カオス・ティアーズ

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クリスタル・シンドローム【1】

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「お願いします…。

僕も研究に全力を尽くしますので、どうか……どうか、家族の事を宜しくお願いします。」


「あぁ、任せておきなさい。

此方の方も新薬の開発は順調に進んでいる。

彼方【かなた】くん、君は安心して研究を続けなさい。

我々も契約である以上、約束は守るとも。」 


リヴァール教授は、僕の言葉に微笑みながら頷く。


僕は、彼のその言葉を聞き終えると彼に背を向けて、 会議室を後にした。


いや、実際の所、僕にはリヴァール氏を信じる以外に道などなかったのである。


彼は世界総合緊急対策科学省・日本第1支部の支部長であり僕の直属の上司だ。


この施設は世界規模での危機により、全世界の国家が国家間協力し迫りくる危機に対処するべく発足した機関である。


そして、その危機とは即ち、奇病であった。


だが、その奇病は単なる奇病ではない。


人類存亡に関わる規模の奇病。


その名を石化病と人々は呼んだ。


石化病とは人体を構成する骨や肉、血や皮膚といった部位が徐々に石のように硬化して行き最後には石の様になってしまう病である。


原因は不明。


感染原も明確には分かってはいないが、ある一部の水に含まれていたとされるMB【メデューサ・ブラッド】と名付けられた成分が原因だと言われていた。


その原理は不明だが、その成分が生命を有する者達の構成物質を無機質へと変化させると言う現象だけは、確認されている。


そんな得体の知れない感染病が大流行し、世界中の人々を石へと変えた。


だが、それは一言で石と言っても一般的に地面に転がる石の類いではない。


透明性を有する言うなれば、クリスタルである。


それ故、周囲の人々が水晶に変わる姿を見た者達は、この病をこう呼んだ。


……クリスタル・シンドロームと。


その世界的な危機が訪れたのは今から十年前の事だ。


当時、世界各国は極端に増え続ける人口の増加と、天候異常によって続く猛暑によって深刻な水不足に陥っており……。


世界中で脱水症状や熱中症で亡くなる者が多発していた。


そんな中で水を確保出来る者は政府要人と、経済的に裕福な資産家達のみ…。


故に言うまでもなく、多くの者達が欲していたのである。


水の恵みをーー。


故に、そんな中でもし雨が降り注ぐような事があったならば、渇して水を慕う人々が必死に水に群がるのは必定であろう。


そして、その【もし】が十年前のあの日に訪れた。


当時、水不足は深刻な状態であり良くて一世帯2日で5リットル。


悪ければ一週で5リットルと言う、とてつもなく過酷な状況であった。


そんな中、雨などが降ったならば誰もが、その雨の恵みに群がるのは必定であろう。


僕の両親や祖父達等の残された家族達は他のクリスタル・シンドロームの犠牲となった人達と同様、その雨の恵みを求めた。


僕と皐月【さつき】姉さん、弟の優季【ゆうき】は未成年だった事、そして運良く保護対象枠に入れた事が幸いし保護施設にて比較的、優遇された生活する事が出来ていたのである。


そんな外界の過酷な状況など知る事なく…。 


そして、ある日、僕達は唐突に今、起こっている悪夢を告げられる事になった。


クリスタル・シンドロームによる悪夢の現状をーー。


だが、幸か不幸か僕の家族が住む地域に降り注いだ雨にはMB含有量が比較的、少なかったらしく何より両親達が発見されたのも早期であった為、対処も早かった。


その為、家族の石化症状の進行は他者に比べて軽微な方であり早急にコールドスリープ処置が施されたのである。


これも幸運と言うべきなのかも知れない。


何せ、病気の進行を止めるとまではいかないまでも、少なくとも進行を遅らせる術が発見されて間も無い内に、家族達が発見され即時対処を行って貰えたのだから。


だが、幸運と呼べるのは、そこまでだった。


何故なら病気の進行は飽くまでも、病状を遅らせられると言うだけの事に過ぎなかったからである。


つまり状況は切迫していたのだ。


そして、僕と姉、弟を除く家族達が石化病と言う悪夢の犠牲になってより十年…。


僕は両親達を救う為に世界総合緊急対策科学省、通称【世総科】への就職を希望したのである。


当然、容易い道ではなかったが僕は死にものぐるいで、世総科に就職する為の条件をクリアした。


その条件とは科学的分野で一定水準の成績を収め、何かしらの結果を残す事。


それが世総科で仕事をする為の条件だった。


そして、世総科に配属された者の家族は色々な面で優遇されるのである。


その1つが、石化病の最新治療を受けられる事であった。


だからこそ僕は志願したのである。
 

無論、姉や弟も志願はしたが、世総科への配属基準をクリアしたのは僕だけだった。


だが、それで良かったのかも知れない。


皐月姉さんや優季には普通に生きて欲しいから。


普通に幸せになって欲しいから…。


だから、これで良かったのだと僕は思う。


だが、それ故に僕は為さねばならない。


僕が成し遂げるべき研究をーー。


そして、得なければならない。


家族を、そしてクリスタル・シンドロームに苦しむ人々を救う為の研究成果をーー。 

 
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