せるのは、腹の中を探られるのと同様に怖い行いだ。ましてや、最賀の姉は陽菜の母親と似た年上の女性である。心労は計り知れないだろう。

「……何でもお見通し、か」

「きっと、沢山の言葉を浴びたのかな……って」

「まあ、年を取ると多少面倒なことは付き纏うものだから」

「でも……忠さんが、辛い思いをするのは……」

 家族は時として、一番深い傷で抉ってくる。無意識に、他意のないと言わんばかりに。最賀は針の筵の中で、ただ耐えていたのか。

 その言葉の刃で散々傷付いたので良く分かっている。地獄なのだ。時間が早く過ぎ去れば良いと願うほどに。

 陽菜は最賀の孤独に果たして寄り添えるのだろうか。

「…………アンタの熱が──欲しい、駄目か」

 ざば、と熱めの湯が波を打つ。肌の保湿と疲労緩和に効果のある、濁り湯は揺らめく。陽菜の返答をじっと待つ男の獰猛な双眸は、烈火を灯す。

「全部、忠さんのもの、ですよ」

 陽菜の答えは決まっている。頭のてっぺんから足先や毛先まで全て最賀のものであることを。

 露天風呂の囲い岩に腰掛けさせられ、陽菜は思わず生唾を飲み込んだ。最賀は陽菜が許す限り、永遠と深い場所まで連れて行くからである。

 膝の傷に唇が触れる。陽菜は恐る恐る足を広げた。促されている気がしたからだ。だが、最賀は目を丸くする。

「自分で足開いちゃって、そんなに舐められたかったのか?」

「だ、だって……いつも……」

「恥ずかしいのに好きだもんな、これ」

「う、好き……、です、はぁ……ッ」

 くすりと笑う最賀に胸を撫で下ろした途端、足の間に顔を埋められる。唾液でぬるぬると滑る舌先と共に与えられる直接的な刺激に陽菜は身震いした。指とは別物の生温かい物が抜き差しを繰り返す。

「ダメッ、そこ、弱い……ッからぁ! あ、あぁ……」

 秘所を味わわれると、霰もない声が口端から溢れてしまう。抗えずに快楽の渦に飲み込まれそうで、首を横に振る。容赦無く最賀は陽菜を追い詰めて、舐るのを止めない。

「気持ち良くて腰突き出してるのに?」

「ちが、違います……っ! 私、淫乱じゃ、ない……ちがい、ます」

「此処、涎みたいに垂らして俺を誘ってるじゃないか」

「ぅ、う……ッ、ひ、ぃん……っあ、ぁ……強く、吸っちゃ嫌です……」

 やや強引な素振りを最賀は見せる。最賀は普段気遣って生きているのだから、陽菜の前だけでも苛立ちをぶつけて欲しかった。体を捻って、快楽を逃そうとするが、却って逆効果だったらしい。

 陽菜の右太腿に、ビリリッと電流が走ったからだ。

 あまりの鋭い衝撃の後にやって来た、ねっとりとする甘い纒わりにたじろぐ。呼吸が浅くなって、声が抑えられない。綺麗な歯並びの痕跡が肌を彩り、下半身に熱が急速に集まる。痛みと気持ち良いが合わさって、混乱した。

 再開した舌先の愛撫は強烈で、より掻き乱す。頭の中は真っ白になりそうで、また無意識に最賀の前髪を掴んでしまう。

「気持ち良いの、誤魔化したら良くないぞ」

「誤魔化して、なんか……私、変になっちゃうから……ッ」

「最初に教えただろう?」

 獰猛な眼光を向けられて、陽菜は息を呑んだ。体を支配された人形の様に、一気に脱力した。

 力の入った太腿は途端に抵抗を無くしたことで、最賀はより秘所を露わにさせる。陽菜は身を委ねた。それを皮切りに、くっきりと涙を流して畝る媚肉に舌を這われるのだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

優しい彼

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の彼は優しい。 ……うん、優しいのだ。 王子様のように優しげな風貌。 社内では王子様で通っている。 風貌だけじゃなく、性格も優しいから。 私にだって、いつも優しい。 男とふたりで飲みに行くっていっても、「行っておいで」だし。 私に怒ったことなんて一度もない。 でもその優しさは。 ……無関心の裏返しじゃないのかな。

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

処理中です...