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ラスボスと友達になった
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「えっと……」
「いや、別に嫌ならいいんだが」
――むしろ断ってくれ。
自分から言い出しといてなんだが俺は切実にそう願った。
「携帯電話……家に置いてる……」
捨て犬のように目を潤まして俺を見てくるラファエル。
別にメアド交換なんて今日でなくてもできるだろう。
だが、こいつの顔には今すぐにって書いてあった。
(……こいつ、本当に友達いないのか?)
なんと言いますか――心中お察しします。
「待ってて今取ってくるから! ……やっぱ、ついて来て!」
今度は逆に俺が手を取られる側になって再び走ることになろうとは……。
なんと強制連行された先はオートロック付きの高級マンション。
なんていい所に住んでやがるんだ。正直羨ましい。
それなのにスーパーでは値札を吟味って……。
やはり俺は見てはいけないものを見てしまったらしい。
「ここが私の部屋。さあ、上がって」
「お邪魔します」
玄関扉からしていかにも金持ちが住んでますって感じだ。
俺の家なんてインターホン未実装。レベルが違い過ぎて比べるのが恥ずかしい。
そんな雑念が俺の心で蠢く中で言われるがままに部屋に上げてもらったわけだが、家の中は俺が抱いたイメージとは大きくかけ離れていた。
(これは……)
まさに必要最低限のものしか置いてないって感じ。
部屋に上げられるまでは妬みもしたが、そういった感情の一切が消し飛ぶほどに本当に何もなかった。
「荷物持ちありがとう。テーブルの上にでも置いといて」
「……お、おう」
何もない家で一日をどのように過ごしているのかはまったくの謎だったが、それよりも俺が気になったのは“部屋干し”の衣類だ。
――まったくもって残念でならない。
女子高生やってるならもうちょっとオシャレを意識してもいいのではないだろうか? 流石に中学生が着てそうな服ばかりをチョイスしているのは個人的にどうかと思う。
思わず溜息が出そうになったが、そんな俺にトドメを刺してきたのはなんと下着という本来なら“凶器”と成りうるものだった。
(貧乳なのは見りゃわかるが、さすがに全部スポーツブラはねぇーだろ……)
あまりにも魅力がなさすぎる……。
俺はその時点で何か用事を思い出して帰りたくなった。
「どうぞ座って。何か飲む?」
「……いや、お構いなく」
メアド交換だけしたらすぐに帰らせてください。お願いします。
それにしても、なんてことだ。
初めて入った異性の家がこんなにも夢がないものだったとは……。
これはノーカン。なかったことにしよう。
「これ、私の携帯電話」
「おう」
「……で、メアド交換ってどうやるの?」
今時爺婆でもメアド交換ぐらいはできるだろうと思いながらも、俺はラファエルから奪い取ったスマホの個人情報を見て絶句した。
(初期のメアドのままじゃねぇーか……)
俺ですら人間界初日でメアド変更したというのにこいつは……。
俺の精神が無我の境地に突入する中で、赤外線通信でメアドと電話番号を交換する。そして間髪入れずにメールを送信。
「よし、届いた」
マナーモードだったらしくブルブルと震えるラファエルのスマホ。
気のせいか、背後から鼻息を思わせる生暖かいものが俺の首筋に当たっていたが、この際それは無視することにした。
「おおーッ!」
自分のスマホに送られたメールを確認したラファエルはマジックショーでも見た子供のように感嘆の言葉を漏らすと、尊敬するような眼差しで俺を見てきた。
このぐらいの事は本来できて当たり前なんですけどね……などとは言うまい。
とりあえず最低限必要なことだけを教えておくとしよう。
「メールと電話の掛け方はわかるか?」
「なんとなくは……」
「イエスかノーかで聞いている」
「ノー……」
よもやとは思ったがやっぱりか。
するとこいつは月々無駄に携帯代を払い続けていたというわけだ。マヌケめ。
「電話はこのアイコンをタッチ、メールはその隣の手紙のアイコンをタッチすれば送れる」
「そうなんだ」
「とりえず練習でメール送ってみ」
「やって見る」
まるでテレビゲームのコントローラーを持つように両手を添える不慣れな様子は、見ていて言い知れぬ不安を覚えさせられる。思わず奪い取りたい衝動に駆られたが、俺はその感情を抑えてメールが来るのを待った。
「おっ……きた」
「本当?」
「ほれ、お前がコレ送ったんだろ?」
タイトル『はじめまして』内容は特になし。
まさに初心者オブ初心者。ある意味感動した。
「んとな。お前は件名しか入れてなかったが、その下に内容を書き込む欄があるだろ?」
「もう一度送ってみる」
タイトル『初めまして』内容『こんにちは』ってマジかよ……。
うーん……まあ、いいか。覚えただけでも良しとしよう。
「メールはそれでいい。次は電話してきてみ」
「どこ押せばいいの?」
「連絡先ってところがあるだろ」
「あった」
「で、俺の名前があるだろ?」
「うん」
「それをタップしたらいい」
「タップ?」
「押せばいい」
「わかった」
通話はメールよりもむしろ簡単だ。動物園のサルでもできる。
もしもこれができないようであれば、即刻帰らせていただきます。
「はいはい、もしもし」
「できた」
「おう」
「ありがとう」
「まあ、そんな感じだ。んじゃ、もう帰るわ」
「下まで送ってく」
「別に気を使わなくてもいいぞ」
「いいの。送らせて」
たしか天界の戒律では無暗に人の記憶や知識を読んだらダメなんだっけか?
他人の知識を読めば簡単に分かることなのに難儀なこった。
その点、魔界にそういった制約などは一切ないので魔界に生まれてよかった。
「また明日学校で」
「おう、じゃーな」
なんとかラファエルとは別れられたが、その心中は穏やかではない。
本来ラファエルは倒すべき敵なんだよな。たとえそれが俺の役目でないとしても……。しかし現状を振り返ってみると完全に馴れ合いでしかない。まったくもって情けない話だ。
――しっかりしろよ!
という思いを込めて、誰もいない事を確認してから電柱を殴ってみると予想以上に痛く、その場でしばらく悶絶した俺は大人しく帰路についた。
「いや、別に嫌ならいいんだが」
――むしろ断ってくれ。
自分から言い出しといてなんだが俺は切実にそう願った。
「携帯電話……家に置いてる……」
捨て犬のように目を潤まして俺を見てくるラファエル。
別にメアド交換なんて今日でなくてもできるだろう。
だが、こいつの顔には今すぐにって書いてあった。
(……こいつ、本当に友達いないのか?)
なんと言いますか――心中お察しします。
「待ってて今取ってくるから! ……やっぱ、ついて来て!」
今度は逆に俺が手を取られる側になって再び走ることになろうとは……。
なんと強制連行された先はオートロック付きの高級マンション。
なんていい所に住んでやがるんだ。正直羨ましい。
それなのにスーパーでは値札を吟味って……。
やはり俺は見てはいけないものを見てしまったらしい。
「ここが私の部屋。さあ、上がって」
「お邪魔します」
玄関扉からしていかにも金持ちが住んでますって感じだ。
俺の家なんてインターホン未実装。レベルが違い過ぎて比べるのが恥ずかしい。
そんな雑念が俺の心で蠢く中で言われるがままに部屋に上げてもらったわけだが、家の中は俺が抱いたイメージとは大きくかけ離れていた。
(これは……)
まさに必要最低限のものしか置いてないって感じ。
部屋に上げられるまでは妬みもしたが、そういった感情の一切が消し飛ぶほどに本当に何もなかった。
「荷物持ちありがとう。テーブルの上にでも置いといて」
「……お、おう」
何もない家で一日をどのように過ごしているのかはまったくの謎だったが、それよりも俺が気になったのは“部屋干し”の衣類だ。
――まったくもって残念でならない。
女子高生やってるならもうちょっとオシャレを意識してもいいのではないだろうか? 流石に中学生が着てそうな服ばかりをチョイスしているのは個人的にどうかと思う。
思わず溜息が出そうになったが、そんな俺にトドメを刺してきたのはなんと下着という本来なら“凶器”と成りうるものだった。
(貧乳なのは見りゃわかるが、さすがに全部スポーツブラはねぇーだろ……)
あまりにも魅力がなさすぎる……。
俺はその時点で何か用事を思い出して帰りたくなった。
「どうぞ座って。何か飲む?」
「……いや、お構いなく」
メアド交換だけしたらすぐに帰らせてください。お願いします。
それにしても、なんてことだ。
初めて入った異性の家がこんなにも夢がないものだったとは……。
これはノーカン。なかったことにしよう。
「これ、私の携帯電話」
「おう」
「……で、メアド交換ってどうやるの?」
今時爺婆でもメアド交換ぐらいはできるだろうと思いながらも、俺はラファエルから奪い取ったスマホの個人情報を見て絶句した。
(初期のメアドのままじゃねぇーか……)
俺ですら人間界初日でメアド変更したというのにこいつは……。
俺の精神が無我の境地に突入する中で、赤外線通信でメアドと電話番号を交換する。そして間髪入れずにメールを送信。
「よし、届いた」
マナーモードだったらしくブルブルと震えるラファエルのスマホ。
気のせいか、背後から鼻息を思わせる生暖かいものが俺の首筋に当たっていたが、この際それは無視することにした。
「おおーッ!」
自分のスマホに送られたメールを確認したラファエルはマジックショーでも見た子供のように感嘆の言葉を漏らすと、尊敬するような眼差しで俺を見てきた。
このぐらいの事は本来できて当たり前なんですけどね……などとは言うまい。
とりあえず最低限必要なことだけを教えておくとしよう。
「メールと電話の掛け方はわかるか?」
「なんとなくは……」
「イエスかノーかで聞いている」
「ノー……」
よもやとは思ったがやっぱりか。
するとこいつは月々無駄に携帯代を払い続けていたというわけだ。マヌケめ。
「電話はこのアイコンをタッチ、メールはその隣の手紙のアイコンをタッチすれば送れる」
「そうなんだ」
「とりえず練習でメール送ってみ」
「やって見る」
まるでテレビゲームのコントローラーを持つように両手を添える不慣れな様子は、見ていて言い知れぬ不安を覚えさせられる。思わず奪い取りたい衝動に駆られたが、俺はその感情を抑えてメールが来るのを待った。
「おっ……きた」
「本当?」
「ほれ、お前がコレ送ったんだろ?」
タイトル『はじめまして』内容は特になし。
まさに初心者オブ初心者。ある意味感動した。
「んとな。お前は件名しか入れてなかったが、その下に内容を書き込む欄があるだろ?」
「もう一度送ってみる」
タイトル『初めまして』内容『こんにちは』ってマジかよ……。
うーん……まあ、いいか。覚えただけでも良しとしよう。
「メールはそれでいい。次は電話してきてみ」
「どこ押せばいいの?」
「連絡先ってところがあるだろ」
「あった」
「で、俺の名前があるだろ?」
「うん」
「それをタップしたらいい」
「タップ?」
「押せばいい」
「わかった」
通話はメールよりもむしろ簡単だ。動物園のサルでもできる。
もしもこれができないようであれば、即刻帰らせていただきます。
「はいはい、もしもし」
「できた」
「おう」
「ありがとう」
「まあ、そんな感じだ。んじゃ、もう帰るわ」
「下まで送ってく」
「別に気を使わなくてもいいぞ」
「いいの。送らせて」
たしか天界の戒律では無暗に人の記憶や知識を読んだらダメなんだっけか?
他人の知識を読めば簡単に分かることなのに難儀なこった。
その点、魔界にそういった制約などは一切ないので魔界に生まれてよかった。
「また明日学校で」
「おう、じゃーな」
なんとかラファエルとは別れられたが、その心中は穏やかではない。
本来ラファエルは倒すべき敵なんだよな。たとえそれが俺の役目でないとしても……。しかし現状を振り返ってみると完全に馴れ合いでしかない。まったくもって情けない話だ。
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