魔界軍雑兵の偵察任務

水無月14

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黒幕

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 「この子、操られてる」
 そう言って俺を見るラファエル。一瞬は何を言ってるのかわからなかった。
 しかし、ラファエルを信用すると決めた以上は疑うだけ野暮ってものだ。
 「誰にだ……?」
 「この魔力は知ってる。メフィストフェレスという魔族。ここ最近、裏でこそこそと動き回ってる魔族がいるのは知ってたけど、どうやらその黒幕かもね」
 ラファエルは過去を匂わせたが、その悪名ぐらいは俺でも聞いた事がある。
 ――魔界でも屈指の魔術師。
 単にそれだけなら聞こえがいいが、残忍で度を超えた実験の数々は他の魔族の不興を買い、その結果として先代魔王によってその地位を追われた異端の魔族。
 人間界でいうところのマッドサイエンティストというやつだ。
 (そんな奴がどうしてマリと接触を……?)
 いや、それより今は洗脳を解くのが先決だ。
 事情とやらはマリの口から直接聞いた方が早い。
 「……どうすればいい?」
 「本当は術者を倒すのが一番確実でてっとり早いのだけど、いない以上はあなたの力を使うしかないわね」
 「補佐とかじゃなくて俺がメインか?」
 「私が無理に洗脳を解こうとすれば、この子の精神が壊れる恐れがある」
 ラファエルに出来ない事を俺がすることになろうとは悪い冗談だ。
 反能力に代表される魔力にも天力にも属さない天地創造の力“無力”は存在こそ太古の時代から確認されているものの、使い手が少なく、その多くは謎に包まれているという不確かな代物だった。
 歴代の伝説的な魔王や天王はこの力を自由に扱えた言われているが、反則的に強力ながらも固有能力が個々によって異なる事で知られるこの力は、よく知られているものだけで『反能力』『創造(ジェネシス)』『断裂(ラーハイド)』『空間(ディメンション)』『共鳴(レギナンス)』の五大能力。
 その中でも反能力は無力の代名詞と言われるぐらいに発現者が多く、単に無力とだけ言えば大抵は反能力を指す。
 「この子を助けたいのなら、あなたの能力覚醒は絶対条件かもね」
 「元々嫌な予感はしてたんだよ……」
 他者が持ち得ない特殊な力を持っていると知って喜ぶとは限らない。
 そんな俺の憂鬱は歴史が示す通り、無力を扱う者の多くは夭逝だということだ。
 もちろん、その理由は考えるまでもない。
 他を寄せ付けない優れた力は誰もが欲しがって然るもの――。
 当然の結果として少数派が理不尽な扱いを受けるのは目に見えて明らかなぐらい分かりきっている。
 俺にとっては望まない力だが、自分の行動に後悔はしたくない。
 そこに葛藤こそあったものの、俺はよく考えてその答えを出した。
 「……助けるよ。ここで死なれて化けられたら困るしな」
 「そう言うと思った。コツは分かるの?」
 「まあ、なんとなくは……」
 おそらくだが感情の高ぶり。そしてその感情の解放こそが答えに違いない。
 不安、恐怖、絶望、焦燥、渇望……二人の戦闘中に俺の中で取り巻いていた感情だが、共通するのはいずれも負の感情だということだ。
 今までは知らずのうちにそういった感情を抑えこんできたが、状況的には変わらず体内にニトログリセリンを抱えているようなもので、いつ覚醒という名の爆発を起こしてもおかしくないのは何も今に始まったことではない。
 (まあ、早い話が自身を追い詰めればいいってことだよな……)
 ラファエルに頼んで殺気にでも当ててもらえば、それが覚醒の起爆剤と成り得るだろう。 
 そう思い、目途が立ったところで一息ついた時だった。

 「えっ……?」

 何かがズブリと俺の体を貫くような感覚。
 途端に背筋を伸ばしたくなるような衝撃は未だかつて感じたことがない異質なものだった。

 「…………ッ」

 やがて胸部から感じるのは染みるような痛み。全身から嫌な汗が噴き出た。
 ――何かの冗談だと思いたい。
 確かめるように胸部に手を伸ばしてみると異物が俺の手に当たった。
 (この形状は……棒……?)
 否、これは杖だ。杖が俺の体を貫いているんだ。
 「ぐッ……マジかよ……」
 口から溢れ出る夥しい量のどす黒い血。うまく呼吸できない。
 すぐさま片膝を地についた次の瞬間には貧血の時のように意識が飛びそうになるも、痛みが邪魔してくれたおかげで辛うじて俺は意識を保ってるような状態だった。
 (やべえ、これ死ぬかも……)
 人間界に足を踏み入れた時より覚悟はしていた。
 しかし、実際にその場面になると自分の命がとてつもなく惜しい。
 (嫌だ……まだ死にたくねえよ……)
 俺がそう思った矢先――無情にも杖は消え失せた。

 「うあああああああああああああっ!?」

 堤防を決壊させたように胸部の風穴から溢れる血。
 両手で塞いだところで一向に止まる気配がない。
 藁にもすがる思いでラファエルに助けを求めるも、無様なその行為は全くの無意味だとわかるまでに時間は掛からなかった。
 「ラファ……エル?」
 一体どこを見ている。 ……俺の後ろ?
 そうか俺は後ろから攻撃されたのか。
 だとすれば最後に自分を殺した奴の面ぐらいは見ないと割に合わない。
 そう思い俺は最後の力を振って大の字で仰向けに倒れた。
 「ほう、人間にしてはなかなかしぶとい」
 そこにいたのは面妖な爺。感じる魔力は魔族のそれに違いなかった。
 つまり未来ある若者である俺が、こんな棺桶に片足突っ込んだような爺に殺されるってことらしい。 
 ラファエルにならいざ知れず、こんな爺に殺されるなんて死んでも御免だ。
 「やはり黒幕はあなただったのね。メフィストフェレス」
 メフィスト……やはりこの爺がそうか……。
 直感だが、一つわかった事がある。
 こいつは超越者だ。それもかなり強力な力を持った……。
 「ラファエル相手に魔王の娘程度では力不足か。次はわしが直接相手をしてやるとしよう」
 「……実力で私に勝てるとでも?」
 「ホッホッホ、第一線からは退いたとは聞いたが、それでもこれほどとはな」
 「それがわかっているのなら、ここで死んでもらえるかしら?」
 「ラファエルともあろう者が何を怒っている? まさか、この小僧を殺したことが――」
 「それだけじゃない。魔王の娘を私に嗾(けしか)けた件といい――やり方そのものが気に入らない。万死に値するわ」
 正真正銘“本物”の殺気。それだけで地面が割れた。
 そしてラファエルは間髪入れずに攻撃を仕掛ける。
 瞬く間にその戦いは町を廃墟に変えるぐらいの勢いとなり、先刻のマリとの戦いではラファエルがいかに手を抜いて戦っていたのかが、よくわかるものとなった。
 「ぬう……やりおる」
 あらゆる魔法を駆使して戦うメフィストフェレスだったが、やはり相手が悪かったらしい。善戦こそしたものの、ラファエルの猛攻に抗しきれるわけもなく両手首を切断された次の瞬間には容赦なく首を刎ねられ――その後地面には無残な老人の遺骸が無造作に転がった。
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